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32粒目

「!?」

『……』

「!?」

『……』

ダンディの反応は予想はしていたけれど、

「!?」

「……何か言えの」

予想以上だった。

狸擬きの背に乗るミミズクに、絶句したまま固まっている。

「……自分の伴侶こそが世界一可愛いと思っていたけれど」

けれど。

「同じくらい可愛い子が存在したとはっ!!」

仰け反って悶えている。

この全身全霊でのリアクションは、

「……あれの、目にうるさいと言うやつの」

ダンディの相棒の白いフクロウは、日々これに付き合わされてるのか。

大した忍耐力だ。

頭を抱えてこの絞られた雑巾の様に身体を捻るダンディには、

「たまたま山にいたから連れてきた」

と言うべきか、

「遅れてきた仲間」

と言うべきか男と迷ったけれど。

この国は野生動物の取り扱いにはとても「デリケート」な問題らしいため、仲間と言うことにした。

ダンディがそれを信じる信じないはさておき、ダンディの獣の国の組合長という立場上からしても、

「我等の仲間」

の方が、無駄な心労を感じずに済むだろうからと。

あの後、ミミズクと共に河川港に置いた馬車まで戻り、馬たちにも一応紹介し、街に戻り。

『街は上から見下ろすことがほとんどなので、こうやって人の視線で街並みを眺めるのはとても新鮮です』

と我と狸擬きに挟まれ、キョロキョロしていた。

食材を買い足している間、ミミズクは狸擬きの背中に乗り、狸擬きと言葉を交わしている。

「お主は何が食べたいのの?」

『辛いものが苦手なくらいで、何でも食べられます』

「甘党かの?」

『その、多少……。でも普段はネズミも虫も食べる雑食ですので』

気恥ずかしそうにハネを揺らす。

「なんとも、誰かさんと違って遠慮を知っておるの」

「フーン!?」

何ですと何ですと!

とプンスコ狸を笑い、ミミズクを見習い街をじっと見渡せば。

「獣向けの食材屋も多いの……」

『僕も、こんな国を見たのは初めてです』

大きく旅をして来たミミズクですら、見ない国らしい。

「獣には居心地がいいらしいの」

『皆、とても大事にされている様ですね』

そして組合まで向かい、仕事中のダンディを呼び出し、一応対面させたのだけれど。

今の挙動ではただのおかしな人間でしかない。

「まぁ、仕事中に呼び出した我等も悪いけれどの」

こうなることは解っていたはずなのに。

男も、身悶えるダンディに、一応申し訳ないと謝っているけれど、

「こんな可愛い子に会えるなら、仕事なんていくらでも放って来ますよ!」

(のぅ……)

この国ではまともな部類の人間なのだろうと思っていたけれど、そうでもないらしい。

今日はまた少し薄めの水色の三つ揃いを着ている。

中から職員らしい女に呼ばれ、

「あぁ!ちょっと待ってくれ、あと5……いや3分……っ」

ではない。

これ以上無駄に悪目立ちする前に、

「仕事しろの」

「フーン」

我と狸擬きの半目に、男が笑いながら、

「昨日の礼に食事に誘おうと思っていた、良ければ仕事の後に宿まで来て欲しい」

と誘っている。

「あぁ!是非!是非!終わり次第すぐに伺わせてもらう!!」

それまで待っていてくれ!

とミミズクを見て、建物の中へ駆け込んで行く。

「……案外浮気性の」

本人も言っていたけれど。

「そうだな」

微動だにせず、ニコニコしているミミズクはさすが、だてに年を重ねているわけではない。

『素敵な人ですね』

とすら感想を溢すではないか。

なんと。

長生きではなく、このミミズクの元々の性格だろう。

宿へ向かうと、

「あれの、お主の止まり木的なものがないの」

『椅子の背凭れにでも留まらせて貰えれば十分です』

と、建物の中の室内という環境に、

『新鮮です』

少しばかりはしゃいでいる。

狸擬きが、フクロウの留まる椅子に飛び乗ると、

「フーン?」

『♪』

また仲良くおしゃべりを始め、我は男と、

「何が良いかの」

夕餉に何を作るか考える。

仕込みのために早めに宿に戻ったから時間はまだまだある。

「リスの肉を焼いて、キノコのチャウダー、オムレツかの」

「いいな」

いや。

「甘党のミミズクのために、甘い卵焼きかの」

「たまごやき、は俺も好きだ」

男と並んで水場に立ち、やっときのこのチャウダーを煮込み始めた頃。

「フーン」

ミミズクと楽しそうに話していた狸擬きが、耳を動かし、我に、

「うるさいのが来ました」

と報告してくれる。

「のぅ、早いの?」

まだ陽も暮れていないのに。

男がドアを開けに向かうと、せわしなくドアがノックされる。

初めて会った時の「ダンディ」のイメージがどんどん崩れていく。

ニコニコと入ってきたダンディは、両腕に抱える差し入れの量からして、あのまま早退してきたのだろう。

着替えてはいるけれど。

そしてダンディの肩に乗ったフクロウと、すいっと振り向いたミミズクと目が合えば。

『……』

『……』

2羽が、ジーッと見つめ合っている。

2羽とも、穏やかで尚且つ知性が高い。

例え相性が悪くとも、このそう広くない部屋で、乱闘などにはならないとは思うのだけれど。

フクロウがダンディの肩から飛ぶと、ミミズクのいる椅子の背凭れに着地する。

『……♪』

『……♪』

どうやら互いの相性は大丈夫らしい。

そういえば山の方を見て、同胞がいると教えてくれたのもこのフクロウだった。

何か癇に触る様ならば、まず我等に伝えて来ないだろう。

ダンディは挨拶もそこそこに、男に差し入れのいくつもの紙袋を渡し、並んだ2羽に、

「あぁ……っ!!」

両手を胸に当て、その場に膝を付きかねんばかりに感極まっている。

「……なんぞ、こやつには、ここが天国でも見えてるのかの」

「見えているんだろうな」

男がダンディから押し付けられた差し入れも気になるけれど、客人が予想より早く現れたため、急いで料理に取り掛からなくてはならない。

「フーン」

代わりに狸擬きが、テーブルに乗り、紙袋の中身を確かめてくれる。

「フーン♪」

ワイン2本。

「フーン」

野菜の酢漬け。

ピクルスか。

「フーン」

主様の作ってくれたスコーンに似たものが入っておりますと。

スコーンだろう。

本日も大盤振る舞いである。

気前のよさだけは認めよう。

2羽を眺めていたダンディが、今度は頭を抱えていると狸擬きの報告。

「……今度はなんの?」

「急ぐあまり、可愛い最愛の相棒の食事を持参するのを忘れたと絶望している」

案の定下らない理由。

「……リス肉を分けるからおとなしくフクロウたちを眺めとけと言っておいて欲しいの」

男が、リス肉の用意をしてありますと言葉選ぶ。

こちらを拝まんばかりのダンディは放っておいて、狸擬きには、買ってきたパンを切り分けてもらう。

フクロウとミミズクは静かに、けれど絶え間なくコミュニケーションを取っている。

ダンディは、ミミズクに大寺な伴侶を取られたとは思わないのかと聞いてもらえば、

「愛する伴侶の幸せを一番に願い、それが叶うことこそが至福」

と。

ほほぅ。

男気はある模様。

「それに」

それに。

「このミミズクも大変に可愛い!」

ダンディは基本獣全般に対して狂っている。

ミミズクは、出来たら普通に調理したものを食べたいと言い、

「えぇっ!?人にもリス肉を出してくれるとは!!」

ダンディはひたすらうるさい。

「……もしかして、これは茶の森のリスですか?」

「そうです」

「おぉ……」

ダンディは、フクロウに生のリス肉を与え、ミミズクにスプーンで掬ったスープを飲ませ、焼いた肉を切り分けて与え。

(甲斐甲斐しいの)

そしてなるほど、ミミズクには珈琲もそうやって飲ませてやればよかったのかと気付く。

ダンディ自身も、食べては美味しい美味しいと驚きつつ褒めてくれる。

河川港の方に向かったと話すと、

「あちらにはあまり大型の動物はいないみたいですね」

うんうんとダンディは頷き、

「しかしなぜ?」

と首を傾げられた。

それもそうか。

「彼の散歩で」

男が狸擬きに視線を向け。

こんな時は便利な狸擬き。

「フーン」

「あぁ、なるほど」

食後に、ミミズクの生まれた土地の名前を男が口にしてみるも、

「……んん、聞いたことがありませんね」

さすがに空を飛ぶだけはある。

想像より遥かに遠くから来ているらしい。

地図を広げると、

「僕のいたと思われる場所は、地図の外れの様ですね」

と、知らない土地の地図に興味津々に眺めている。

「フーン」

狸擬きが、彼に自分達の辿ってきた道の地図を見せたいと。

「の、頼むの」

ミミズクだけでなく、フクロウも首を傾げて地図を眺めている。

ぴたりと寄り添って。

「いつ頃までこちらに?」

ダンディの問いに、

「もうそろそろ、隣の街に向かおうかと」

珍しい国ではあるし、ぐるりと回ってみたい。

そう大きな国ではないから、馬車で回れば大した時間はかからなさそうだ。

「そうですか……」

残念ですと、ちらと名残惜しそうに視線が向かう先は、ミミズク。

「赤の国に着きましたら、是非組合から手紙を下さい」

他の国の組合の事情や国とは別れていることを男が話すと、ダンディも真剣な顔で話を聞いていたけれど。

狸擬きの欠伸に気づいたダンディが、

「失礼、居心地がよく、つい長居してしまいました」

如才ない言葉と共に立ち上がったけれど。

『……』

ミミズクとぴたりと寄り添い、ダンディの上げた片腕にも肩にも留まろうとないフクロウ。

(のの)

「彼等のご迷惑になるよ」

『……』

賢いフクロウはその意味も理解しつつ、微かに身動ぎするも、ミミズクの隣から動こうとしない。

「行こうか」

『……』

「帰ったら特別におやつを上げよう」

『……』

「次の休みに新しいおもちゃを買おうか」

『……』

じっと動かないフクロウに、ミミズクの方が嗜めている気配はある。

(のぅ……)

さすがのダンディも怒るかと思いきや。

1つ息を吐いたと思ったら、

「初めての我が儘!!初めての反抗期!!ああっ!可愛い!!」

今は自身の身体を抱き締めて身悶えている。

「……の、もうこやつだけ追い出してよいかの」

うるさい。

男は微苦笑しつつかぶりを振り、狸擬きは、もう相手をするのも面倒だと、肉球刺繍の布を広げたベッドにポーンッと飛び乗っている。

しかし。

「困ったの」

駄々っ子フクロウ。

するとミミズクが、

『今晩、この方の部屋に僕がお邪魔してもいいか聞いてもらえないでしょうか』

とぽそりと声を掛けてくる。

「おやの」

男伝に、ミミズクも泊めてもらえないかとダンディに頼めば。

「今夜は本当に楽しかった、それではいい夢を♪」

両肩にそれぞれフクロウとミミズクを乗せたダンディが、ここまで人の顔と言うのは崩れるのだなと思わせる笑顔で、寒さなど微塵も感じない様子で、夜の街へ帰って行った。

「なんの、この国の組合の組合長はみなあんななのかの」

「んん、いや、どうだろう」

男の言葉切れも悪い。

赤い国が、今から思いやられる。

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