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28粒目

「ここですね、この狭い川幅の部分で飛び乗って来ましたが、どこに寝床があるかは、全く未知数です」

地図を広げて、男とダンディが話している。

「フクロウに持たせるとしたら何がよいかの……」

「フーン」

主様の唾液ですから、あれだけでも相当に回復したと思われますと狸擬き。

「フーン」

肉がよいのでしょうが、狼が満足する量は、フクロウでは持てませんと。

そうの。

「の、あの川は勝手にお舟を出してはいかのかの」

「そうだな、ぶつかる危険があるし危ない」

テーブルの地図を覗くと、先は細くなり、山が続くけれど、地図で細くあるだけで、実際はそうでもないのだろう。

「とりあえずは話を聞くかの」

狼のツガイ、1頭は子を孕み中。

この時期は珍しいから、そういう意味では見付けやすい。

アパルトメントから歩いて河川港まで向かうと、今日はもう動かない船が停泊しているだけで、人気は少ない。

「狸擬きの」

「フン?」

「お主の毛を1本拝借したいの」

狸擬きは、長い腹の毛を抜くと、

「フーン」

男伝に、フクロウの足にこれを結んでくれとダンディに頼む。

「お主は我の従獣だからの。毛を結ぶだけでも、このフクロウを捕食しようとする鳥を含めた獣の襲撃は避けられるはずの」

ダンディはお守りの言葉を疑わずに、片膝を付いてそのにフクロウを留まらせ、フクロウの片足に狸擬きの毛を結ぶと。

「気を付けるんだよ」

そんなダンディの憂いな表情とは真逆の、

「♪」

ニコニコ笑顔のフクロウは。

ダンディの膝からパッと飛び立つと、すぐに風を掴み、美しく山の方へ飛んで行く。

「おぉ……っ」

ダンディはここでフクロウを待つと行ったけれど、さすがに身体が冷えきってしまう。

戻れば狸擬きが気づくからと、近くの茶屋に入り、気を紛らわしさすために、ダンディの相棒履歴を聞かせて貰う。

ダンディはとても浮気性で、子供の頃から色々なものを飼ったと。

「小鳥は勿論、狼も、馬を広い土地で馬を飼育していたこともありました」

ただ馬は1頭ではどうしても寂しそうだし、昼間1人にしておくのも可愛そうで、大きな馬舎に引き取って貰い、今でも会いに行っていると。

「フーン」

「の?」

狸擬きにせがまれ、アルプス1万尺で遊んでいると、そんな狸擬きにまた興味津々なダンディ。

この獣の国では、獣はペットなどではなく、相棒や伴侶に近かったりするため、不用意に撫でたり触れたりはしないらしい。

(ふぬふぬ)

そうそう近づきたくはないけれど、

(過激派と過保護派の喧嘩は遠目には眺めてみたいものであるの)

さぞや滑稽なのであろう。

男が、今まで出会った、話しても問題ない獣たちの話をダンディに聞かせ、楽しそうに聞いていたダンディは、

「我が国は最近、純粋に山への入山規制をする話もごく一部から出てるんですよ……」

そんな話も聞かせてくれる。

あの田舎の牧場村や、蒼の山の、

「山へは不用意に入らない」

とはまただいぶ違うニュアンスの話なのだろう。

「あぁ、そうでした、隣の街からの娘さんとは、どこでお知り合いに?」

と話題は多岐に渡り、更に狸擬きの身体を好きに触らせ、なんとかダンディの気を逸らせていると。

やがて、

「フーン」

撫でられて過ぎて毛がしっちゃかめっちゃかになった狸擬きが、窓に鼻先を向け、

「帰ってきた」

と。

ダンディが一目散に駆けていくけれど、その前に会計を忘れないのは、やはりダンディらしい。

ついでに、この河川港辺りでは、まだ茶の国のコインも有効だとも教えてくれる。

灰色の雲り空に紛れるように山からふわりふわりと降りてきたフクロウは、軽々とダンディの腕に留まると、

「~♪」

狸擬きに何か伝えている。

「フンフン」

フクロウ曰く、足に結んだ毛のお陰で、快適に山の上を飛べ、更に2頭の巣穴を見つけた時も、狼たちが毛と毛の気配に気づいてくれたため話が早かった。

唾液のまぶされた飴を飲んだメスは、

「今までに感じたことのない身体の回復を感じる。腹の子達にも栄養が回っている。この回復の力だけに意識を向けたいから、しばらく眠る」

と巣穴で眠りに就いたと。

(研師の時と似ておるの)

「そして、起きた時にはきっとお腹が空いているから、獣を狩っていて欲しい」

とオスに伝えたとも。

(ふぬ……)

なんとも、あんな飴玉程度でも、少しの力はあったらしい。

男を通してダンディに、フクロウは充分に役目を果たしてくれたと伝えると、ダンディは、

「難しいミッションに自ら声を上げた勇気、山まで1匹で飛び、狼たちを見付けられたこと、狼たちからの捕食を恐れずにちゃんと話を聞けたこと、ここまで戻って来られたこと、きちんと報告ができたこと、全てがパーフェクトだ!」

を無限に褒め称えている。

(ぬん……)

「……」

日頃から我は、

「冒険するな、無茶をするな、心配させるな」

と男に渋い顔をされるばかりであるなと男を見ると、男はさっと目を逸らす。

同じくダンディとフクロウを見ていた狸擬きが、

「フーン」

わたくしもたくさん褒められたいです、と我を見てくる。

ぬ。

「お主に限って言えば、日頃から食べ物で労っているだろうの」

しかもフクロウの様に小さな肉の欠片ではなく、人と同量の食事量を与えている有り様。

「フーンッ」

言葉でも欲しいのですっ!

とご不満狸。

ふぬ。

「ではお主も、今夜からはフクロウ同様に生肉と木の実を少しやろうの、代わりに言葉でたんまりと褒めてやるの」

「……」

眉間に毛の寄る無言狸。

しばらくの間、1人と1羽の世界に浸っていたダンディが、おすすめの宿の場所を教えてくれ、案内しましょうまで言ってくれたけれど、実はでもなく、ダンディはまだ仕事中である。

場所だけ聞き、組合の前で別れる。

それでも、もう少し話をしたい、明日時間を貰えないかとダンディに誘われ、男が頷いてから馬車を出す。

「……獣の国だな」

「の」

大小の差はあれど、獣の国の人間は皆ダンディの様に獣との愛情を深めているのだ、婚姻率が下がるわけである。

「そのうち獣もの婚姻を認めるのではないかの?」

「それは国が滅ぶな」

「のの」

そうか。

水場がある宿を紹介してもらったため、組合からは離れた街中を進むと、

「のの?」

我よりも大きな子供たちが数人、歩道を歩いているけれど、水色の制服。

ブラウスは白いけれど、女子はボックススカートで、ブレザーも帽子も靴も青く、背負い鞄は濃い青。

「愛らしいの」

「あぁ、いいな」

男の話だと、青の国は、主に働き手が青い服を着ている。

その分制服の括りは緩く、制服は学生までだと。

獣の地位が高くあることは、むやみに自分の相棒に他人が触れることがない、人同様に獣のことを、過剰に詮索しない、などのいい面も多いとも。

ダンディも、自室ではつい好奇心が勝ってしまったと、しばらくのちに、我と狸擬きに謝ってくれた。

街中を進んでいた馬車はやがて大通りから外れ、郊外の宿に辿り着き、少し塗装の剥げた青い宿に落ち着けば。

部屋は、思ったより獣の臭いが少ない。

(宿は外から来る客が泊まるからかの……)

受付で狸擬き用の大きなカゴ型のベッドも持たされた。

「昼のパンが美味しかったの」

「フーン」

部屋自体はは特に特筆すべきことはなく、至って普通の水場のある狭くもなく広くもない部屋。

せいぜい、壁に青い色調のタペストリーとやらが飾られている程度か。

部屋と言えば、あのダンディの洒落た部屋はなかなかに良かった。

我等が家を持っても、飾り気のない山小屋などを考えていたけれど、ああいうお洒落な部屋を夢見るのもまた楽しい。

「平和そうな国だと思ったけれど、この国が一番デリケートそうだな」

男がジャケットを脱いでふうと息を吐く。

「そうの、お主は話題も選ばなくてはならぬからの」

港から離れれば離れるほど、どうやら思想は強くなりそうだ。

けれど、赤の国へ行くは、突っ切るか、川で下るかの2択。

(いっそ川で下るかの……)

あの控えめ目な青狼との再会はなくなるけれど。

あの(むすめ)も、ほんのりと我の男に色を見せていたし。

言付けだけで去るか。

迷うところ。

「抱っこの」

窓際で薄くガラス戸を開き、煙草を咥える男に抱っこをせがめば。

「おいで」

片腕に抱き上げてもらうも、このワンピースにはポケットがない。

代わりに、なんとなしで、男の伸ばす人差し指を握り、男が煙草の先に火を出すと。

「……っ!?」

細い火柱が上がった。

「のっ!!」

微かに煙を出す男の前髪。

「フンッ!?」

カゴの寝心地を確かめていた狸擬きも飛び上がっている。

「の、ののぅ……」

「……き、君は、凄いな」

男に、我の血が混ざってるからだろうか。

「フーン!!フーン!!」

狸擬きがカゴからこちらに向かってくると、

「フンフンフンッ!」

もう一度見たい、もう一度見たいです!

と大興奮で尻尾を振ってくる。

「いや、危ないだろう」

「火以外はどうかの」

「……」

固まる男。

「フーンッ」

火でなければ危なくないです、と狸擬き。

けれど、風は、特に増さず。

風呂場で、獣様のたらいもある風呂場で男の指に手を添えるも、変わらず水も少量が出るだけ。

「……火だけの」

風呂場で屈んで試した火だけは凄い。

我と男の、合わせ技である。

「野外での焚き火などに便利かの」

「フンフンフーン♪」

狸擬きは、わたくしの主様は凄いです凄いです♪とその場でくるくる回ると、自分の肉球を見つめ。

「……フーン」

前足を伸ばしていた。

「の?お主もの?」

前足を軽く握ってやると、

「フーンッ!」

狸擬きは前足に力を込めているらしい。

けれど。

「フーン……」

何も起こらず。

「難しいの」

「フゥン……」

まぁ、我等は、人ではないからの。

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