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124粒目

「でっかい蛇!?」

「そ、それで?」

「……どうなったの?」

そわそわと先を促す3人に。

「兎は美味かったよ」

男がニッと笑い、

「えーっ!?」

「蛇は!?」

「倒したの?噛まれたりしなかったの!?」

男は、じっと間を持たせてから。

「その時、俺に残されたナイフは、1本」

男が指を立てた時、馬車は止まり。

馬車の発着場には、小さな厩舎、こちらにも小さな宿らしきものが建っている。

「それでっ!?」

男は3人に勢いこまれるけれど。

「続きは次の馬車でだ」

外から御者により、扉が開かれた。

「えーっ!?」

あの街を、大都会と言うには言い過ぎにしても、華やかな土地の街っ子ではあるから、男の、旅人の間では珍しくもない、食料が尽きるなんて話も新鮮らしい。

馬車から降りれば、街外れではあるけれど、馬車の客を見込んだ店も多い。

男が御者に礼を伝え規定の料金を支払うと、

「こっちまではなかなか来ないから、新鮮だったよ」

また街中で会ったら声を掛けてくれ、と手を振って帰って行く。

「ここからは、隣の国へ行く馬車も出ているそうだ」

賑やかなはずである。

土産物屋に、馬車で食べるパンなども売られ、森の方への馬車は、出発まではまだもう少し時間があるらしい。

厩舎の馬を眺めていると、狸擬きに興味を持った馬たちが、ぞろぞろとこちらにやって来た。

「フーン」

柵越しに挨拶している。

土産物屋を冷やかし、

「これ何?」

「あ、これ、ピスタチオだよ」

「最近たまに見るやつだ」

西の方から運ばれて来ているらしい。

森へ行く馬車は、荷台に向かい合う形で、低い腰掛け用の板が取り付けられただけの、とても簡素な作り。

親子連れや、森へ入るであろう格好をした男に、仲の良さそうな老夫婦もいる。

男、我、狸擬きで座ると、少年3人はベンチではなく、そのまま我等の前にべたりと床に座り、

「続きはっ?」

と、揃って男を見上げている。

子供たちは、退屈さえさせなければ、そうそう悪いことはしないらしい。

その、

「退屈をさせない」

それが一番難しいのだろうけれど。

「今度は、蛇との獲物の取り合いだ。俺だけじゃない、蛇も見るからに腹を空かせていた」

男は順繰りに少年たちを見る。

「ただの蛇ならよかったんだけどな」

男はしっかり溜めてから、

「それは、毒蛇だったんだ」

深刻な横顔を見せ。

(こやつは語りが上手いの……)

いつかも、そう、白い珈琲の街の小さな学舎。

子供たちを前に、旅の話を聞かせていた。

「俺に残されたナイフは1本。外したら、毒蛇は必ず俺を襲ってくるだろう」

真剣な顔の三馬鹿。

「俺も蛇も、どちらも腹を空かせ、そして切羽詰まってる、条件は同じだ」

周りの迷惑にならぬように、男は声を低く押さえているけれど。

それでも、

「……」

他の客たちは、そう迷惑そうもはなく、むしろ、男の話に興味深そうに耳を傾けているため。

「蛇が頭をもたげた瞬間、俺は、最後のナイフを投げた」

男が、ナイフを投げる素振りを見せる。

実際に腕のある男であるから、その説得力は強い。

「でも」

「でもっ?」

「ナイフは、蛇の左目を擦っただけで、地面に落ちてしまったんだ」

「ええっ!」

「フンッ!?」

我の隣で狸擬きも飛び上がっている。

「そう。もう、絶体絶命だ」

男は、兎を蛇に投げ付けて逃げようとした、その時。

「細い矢が飛んできてな、それは、蛇の頭に見事に貫通した」

それは、大きな森の近くに停まっている馬車を見掛け、何となく気になって見に来てくれた、1人の冒険者が放った矢だったと。

蛇は絶命し、

「事情を話したら、兎を捌く前に、パンを貰えた」

男がパンにかぶり付く真似をすると、周りからもクスッと笑いが漏れ、空気が弛む。

「お兄さんも、冒険者なの?」

サラサラ頭に聞かれ、

「俺は一応、行商人だよ」

「ぎょーしょーにん」

「あんまそう見えないね」

「うん、見えない」

のの。

言われおるぞ、男。


馬車の乗り継ぎ場から森までは近く、背の低い建物も並び、民家もちらほら。

「おやの」

先にはスミレ畑が広がり、森は人の手に寄って適度に間引きされ、陽がよく射し込んでいる。

「僕もナイフ投げてみたいです」

「あ、僕もっ」

「俺は弓がいいな」

「弓は持ち合わせがないな」

男は、すっかり懐かれている。

男が森の手前の広場に荷を置き、敷物を広げている間に。

我は狸擬きと共にスミレ畑へ走ると、小さなバケツを持った蜜蜂たちが、ふわりふわりとスミレ畑を飛び回っていた。

『……』

離れた場所にいた1匹が、またふわりふわりとこちらにやってくると。

『遠い遠い土地の記憶をお持ちと見られる異形のお方、ごきげんよう』

と挨拶をしてくれた。

「ごきげんようの」

一応、カーテシーとやらをしてみる。

そんな我を隣で見ていた狸擬きも、

「フーン」

おもむろに2本足で立つと、後ろ足を交差させ、自分の毛を引っ張り、カーテシー的な構えを見せている。

(ののん)

あまり無理をするでない。

『こちらには、何のご用でいらしたのですか?』

ほんのり甲高く硬い声。

「森があると聞いたからの、眺めに来ただけのの」

ついでにスミレの花が欲しいと伝えると。

『左様で。何か御座いましたら、遠慮なくお声をお掛けください』

「の」

『わたくしたちは、まだしばらく蜜を集めておりますので、スミレの花は、どうぞご自由にお持ちください』

と、我等に背を向けてふわりふわりと飛んで行くも。

その姿に声に、よそよそしさと、僅かな棘すらも感じる。

他の蜜蜂たちからも、チラチラと、様子を窺われている。

(ふぬ?)

何やら。

「……我は警戒されておるの」

「フーン」

とうに平衡を崩し後ろにひっくり返っている狸擬きが、

「フンフン」

あの蜜蜂たちから見れば、主様はこのスミレ花畑など一瞬で塵とする禍々しいものを感じています、警戒されても仕方ないことかと、ともだもだ起き上がる。

ぬぬん。

「蜜蜂たちも、土地によりだいぶ性格が違うの」

いつかの森や山にいた、気さくで人懐っこい蜜蜂たちに比べると、こちらは、なんというか、ツンと澄ましている。

「フーン」

そうですね、目立った天敵がいないため、主様を頼る必要がないからでしょうと。

「ふぬふぬ」

こちらの蜜蜂はしかと自尊心が高めと見た。

振り返れば、少年たちを森へ送り出した男が、こちらへやってきたため。

男に向かって両手を伸ばすと、

「フーン」

ではわたくしめも森へ向かいます、とテテテと駆けて行く。

我を抱っこした男が、

「壮観だな」

と、スミレ畑に沿ってゆっくりと歩き出す。

「の」

「ん?」

「先刻の話は、初めて聞いたの」

食料が尽きた話はだいぶ前に聞いたことがあるけれど、詳細は初めて聞いた。

「そうだな」

そもそも互いに、昔の話はあまり、積極的にはしないのだけれど。

「……情けない話だから、君にはあまり聞かせたくなかったのかもしれない」

ほう。

「そうかの」

男にしがみつくと、

「そうだよ」

スミレの花たちが、ゆらりと揺れる。

男が片手で煙草を取り出し口に咥えたため、ポケットに忍ばせていたマッチで火を点けてやると、蜜蜂たちは、遠目でこちらを窺っている。

なんぞ、自分達の食料庫、スミレ畑に火でも付けられると思っているのか。

(我は随分と信用がないの……)

「ふん」

無用な軋轢は好まぬし、スミレの花の採取は、後程にすることにしよう。


男にせがみ、我等も森へ向かってみると、

「フーン」

頭に背中に枯れ葉を纏わせた狸擬きが、モサモサやってきて出迎えてくれた。

枯れ葉の重なった地面で転がり回っていたのだろう。

少年たちも、元気一杯に森の中を駆け回っていたけれど、我等に気付くと、笑顔でバタバタ駆けて来た。

(まるで犬であるの……)

この世界にはいないけれど。

「なー、こっち来て!」

「あの木、登れるよ!」

「見て見て!」

上を見て下を見て走り枯れ葉を蹴散らし、忙しいことうるさいことこの上ない。

「なんだあれ?」

「……虫?」

「変なの」

珍しくじっとしているかと思えば。

(のの?)

少し離れた場所から、好戦的な小さな蛇が、そんな少年たちの足首を狙っているため。

こそりと拾ったどんぐりを飛ばし蛇を昏倒させたり。

「あそこにリスがいるな」

散策中に、男が小声で指を差し。

「どこどこ?」

「あ、いた」

「可愛いねぇ」

ふわふわ頭のその一言で、我は反射的に小豆を飛ばし掛けていた指を慌てて止めたり。

「フーン」

木の実を拾い、彼等が女児ならば、装飾品を作ったり、おままごとを始めるのだろうけれど。

人気のない森の奥まで向かうと、

「あそこにある折れかけた木の枝にしようか」

木の実を投げて対象物に当てる的当ての遊びになる。

我も参戦したいけれど、我ながら的当ての命中率は100を越える。

興を削いでしまうのも忍びなく、大人しく眺めるだけにする。

代わりに、意識して強めに握ったどんぐりを、

「ほれの」

とんと見当外れな方向に飛ばす狸擬きに持たせてみれば。

「フン?」

小首を傾げてから、

「フーンッ」

投げた木の実は、見当外れながらも、弾丸の如く鋭く飛んで行き。

ガッと先の木を抉りつつ尚、森の奥へ飛んで行った。

「……フーン」

主様、と半目になる狸擬き。

「す、凄いの、お主は」

拍手してやると、

「凄ー!」

「どうやったの?」

「かっこいい!」

けれど少年たちの尊敬の眼差しを受ければ、

「フゥン♪」

満更でもない狸。

虎の威を借る狸であるの。

我が虎からは知らぬけれど。


昼は、広げた敷物の上に、作ってきた弁当を囲み輪を作り。

「うまそうっ」

「僕たちも食べていいのっ?」

「わーいっ」

生ハムとチーズ、燻製肉とトマトと葉物のサンドイッチ、一口大のハンバーグのトマト煮。

「これは?」

「ジャガイモと空豆のオムレツだそうだよ」

「だそうだよって、……兄さんが作ったんじゃないの?」

ふわふわ頭が首を傾げ、

「料理は彼女も得意なんだ」

面倒だから男が作ったことにすればいいのに、男は我を自慢したいらしい。

「フーン」

足を拭いて欲しいですと、こちらに前足を伸ばしてくる甘えん坊な従獣の足を拭いてやっていると、

「君、凄いね」

「僕、まだ何も出来ないよ」

「お前、 ……じゃなくて、君のいた場所だと、みんな出来んの?」

不思議そうに赤毛に問われ、そうでもないのとかぶりを振ると、

「食べていい?」

そわそわとしているふわふわ頭。

男が頷けば、一斉に小さな手が伸び、短い毛むくじゃらの前足も伸び、オムレツを口に放り込むと、

「フーン♪」

とても美味しいです、と尻尾を敷物にぺたんぺたんと叩き付ける。

少年たちも夢中でがっついてはいるから、そう不味くはなさそうだ。

その少年は、どれほど食べるのか分からなかったけれど、

(よく食べるのぅ……)

感心していると、

「君は、たくさん食べるんだね」

サラサラ頭に驚かれた。

「の?」

「僕の妹、全然食べないから」

妹がいるのか。

「うん、君と同じくらい」

兄からして中性的な顔立ちをしているし、妹もさぞや可愛いのだろう。

「今日も、一緒に来たいって泣かれなかった?」

ふわふわ頭に少しおかしそうに問われ、

「それを見越して、母さんが朝から、叔母さんの所へ連れていってくれたよ」

兄は懐かれているらしい。

ふわふわ頭には姉がいると。

どちらも、異性の幼子の我に対して当たりが柔らかいのはそのせいか。

一人っ子の赤毛は、しかし我に対しては、若干の畏怖が見え隠れしている。

「お母さん、そろそろ帰ってくるんだっけ?」

サラサラ頭の問いに、

「うん、帰り道に、隣の国で討伐依頼されて足留めくらってるって、父さん言ってた」

赤毛がサンドイッチを食べる手を休めずに答える。

討伐依頼とな。

何の獣なのであろう。


少年たちには、食休み、などと言う言葉は辞書にない様で、食べ終えるなり、わーっと森へ駆けていく。

狸擬きも、

「フーン」

小僧どものお()りをしてきますと、もさもさ森へ入って行き。

「見事に空になったの」

「君の料理は美味しいからな」

悩まし気な顔。

ぬふん。

「我は、お主の作ったサンドイッチが美味だったの」

昼を過ぎると広場には、人も増えてきた。

少年たちの見張りは狸擬きに任せ。

我は、ザルを片手にスミレ畑を迂回し、さらさらと流れる沢で、


「あーずき洗おか、タールト食べよか♪」

しゃきしゃきしゃき

しゃきしゃきしゃき


「あーずき洗おか、なーにを食べよか♪」

しゃきしゃきしゃき

しゃきしゃきしゃき


ふふん、ふふん♪

ふふん、ふふん♪


しゃきしゃきしゃきと小豆を研いでいると、不意に、ビュンッと街の方から飛んで来た弾丸の様なものが見えた。

「ぬ?」

しかし、唐突に速度を落とすと、

「ピチッ!?」

急停止したのち、

「のの?」

「ピチーッ!!」

我の頭に留まった。

「ピチチ♪」

何の?

「あぁ、郵便鳥だな」

なぜ鳥等は我の頭に留まるのか。

男が外したその金筒は青い模様。

「誰の?」

「青の国の、組合の彼からだ」

「のの?」

着道楽でフクロウを寵愛していたダンディか。

なんぞ。

先日、我がフクロウやミミズクを大量に(ほふ)ったのをどうやってか知り、抗議文でも送ってきたのか。

「子供が生まれたらしい」

あやつにか。

いつの間に仕込んでいた。

「ミミズクとフクロウの間に、だそうだ」

それはそれは。

「めでたい話であるの」

「一瞬でも成長を見逃したくなく、仕事へ行きたくなくて辛いそうだ」

平和で何より。

「大学の青年も、元気にしているそうだよ」

狼の勉強をしていたあの苦学生か。

「彼にも、少し肉が付いたそうだ」

折れそうにヒョロヒョロしていたから、少し安心する。

「『あなたたちの旅に、より多くの喜びがあるよう、心から祈っています』と、あの彼からの言葉だそうだよ」

なんと。

他人を気遣える余裕も出来たのなら、何よりである。

「んん?」

「別に嫌味ではないのの。あやつは普通の生活すら危うかったからの」

「確かにそうだな」

小鳥に報酬を渡すために、荷を置いた広場へ戻ると、

「ピチッ?」

返事はどうする的に小首を傾げてくる。

「大丈夫だ、こちらの組合から手紙は飛ばす」

「ピチッ」

承知、と敷物の上に降りた小鳥は、

「チーズは平気かの」

「ピチ♪」

指で摘まめるようにしっかり焼いて切り分け、ビスケット缶に詰めてきたチーズケーキの1ピースを与えれば。

「ピチチッ」

美味しそうに啄んでいる。

やはり小さな身体でよく食べるのと思ったら、

「……ピーチー」

食べ過ぎで、敷物の上にひっくり返っている。

郵便鳥の習性、お約束なのだろうか。

「お主は、どこから来たのの?」

「ピチ」

解らぬ。

狸擬きが戻るまで待つかと森に目を移せば、桃鳥は、敷物の上にひっくり返ったまま、すやすや眠り出した。

我もあぐらをかいて座る男の膝によじ登ると。

他にも離れた場所に敷物を広げてたり、写生をしている者もいる。

写真機がない世界、絵を描いている人間の数は多い。

多少お粗末であろうと、代わりになるものがないため、需要もあるらしい。

我の男も、絵を売ったことはあるのだろうか。

「の」

「ん?」

それも気になるけれど。

「先刻、馬車で子供らに聞かせた話」

「あぁ」

「お主を助けた弓使いとやら、あれは女であろうの」

我の顎を、指先でくすぐる様に撫でていた男の動きが止まる。

そして、

「……んん?」

空耳をかますな。

ぐっと顎を上げて男を見上げると、

「……一応は、女性だ」

不自然に目を逸らす。

「一応」

とは、その恩人に対して失礼であろうの。

それに。

「我は嫉妬などせぬの」

「……」

男の、その我の思考を深読みする沈黙で、その女と“そういう関係”になった位は、容易に察する。

けれどそれを口にする程、我は無粋でも野暮でもない。

男の手首を掴み、その手の平に頬を寄せ、

「今のお主は、我のものの」

小指に軽く歯を立ててやれば。

「……君は大人だな」

こめかみに唇を寄せられる。

「そうの」

年だけは、狸擬き、あれよりも重ねているからの。


男の膝の上で、うとうと微睡んでいると、

「ねー!見て見てっ」

「松ぼっくり!」

「これ一番硬い棒!」

少年たちが、バタバタと戻った来た。

「フーン」

子守りは大変ですと狸擬きもモサモサ戻って来たけれど。

尻尾はふわふわと左右に揺れている。

その騒がしさに、

「……ピチッ?」

目を覚まして飛び上がった桃鳥は、

「フーン?」

「ピチチ?」

ぬっと目の前に現れた狸擬きにも怯むことなく、

「ピチ♪」

「フーン♪」

仲良く挨拶している。

「あ、鳥だ」

「可愛いっ」

「あ、これ強い奴だっ」

「そうなの?」

「母さんに聞いた」

可愛いのは見た目だけだって!の赤毛の言葉に、

「ピチーッ!!」

桃鳥は憤慨し、小さな足をタンタンッと敷物に叩き付けている。

少年たちは、

「あ!なにこれ?」

「お菓子!?」

「食べていいっ?」

目敏く缶に目を留める。

こやつらは回遊魚の様に、寝ている時以外は動いてないときっと死ぬのであろう。

口を揃えて、顔を見合わせて、

「美味しい!」

と喜んでくれているから良いけれども。

「フーン」

取り分が減ると不満そうなのは狸擬き。

今度は家族連れでやって来ていた、同年代の少年に声を掛け、森へ駆けていく。

我は、ほんのりと陽が斜めになり、早仕舞で巣へ帰って行く蜜蜂たちを見送り。

我はスミレ畑へ向かい、スミレを摘んでいく。

かご一杯に摘むと、風呂敷に包み、

「そろそろ帰ろうか」

「そうの」

少年たちを、暗くなる前に送り届けなければ。

いつの間にか森から出て、広場でボールを蹴って遊んでいる少年たちに男が声を掛けると、

「もう帰んの?」

「馬車の時間があるんだ」

「そっかぁ」

「楽しかったね」

「うん」

残念そうではあるけれど、存外に聞き分けがいい。


帰りの馬車では、街外れまでは少年たちも楽しそうに話をし、拾った木の実や松ぼっくりを見せ合いっこしていたけれど。

街中へ向かう乗り合い馬車では。

「寝たな」

「寝たの」

「フーン」

3人共、鞄を抱えるように、仲良く眠っていた。


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