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54 転生者(BL要素あり開始)

 惑星ダラマンの宇宙港についた。

 ダラマンは砂の惑星だが、緑化がすすんでオアシスが多い惑星になりつつある。

 ダラマンに着く前に、宇宙船に水資源をたくさん買い込んでおいた。現地の水は高いからだ。


 ダラマンの宇宙港はカレーよりも濃いスパイスの香りがした。

「スペースニート!」

 呼びかけられた方向に、ブラックドッグケンが待っていた。

 以前、光道化師フォトンピエロを倒した百鬼夜行作戦で世話になった一人だ。

 恒星の光と熱に肌を焼いた黄色系地球人型で、長いポニーテールの黒髪と灰色のサイバーアイ、スーツに似たジャケットを着ている。

 護衛の仕事を数多くこなし『依頼者には忠実』と称されていた。本名はケネス・黒木という。

 ハンサムな顔が俺を見て相好を崩していた。

「久しぶりだな、ヒロシ。」

「お久しぶりです。ケン。」

 握手する。

「ダラマンは初めてなのか?」

「一度だけ来たことがあるけど、町中までは行ったことがなくて。」

「そうか。まぁ、車を用意してる。こっちだ。」

 ケンに促されて外に出ると、恒星の暑さが卵肌となった俺の顔を焼く。

 ここではコドン麻薬より飲酒のほうが罪が重く、スパイスの輸出と水の輸入により変化してきたとはいえ、水の一滴は血の一滴より重い歴史を歩んできた。

 そういう星だ。


 俺とケンはモビルカーで宇宙港と町を出た。

「それで、王宮に向かうのか?」

「いや、俺達が行く所は王宮ではなく、第7王子のいらっしゃる邸宅だ。」

「狙われたのは第5王子だよな。」

「そうだ。第5王子ハシム様は現在医療ポッドの中にいて、国の兵士が護衛している。第7王子アンバル様にも護衛がついているが、それでは防げないと俺達が護衛に呼ばれた。アンバル様は国王の末息子すえむすこでまだ10歳だが、なんというか、不思議な力をお持ちだ。」

「不思議な力?」

「超能力、というべきか。」

「まさか。」

 俺は光道化師の予知能力を思い出した。超能力なんてないと思ってたが、宇宙は広い。

 前は超能力なぞ信じてはいなかったが、今は流石に魔法はないよな、と疑うくらいだ。

「王子ほどではないが、俺にもそういう力はある。物に触れると、たまに過去の映像が浮かぶんだ。お前の場合もそんな力がある、と俺は思ってる。」

「俺が?」

「宇宙船の甲板をくり抜いて、光道化師ガガバを宇宙に放り込んだのは、皆が言うようなトリックじゃない。そう言いたいのさ。」

 ケンが白い歯を見せて笑う。

「いやー、ハハハ。」

 つられて、俺は下手な誤魔化し笑いをした。


 四角い建物をドーム状の緩やかな屋根が覆っている第7王子の邸宅についた。

 独特の青いタイルで飾られ、切ってない食パンみたいな無個性なハイアースの建物よりも、地球のどこかの国の伝統的な建物を思わせた。


 モビルカーから降りた俺達をみた使用人が建物の奥へと姿を消す。奥から、少年が着る肩が見える民族衣装を着た褐色の肌に銀色の髪をした美しい少年がやってきた。髪の色と整った顔から貴族だとわかる。

 無邪気とは対極の物憂げな顔で、赤っぽい茶の瞳が俺を見た。少年の切れ長の目で見つめられると、何か自分の隠し事を見通されたような気分になる。10歳の男の子がする表情ではなかった。

「貴方がスペースニートですね?」

 占い師か予言者みたいな浮世離れした様子で、俺に手を差し伸べた。

「スペースニート。鬼灯博と申します。アンバル殿下でいらっしゃいますか?」

 俺は差し出された手をとって握手した。

「ええ。」

 アンバルは握手した後で、大きく目を見開いた。

「!!!」

 しばらく間がある。

「沢山の魂たちが、1つにまとまっている?」

 アンバルが小さく気になることを口走る。

「私の部屋へ。」

 声変わりのしていない蠱惑的な声でそうささやくと、奥の部屋へと消えていく。

「まいったな。」

 なんとはなしにそうつぶやくと、王子について行った。


 アンバルは召使いたちを人払いした。

 警護では不聞の体という言葉で、護衛しつつも会話を聞いていないことにする警備にうつる。

 遠巻きになる召使いと警護を尻目に、俺はアンバルの意図を計りかねた。

 沢山のクッションのあるソファに座ったアンバルは、隣に座るようにソファをぽんぽんと叩いた。


 ええい。覚悟を決めて。


 アンバルの隣に座る。体格の差でちょこんと座ったように見えるアンバルが、俺に耳打ちしてきた。

「君、前世の記憶があるだろう?」

「!」

「安心して、私もだから。」

 アンバルはそういうとクスクスと笑った。

「前世の記憶では、私は地球で漫画を描いていた。評判が良くて、アニメになってね。でも、アニメで主人公はまったく違う性格に描かれ、ストーリーも大幅に脚色された挙げ句、原作者としてクレームをつけたら脚本家が大いに怒り、お前が脚本を書けと丸投げされたんだ。漫画と同時並行で引き裂かれる思いで書いたけど、地球のネットは大きく炎上した。漫画家如きがアニメに手を出すなと罵声のようなメッセージまで受けて、僕の前世は耐えきれず死んだんだ。」

 アンバルは懐かしいという顔をした。

「思い出したからって、遠い過去のことだし良いことも悪いこともない。僕の魂はイシュタムという神にたまたま拾われて、2周目の人生を楽しんでいる。いつかは前世の記憶を失って、ただの男になるだろう。」

 アンバルは深呼吸をした。なんとなくだが、前世は女性だったのだろうか?

「君は前世の記憶がある。それも複数。どうやってかは知らないけど、私にはそれがわかるんだ。」

「アンバル王子。俺は無限俺インフィニット・ミーという沢山の前世を引き出す能力があります。」

 俺は初めて自分の能力を口にだした。

「へぇ、便利だね。」

「前世の記憶に現世の俺が押しつぶされないように気を使いますが、便利です。俺が前世で習得した様々な格闘技や銃の腕前、その他特技を引き出して戦えるのが、スペースニートの秘密の1つです。」

「1つということは、まだ他にも秘密があるんだね。教えてくれない?」

「護衛しているうちに、お見せするかもしれません。」

「それは楽しみだ。」

 アンバルが口角を上げた。男なのに妖艶さを感じさせる笑みだった。


 アンバルは前世の証明に、と漫画の絵を添付画像で電脳にくれた。

 その絵は上手い下手でなくデフォルメがきつく、レトロマンガと言われる絵柄のものとは似ていても一線を画していた。

 画像検索で類似の絵を電脳に浮かべると、20世紀末のものに似ている。人間の骨格をあまり考えてないフィクションのキャラクターを作図しましたといった風情があった。

 俺は電脳内で絵のフォルダに入れた。アンバル王子の希少な絵だ。売る気はないが価値がある。

「前世のことは内緒にするように。ダラマン王家は前世を信じない宗教からね。話は以上だ。食事にしよう。」


 やり取りを終えたところで、アンバルが手を叩き、召使いを呼んだ。

 部屋の中の護衛が不聞の体をとく。

「私とケンと、スペースニートで食事をとる。」

 召使いは机を用意し、大皿の料理を乗せだした。

 料理はラム肉をスパイスと共にご飯にまぜたもの、ひよこ豆のペーストに、ダラマンファラフェルという丸いコロッケみたいなスパイシーな揚げ物、卵のトマト煮込みなどが運ばれてきた。

 召使いたちが小さな匙をかわるがわる料理に突っ込んでは、ある召使いがそれらを口にする。毒見だ。

「どうぞ。お召し上がりください。」

 俺とケンとアンバルがソファに座っている中、毒見役の召使いが地べたでうやうやしく手と額をつけて礼をする。


「うん。食べよう。」

「いただきます。」

 俺が手を合わせると、アンバルが面白そうな顔をして手を合わせた。

「いただきます。この習慣をやる人が宇宙でまだ残っているなんてね。」


 食事はスパイスが効いていた。

 トマト煮込みはトマトの酸味を消すほどピリピリ感が強かった。

 ダラマンファラフェルはじゃがいもやニラの他に、ニンニクが使われていてジューシーだ。辛いというより香りが強い。

 ラム肉の混ぜご飯は米にふりかかったスパイスの香りとラム肉の濃厚な味わいがしたが、やはりピリッとしており、ひよこ豆のペーストがクリームみたいでスパイスに対する清涼剤になっていた。

 甘くてすっきりした味のダラマンスイカが惑星の特産品だが、それをミキサーしたのだろうピンク色のスイカジュースも冷たくて美味い。


 大皿から小皿に盛り付けて、ソファに寝っ転がって食べる。料理を指さすだけで召使いが盛り付けてくれた。アンバル用の小皿料理ができると、フォークやスプーンで食べる。

「お口にあうかな?スペースニート。」

「辛いですが、美味しゅうございます。殿下。」

「それは良かった。」

 俺は『行儀悪く』ソファに背筋を伸ばして座って食べた。


 食事を終えると、アンバルが召使いに口を拭いてもらいながら話す。

「スペースニートには事件のことを説明しないとね。」

「説明は、この私めが。」

「ケン。」

 名前を呼ぶだけでたしなめられたケンが無言になる。

「事件のことはどこまで聞いてる?」

「ハシム王子が溺死液ドロウン・リキッドに襲われて、医療ポッドに送られたとだけ。」

「そう。溺死液は父上の誕生日で皆で集まっている所に白昼堂々姿を現して、第3王子のウサイン兄さんを狙ってきた。それを、ハシム兄さんがかばって撃たれた。医療ポッドに送られたが、状態は厳しいらしい。」

 アンバルが目線を落とす。

「護衛は咄嗟には動かなかった。動けなかったというべきかな。撃たれた後で手を広げた所で、意味はなかったよ。サーラ王家に楯突く者がいなかったから、王国のSPの質は低下していたんだ。残念ながらね。」

「溺死液はどうなりました?」

「次は私を殺すと宣言し、目一杯銃を浴びても平気な顔で逃げていった。」

「ウサイン王子の次に殿下を狙う。奴の動機はなんでしょうね?」

 俺は顎に指を当てて考えた。

「分からない。犯行声明はしても、犯行の動機を明かさなかったから。でも、ダラマンでは氷の小惑星を移送し大規模な水の確保をやるべきだという議論があっている最中だからね。水の確保は輸入で賄うべきだと主張していた保守的なウサイン兄さんを政治的な意図で狙った可能性は否定できないかな。」

「溺死液は海賊同盟のために動く。ダラマンは海賊同盟と何かトラブルがあったりしませんか?」

「我が星のスパイスの中には、コドン麻薬も含まれているそうだね。それで海賊から目をつけられているが、その程度では暗殺の動機としては弱いと考えている。」

「なるほど。」

「君にはしばらく、私の側で警護につとめてもらいたい。ケンは警護の者を厳しく指導し、君は隣で私を守ってもらいたい。」

 アンバルが俺の手をとる。指を絡めてきた。

「君の活躍は検索してて飽きなかったよ、スペースニート。海賊をやっつける無敵のヒーローだ。」

 アンバルがまた蠱惑的な笑みを浮かべる。

「は、はぁ。ありがとうございます。」

 俺はどんな表情をしていいか分からなくなって、愛想笑いみたいになった。

「宜しくね。ヒロシ。」

 アンバルは片目を閉じた。

 まるで、前世からの癖のようだった。

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