49 (学園モノ終)短足の足長おじさん
宇宙船に帰って牛丼を食う。
食った後で考えた。つまり、シックスソーサが諦めれば、なんとかなるのではないか。最悪、1年でも延期すれば彼女はアンチエイジング手術が受けられる。可能性も広がる。
俺はノーブルネットのニュースを閲覧した。情報交換の掲示板では匿名での書き込みがあり、案の定シックスソーサの事は危機感と共に情報が集まっていた。
なにせ侯爵である。現在最高位の爵位が売り買いされるとなったら貴族の心中は穏やかではないはずだ。
掲示板ではオルタラグカーン家は裏切り者と言われていた。もっと口さがない言葉も書き込んである。
そういう情報を掻い潜りつつ、チャールズ・シックスソーサを調べた。
ノーブルでない普通のネットの中に、シックスソーサについて言及があった。
彼は惑星の土地売買つまり不動産で儲けた金を元手に政界への進出を考えていた。
銀河帝国を吸収した銀河連邦では、貴族議員とよばれる議員が世襲議員と同じく存在する。名門と言うやつで、貴族が有名無実化していても『宇宙の権力と象徴』に群がる者は多く、貴族であれば選挙で勝ちやすい。そんな意図が透けて見えていた。
金の次に地位が欲しいということなのだろう。
社交ネットワークでわざわざ贅沢三昧な画像をあげていた。猫にまで豪華な衣装を着せている。見栄っ張りだ。
裏の顔として、シックスソーサは不動産繋がりで光道化師ガガバと組んでいたことが分かった。それならば、シックスソーサはガガバの後継者のパチェットと組んでいる可能性がある。
俺はポールに連絡をとった。
「また何かのトラブルに巻き込まれてんのか?」
「トラブルに首を突っ込むのが性分なんじゃないかと想い始めてきたよ。それで本題なんだが、チャールズ・シックスソーサという男と海賊同盟のパチェットとの関係を洗い出したい。協力してくれないか?」
俺がこれまで調べた情報を送ると、ポールが精査する。
「ふーん。」
ポールが面白そうだという顔をした。
「不動産関係でガガバと付き合ってたなら、パチェットとも付き合いがあるだろうな。それをどうするつもりだい?」
「シックスソーサの動きを止めるだけ止めて、貴族のアレクサンドラ・オルタラグカーン嬢の手助けをするのさ。」
俺は掻い摘んでオルタラグカーンの侯爵家売買の話をした。
「取引が成立したらチャールズはオルタラグカーンとして貴族議員になっちまうのか。それはヤバいな。権力で少々の事件だって握りつぶされかねない。」
「それに、アレクサンドラが不憫だ。助けてやりたい。」
「なんだ?惚れた相手か?」
「相手は17のお嬢様だぞ。釣り合わない上に付き合ったら変態だよ。」
「ふーん。」
ポールは俺の言葉に何かを察したつもりになった顔をした。
「未成年とかいっても卒業すりゃ2年で二十歳。13年で三十路。50代と30代なら障壁は何もなくなるぜ。」
どこかで聞いた内容だ。俺か。
「男女問わず10年経つ内に蛙になるさ。どんなに好きでもケロッと忘れる。」
「冷たいこと言うなよ。貴族は100超えてる奴も多いから、年上年下に何の抵抗もないらしいし、割りと本人同士が好きかどうかなんじゃねぇの?あー、彼女が欲しいな。」
ポールは軽口を叩きながら、並行して警備隊のデータを調べていた。
「結論から言おう。チャールズってやつは真っ黒だ。」
「やっぱそうか。」
「海賊が運営している業者と結託して架空取引や偽の経費を計上して、脱税している疑惑がある。裏帳簿のデータでもあれば一発なんだが、宇宙税局の税務署と銀河警備隊が連携して裏取りしてる所だ。」
流石特務課。機密情報でも完璧だ。
「裏帳簿か。民間人の俺は捜査の進展を待つしかないな。」
「そうなるな。勿論、他言無用に頼むぜ。」
「当たり前だろ。」
「その当たり前ができないヤツの方が宇宙では多いんだ。」
ポールは捜査官の顔になっていた。
俺はアレクサンドラと通信した。
「何か用かしら?」
「キープ君は用がないと連絡しちゃいけないのかい?」
「まさか!」
俺の軽口にアレクサンドラが目を見開く。
「チャールズ・シックスソーサについて調べてる。侯爵家の売買について、もっと詳しく聞かせてほしい。」
「貴方が?」
「好いてくれてる相手の手助けくらいするさ。」
俺は片目を閉じた。
「えーと。」
アレクサンドラは見るからに動揺した顔で上を見た。
「まず、お父様がこのままでは家が破産するって言い出して、侯爵の名前を売りに出すと宣言しましたわ。私もですが、伯爵令嬢だった私のお母様が特に反対していました。けれど、お母様は浪費家で…。何を言っても説得力がありませんでした。」
どこの家も大変だ。
「それに、侯爵は帝国時代は大変な地位でしたけど、銀河連邦では貴族は存在しないことになってますわ。元貴族みたいな扱いを受けていることを不当に思い、貴族の間ではカーン派なる組織もできているという噂があるくらい…。」
「ちょっと待った。カーン派って貴族の組織だったのか。」
「ええ。貴族議員カーン派なんて組織が存在するという伝聞がありますけど。」
「すまん。脱線したな。それで、父親が侯爵を売りにだした所、チャールズが名乗りでたわけだな。」
「そうです。御屋敷でチャールズにも会いました。いかにも卑しい感じのする小男でしたわ。」
小男か。それよりも…。
「具体的な契約の交渉とかまでは知らないよね。」
「存じ上げません。でも、相手は貴族、それもオルタラグカーン家の高い地位が欲しいと明言していました。」
「オルタラグカーンの名を口にしたらキレる話を聞いて、君は家が嫌いなんだと思っていたよ。」
「違いますわ!家名に傷がつかないように生きてきたのに、金で売り買いされる様な家名に落ちたのが、私悔しくて。実は私には許嫁がいたのですが、家名の話で私の元を去っていきましたわ。侯爵の名を求めていた。庶民に下る元オルタラグカーンの女なんかいらない、と。」
アレクサンドラは怒った顔になった。キツめの美人が怒ると怖い顔になる。
「なるほどね。どうにかして、チャールズの奴が侯爵家を買わないようにしなくては。チャールズの狙いは貴族議員になることだ。海賊ともつながりのある奴が議員になったら、何をしでかすか分からない。」
「海賊!?まぁ!なんてこと!許せませんわ!」
アレクサンドラは瞳の炎を燃やした。
「お父様もお父様よ!400年も生きていて、そんなやつを見抜けないなんて!」
ギルの父親といい、300歳や400歳で子作りしてるのか。貴族すげーな。
「私、お父様の説得を頑張りますわ。海賊の手先に家名を盗られてたまるものですか!」
「その意気だ。アレックス。」
「男っぽいわ。せめてサンドラとお呼びになって!」
状況的に俺に出来ることはない。アレクサンドラいやサンドラを焚きつけるので精一杯だった。
クロコから連絡という名の非難と説教を浴びた。
「帰ってこないと思ったら、何浮かれてるんですか。」
「すみません。」
「マイコさんから感謝のメールと共に報酬が払われました。さっさと帰ってきて下さい。」
「はい。」
報酬が支払われたら、はいさようなら、てのはどうだろうと思うのは俺がニートしてる証拠だな。
俺はムーランドに帰った。
「次は、運搬のバイトが入ってます。」
「バイトか。働きたく…。」
「なんですか?」
「いいえ。何でもありません。」
俺はシュンとなった。
荷物を乗せ、チップド・ワキザシを飛ばす。
数日かけて惑星に向かう途中で、ボールから連絡があった。
「スペースニート。貴族売買の話を情報網にあげといたら、上が焦ってな。チャールズの家にガサ入れが入る。」
「そうか。」
「本格調査が入ることになるから、貴族の名義売買の話は1年から1年半はストップするはずだ。これで大丈夫か?」
「彼女が卒業するまで事態が動かなくなるんだな。」
「18で卒業するなら、そうなるな。」
「良し。完璧だ。」
俺はガッツポーズをとった。
サンドラに連絡を取る。
「てなわけで、卒業までは貴族でいられそうだよ?」
「毎日お父様に通信して詰め寄っていたのですが、今日酷く落胆していたのはそれでしたのね。」
サンドラは出てきた涙を拭った。
「ごめんなさい。私、何だかホッとして。」
「大変だったな。」
「ありがとうございます。鬼灯様。」
「様なんていらないし、まぁ、なんだ、スペースニートと呼ぶか、ごく身近な人からはヒロシさんなんて呼ばれてる。」
何を口走ってるんだ。
「ありがとうございます。ヒロシさん。」
ほら、催促したみたいになっただろ。何考えてるんだ、博。
「ど、どういたしまして。」
若くて綺麗な女の子に手助けして、頭に血がのぼってしまったらしい。馬鹿みたいだな、俺。
惑星に荷物を届けてサインをもらう。帰り道でサンドラから通信が入った。
「どうしたの?」
「恋人に通信するのに、用はいらなくてよ。」
女性から言われると、なんかズルい感じになる。
俺とサンドラは笑った。
「オリビアが謝ってきたわ。オリビアのお父様が、私のお父様に身分を売るように言ったらしくて。それで、オリビアは罪滅ぼしに私の婚活の手助けをしていたらしいの。」
「あれ?オリビアって何者なの?」
「オリビア・アッシェンナハト。アッシェンナハト侯爵といえば貴族の財閥の一つで、私や他の貴族を庇護下に置いていますわ。」
「そうなんだ。」
ギルベルトの家も、アッシェンナハトの庇護下に置かれていたな。
「それで、ヒロシさん。」
「はい?」
「差し出がましいお願いだと思いますけれども、オリビアを助けてはくれないかしら。」
「どういうことだ?」
「オリビアは、断罪されようとしてますの。」
「断罪?」
随分仰々しい表現だ。
「オリビアは彼女の取り巻きを使って、フローラ・フィルライヤに嫌がらせをしたと疑われてますの。それを彼女の許嫁のシリウス・アイスハルトに知られてしまって。」
「何で嫌がらせの疑いなんかかけられてるの?」
「動機がありますわ。シリウスは、オリビアという者がおりながら、フローラと浮気していたのです。」
おいおい。
「アッシェンナハト家は多くの貴族を救ったため、クラスメイトでも恩を感じてる者は沢山おります。それで、オリビアと関係ない所でフローラへのイジメがあったみたいで。」
「なのに、オリビアが悪役令嬢みたいな扱いを受けている、と。」
「はい。」
これはゲームじゃない。現実だ。
しかし、惚れた腫れたに忙しいな。
俺が10代の時は、机に一人で突っ伏す以外にすることがなかった。世界が違う。
「彼女の噂が教師の耳にも入ってきてるみたいで、退学も視野に入れられているとか。風紀指導室に何度も呼び出されて、初めは勿論否定してたのですけど、段々追求が厳しくなっていってるみたいで。影で泣いているオリビアを見るのは耐えられません。」
「うーん。」
俺は深く考えたが、これは流石に手出しが出来ない。
「ヒロシさん。どうにかならないでしょうか?」
「まずは取り巻きがフローラに謝って、先生方にすべて話すべきだと思うよ。それから、断罪というならシリウスの不貞行為を断罪すべきであって、オリビアじゃないってことは確かだ。」
「ええ。でも、私とオリビア、そしてシリウスは数少ない侯爵家。侯爵を継ぐことの出来る男のシリウスを断罪するなんて、とても出来ません。」
「ちなみに浮気って、どこまでやったんだ?」
「多分、その、身体を重ねるところまで。」
サンドラが口にしたと同時に茹でたタコみたいに赤くなった。うわ、生々しい。
「ここでとめないと、シリウスとオリビアが結婚しても、シリウスが不倫とかやらかしそうだな。」
「妾を持つ時代ではありませんのに。本当に傲慢な男。」
サンドラが唇を噛む。
「だが、学園では部外者は不介入だぞ。どうすればいいか。」
「そう。そうですわね。」
「話は聞けるけど、俺が出る幕はないんだよなぁ。何とかしてやりたいけどな。」
「申し訳ありません。無理なことをお願いしてました。」
「いや、待てよ。ノーブルネットでこの話を晒せばいいんじゃないか?」
「そんな。オリビアが傷つくだけですわ!」
「シリウスがフローラに不貞を働いた。これを乗せるだけで違うだろ。フローラにも許嫁がいるとかないの?」
「はい。でも、彼は先に卒業してるからこの事は…。」
「おっ!」「あっ!」
俺とサンドラは同時に声を上げた。
翌日、ノーブルネットに俺は参観で知ったことと称して書き込みをした。
それから、3日後、サンドラから連絡が入った。
「やりましたわ。」
「どうなった?」
「シリウスは放校。フローラは自主退学。オリビアとオリビアの家には慰謝料が払われましたわ。許嫁も解消されました。」
「書き込み一つで解決したな。」
「ノーブルネットへのアクセスなんて、大人でないと解決できませんでしたわ。」
「君が親友を放っておかないで相談した結果だよ。」
「私だけでなく、オリビアのことも救ってくださって。やっぱり貴方は本命ですわ。」
「10年とか13年後も同じこと言えないだろ。歳をとって人の広がりを知って、俺に幻滅するようになる。」
「あら、舐めないで下さる?私、こうと決めたら一直線でしてよ。」
炎よりも赤い髪と赤い瞳が、熱く俺を見ていた。




