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44 サツは信用できないの

 リハビリがうまくいって、早期退院となった。俺なりの捜査開始だ。


 まず、俺は地元の事件のニュースを精査した。

 警察ではギャングと言っていたが、調べたところ爆破事件の時に声明こそだしてはいなかったが、マスコミは爆破事件の最有力候補としてサザンカヨンパウロというギャングの犯行であると強調していた。

 奴らは交易の倉庫を根城にしており、暴力沙汰から薬物の売人まで活動している反社集団だった。

 情報はそこまでで、ギャングの場所は正確には分からなかった。


 次に母親を調べる。

 キャシー・ララの母アンナ・ララは行方が分からなくなっていた。警察も捜査しているが、見つかっていないという。

 テロリストに捕まってる可能性がある。警察当局ではアンナ・ララの捜索のための情報を求めていた。


 ここまではネットだ。

 俺は警察署へ向かった。

 捜査の進展について尋ねると、ランゴ刑事が応対してくれた。

「それで、捜査の方はどうなってますか?犯人を捕まえられそうですか。」

「目下、全力で捜査にあたっています。」

 当たり障りのない話題から、俺は切り出した。

「マスコミではサザンカヨンパウロという地元ギャングの仕業だと書きたててますが、本当でしょうか?」

「ホーズキさんはサザンカヨンパウロについて何かご存知ですか?」

「いいえ。それだけに、本当にそんな知らない連中に狙われたのかイマイチ実感がわきません。頭では何故というのは分かりますけどね。」

「それはどういう?」

「私は海賊同盟と対立してましてね。銀河警備隊と手を組んで薬物の取り締まりにも協力しました。それで、クリストフという海賊の薬物売買のトップに損害を与えたわけですが、薬物売買を潰された組織は私を目の敵にしています。今回のギャングも薬物絡みの利権を潰されたから、狙われたのではないかと考えています。」

「成る程。サザンカヨンパウロは薬物売買にも関わっていました。今は市販薬からドラッグを精製するのを防ぐため、ムーランドでは薬の売買に強い規制がかかっています。」

「おちおち風邪も引けませんね。」

「ええ、まったく。」

 ランゴ刑事が俺の冗談に付き合いながら、コーヒーを差し出してくれたので受け取って啜る。

 ふと視線を変えると、女刑事と共に緑の髪の少女がいた。

「あの子はキャシー・ララでしたね。今どうしてるんですか?」

「うちで保護しています。」

 俺と少女と視線があった。

 挨拶代わりに俺が手を振る。

 キャシーがこっちにやってきた。

「おじさん。」

「やぁ、どうも。怪我とか大丈夫だったかい?」

 少女は俺にいきなり抱きついた。

「ん?どうした?」

 そして、離れるなり俺の目の前でベルを引っ張った。


 ビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨ!


「うわっ!」

 大きな警告音に耳を塞ぐ。

「キャシー!」

 女刑事が慌ててベルを元に戻す。

「このおっさんがイヤらしい目であたしを見た。逮捕して。」

「俺は君を守ろうと。」

「触った時点でキモかったんだよ、おっさん。とっとと留置所送りになれ。」

 キャシーがジト目で俺を見る。

 女刑事がキャシーをたしなめていたが、呆気にとられた俺は会話が耳に入ってこなかった。

「ホーズキさん。」

「あ、はい。」

 ランゴ刑事によばれ、俺は思わず毒気の抜けた声を出す。

「キャシーや母親のアンナ・ララに見覚えはありませんか?」

「いや、こんな人の心をえぐってくる少女とか、躾を疑う親とか会ったこともないです。」

「あたしのことイヤらしい目でみただろロリコン!」

「キャシー、やめなさい。」

 キャシーは連れて行かれた。


「ホーズキさん。捜査は進んでおりますので、今日はお帰り下さい。」

「あ、はい。帰ります。帰ります。」

 真っ白になった俺は、警察署を後にした。


 哀しみを覚えた俺は、ポケットに手を突っ込んだ。背中が煤けているが、感謝でなく罵倒されたのだから誰でもそうなる。

「ん?」

 ポケットの中に何かある。

 これは、通信アドレス?

 電脳で通信する。

「あ、ロリコンおじさん。」

「誰がロリコンだ。俺は鬼灯博ほおずきひろし。スペースニートと呼ばれてる。」

「スペースニート?格好悪いね。おじさん。でも、メモを見てくれたのは、ありがとう。」

「それで、要件は何だ?」

「私を抱きしめたりイヤらしい目でみた罪滅ぼしに、おじさんにはあたしのお母さんを探してもらいたいの。」

「君のお母さん?」

「お母さんはきっと恋人の所にいる。トニーかガイウスかサムの所だと思う。」

「恋人多いな!?」

「協力してよ。そしたら、おじさんのことを許してあげる。」

「警察が調べたんじゃないのか?」

「警察?生憎だけど、サツは信用できないの。常識よ?」

 何故こんなおガキ様の許しを請わねばならんのだ。しかし、手がかりがないのも確かだ。

「分かったよ。手伝うからロリコン扱いはやめてくれ。」

「契約成立ね!それぞれの住所を教えるわ。でも気をつけて。トニーは宇宙海賊のメンバーだし、ガイウスは気難しいの。」

「分かった分かった。それぞれ大体どんなやつなのかも教えてもらえると助かる。」

 俺はため息をついた。


 キャシーの話では、トニーは鳥人型、ガイウスはギガント型、サムは地球人型なのだという。恋人の見た目の守備範囲が広いと評したい。この中であたりをつけるのだとしたら、やはりギャングのメンバーであるトニーだろうか。


 俺はトニーのアパートに向かった。

 203号室。ドアベルはない。

 俺はドアをノックした。

 返事がない。

 2回目のノックで、半裸の男が出てきた。トンビに似ている。

「お宅がトニーさん?」

「そうだけど、あんたは?」

「俺は鬼灯です。アンナ・ララさんが今どちらにいるか…。」

 トニーがドアを閉める。

 俺はノックした。

「あの、トニーさん。アンナさんの行方をご存じないですか?」

「あのビッチの居場所なんてしらねーよ!他を当たってくれ。」

 俺が去ろうとしたら、トニーは拳銃を片手にドアから出てきた。

「よくみたら、お前スペースニートだろ。賞金はいただくぜ。」

 俺は念動で自在鎌を振った。

 トニーが銃を構える。

 バラバラになった拳銃が重力にひかれて落ちた。

「あれ?」

 俺は距離を一気に詰めると、トニーの嘴が割れるほどのストレートパンチを食らわせた。



 ガイウスのアパートに行く。

 2階のC号室。ドアベルはない。

 俺はドアをノックした。

 返事がない。

 2回目のノックで、タンクトップ姿の男が出てきた。ギガント型の平均身長は2mある。

「ガイウスさんでよろしかったでしょうか?」

「あんたは?」

「俺は鬼灯です。アンナ・ララさんの行方を探しています。何かご存知…」

 ガイウスがドアを閉める。

「またかよ。」

 俺がドアから去ろうとするとガイウスが2発発射式のショットガンを手にしていた。

「お前、アンナの何なんだ。アンナはお前には渡さない。」

「違います。そんなんじゃありません。娘さんに頼まれて…」

「彼女に娘なんていない!」

 あ、駄目だこれ。

 俺は念動で自在鎌を振った。

「彼女の居場所は知らないんですか?貴方の所では?」

「は?お前の所だろ!ぶっ殺してやる!」

 銃を構えた瞬間、重力で切れた銃身が地面に落ち、ショットガンがバラバラに分解される。

「あ?」

 俺は飛ぶように距離を詰めると、顎も割れんばかりのストレートパンチを食らわせた。



 3件目だ。

 アパートの入口で会話するタイプのドアフォンがついている。

 俺は部屋番号を入れた。301号室。

 ピンポーンと音がする。

「はい。」

「サム・リーさんのお宅でしょうか?」

「はい。どなたです?」

「私は鬼灯です。アンナ・ララさんの行方を探しておりまして、お話をお伺いできればと。」

「少々お待ち下さい。」

 良かった。まともそうだ。

 俺が入口で待っていると、男はライフルを手に出てきた。

「お前!ララの何なんだよぉぉぉぉ!」

 こいつもダメだったか…。

 俺は念動で自在鎌を振った。

 ライフルがバラバラになる。

 ここで右ストレートするのもいいが、行動を変えた。

「アンナさんはどこだ?」

 こいつはまだ、彼女の場所を知ってるのか分からない。

「お前の所だろおおおおぉ!」

 こいつも外れなのか…。

 サムのパンチをよけると、俺はカウンターパンチを顎に叩き込んだ。



 …どうして、俺相手に銃口を向ける馬鹿が後をたたないんだ?俺が何したっていうのよ。


 俺はキャシーに通信した。

「君のお母さんだけどね。」

「なにか分かった!?」

「恋人3人ともハズレだった。どこにもいない。おまけに嫉妬に狂った男しかいなくて、銃突きつけられたよ。」

「なんだ。それだけ。」

「なんだじゃないよ。殺される所だったんだぞ?他に君の母親を知ってる人とかいないのか?」

「後は知らないの。他にも彼氏いると思うんだけど。とにかく、おじさんはお母さんを探して。見つけないと触られたとか言うから。」

「脅さなくてもいいよ、協力してるだろ?何か心当たりとかないの?」

「心当たり…。サザンカヨンパウロのボスのヨトゥンって男なら知ってると思うんだけど。」

「そっちは警察の管轄だな。俺がやろうとすると血が流れることになる。」

「血が流れるとか何言ってるの?もしかして、3人とも殺しちゃった?」

「殺してはいないよ。殺しに来たから嘴や顎殴ってやった。」

「おじさん強いんだ。」

「空手は黒帯、剣道8段、他にも剣術や合気柔術で免許皆伝だ。前世でな。」

「嘘かよ。しょっぱいな。」

「取り敢えず、心当たりがないと探しようがないぞ。」

「あ、待って。警察の資料を手に入れたから送る。」

「おい。それは駄目なんじゃないか?」

「いいから!お母さん探して!」

 通信が切れて、データが送られてきた。


 いいように扱われていないか?

 だが、やるしかなさそうだ。

 俺は肩を落とした。

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