表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/145

キャプテンズギルド

「新銀河連邦などというものは、銀河帝国を復活を願う危険な因子に過ぎない!全宇宙の安全と平和のため、これを許すわけにはいかない!」

 そう訴えるマイトレーヤの演説が、テレビジョンに流れる。

 マイトレーヤの演説が段々と独裁者めいてくるなか、俺はそれを聞きながら、何がどうなっているのか混乱していた。


 銀河連邦を新銀河連邦に生まれ変わらせるという集まりだった新銀河連邦建国同盟は、アハト派の息がかかっていたはずだ。

 そのはずだが、新銀河連邦樹立を掲げる連中はことごとくマイトレーヤの敵として活動している。

 自分の知らない所で、自分の知らない何かがあったのだろう。そうとしか言えない俺だ。


 今や、誰が善良な市民で、誰がテロリストか分からない世界になった。

 そんな中、キャプテンズギルドに特別警察による監査が入る話になり、スネに傷持つキャプテンからギルドの脱退を視野に入れるほどのクレームを入れるもので溢れていた。

 元々がアウトローな何でも屋だ。銀河連邦特別警察に痛くない腹まで触られたくないのは心情的に分かる。


 俺はキャプテンズギルドから呼び出しを受けた。

 ギルドマスターのイスバンクは、相変わらず冷静な瞳で、やってきた俺を椅子に座らせた。

「それでご要件は…」

「スペースニートくん。他のものにも頼んでいるが、君もキャプテンズギルドの宣伝に出てもらうことになった。頼めるかな?」

「宣伝?」

 キャプテンズギルドは宇宙船を持つキャプテンによる会員制だ。口コミとキャプテン達の活躍により大きくしていった経緯をもつ。

 イスバンクの銅色の肌が、鈍く光って見える。

「キャプテンズギルドに回ってくる仕事が、全て宇宙軍の管理下に置かれつつある。運搬は民間船でも連邦宇宙軍の関税、所謂通航税がかかり、海賊やならず者の討伐は宇宙軍が仕切り、護衛は同じく宇宙軍を通さねばならなくなった。キャプテンズギルドの主な仕事が干された格好になる。」

 イスバンクは軽く目を閉じた。

「宇宙に秩序はあってもよいが、宇宙軍のやりたい事は独占と搾取でしかない。」

 鼻からため息をついて、ドラゴノイドのボスは目を開ける。

「人に尋ねずとも、シビリアンコントロールといいつつあの手の組織は天下りや汚職役人、または威勢のいい軍人会の利権が集まり腐っていく。あるいはもう腐っているか。軍を創れば軍閥が生まれ、軍閥が出来れば金と政治に絡みつく。だからこそ、銀河連邦の軍再編はやらなかった。マイトレーヤは若すぎたということか、ブレーンがそれを望んでいるのか、あるいはその両方だろうね。」

 自分の思考を全て口に出していくイスバンクの言葉を、俺は黙って聞いた。

 彼の様子は、明らかにストレスを抱え込み悩む人そのものだった。腹を割って話せる友人がいないのだろう。

「本題に入ろう。キャプテンズギルドに入る《《うまみ》》が無くなった今、ギルドは自然消滅を待つばかりになっている。このギルドは仕事の斡旋以外にも、宇宙にいる全てのキャプテンに平等に開かれた組織として繋がりを持ってもらうことも使命としている。不倶戴天の敵であるヴォジャノーイとSSATの元隊員がタッグを組み、百鬼夜行を行うのがキャプテンズギルドの本領だ。私はそんなギルドを存続させたい。」

 百鬼夜行という言葉に、俺はイスバンクなりのリップサービスを感じた。

「君は芸能人とも付き合いがあるし、キャッチコピーなんかももう考えてあるんだ。」

 画像が送られてくる。

 俺のシルエット付きで『無職から宇宙へ!』と書かれてある。

 端的に言って、選挙ポスターみたいな広告だ。もうちょっとセンスよくならなかったのか問いたい。

「CMについても規制があってね。定型的なものしか作ってはいけないとされてる。自由というものはこういった細やかな所から消えていくのだ。そして、待つのは偏った情報による独裁政治の始まりだろう。」

 イスバンクの物言いは憶測も入っているが、それでも説得力があった。

「君や元SSATのコマンダージョーに火の玉ボーイ。他にも活躍目ぼしいギルドメンバーを集め、CMを作って宇宙のネットに流すつもりだ。そして、我々は銀河連邦での宇宙軍、テロリストに対する第三勢力になる。」

「第三勢力、ですか?」

「中立だよ。街頭を粛々と歩くだけのデモでも星によってはテロリストと呼ばれ参加した市民は全て処刑されている所もある。テロは許されないが、テロの定義を拡大解釈して市民を血の海に沈める政府はもっと許してはいけないものだ。星に恐怖テラーを与える連中を倒し、できる限り市民を守るフットワークの軽い民間団体。正義の味方ごっこをやっていくつもりだ。」

「それは、儲かるんですか?」

 俺は言葉を選ばなかった。

「俺は兎も角、金で入ってきたキャプテンがそれを許さないでしょう。出ていく仲間も多いと思います。」

「ニートを名乗る君から、労働の対価の話が出るとはね。」

 イスバンクは口角を上げて笑った。少なくとも笑ったふりをした。

「勿論裏にはスポンサーがついているよ。金の絡まない行為を押し付けるのに善行を吹聴するのは、私やギルドのやり方ではない。軍隊にアレルギーのある人々が軍より民間の我々を頼る声もあるし、討伐や護衛を絶対するなとは言ってきていない。筋を通せくらいだ。まだね。」

 宇宙飛行士になったから格好つけで入ったキャプテンズギルド。俺はそこの広告塔になるみたいだ。

「身一つ船一つでここまで成り上がった例は今どき中々ない。君はもっと成功者として誇ってもいい。」


 運搬の仕事が入らず、配信も頭打ちでカッツカツとクロコに言われた俺だ。ノーとは言えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ