船頭多くして…。一式戦車顛末記。
(´・ω・`)未完成人なのに新お題目に飛びつきます。
(´・ω・`)…。(なお…。冬の奴は未だ書いています。)
「くそ!やってられるか!」
1940年(神武天皇歴2600年)6月。
ここは|陸軍技術本部第4研究所《相模陸軍造兵廠》の首席主務席で叫ぶ男がいた。
目の前の机の上には数多くの冊子が山になっている。
全て同じような冊子だが、中身は全て違う。
無論、差出人が違うのだ内容が違うのは仕方がない。
問題は…。
独伊軍事使節団から帰国し、新たに配属された所長の訓示と欧州からの新情報と…。
「なんだ!今更。97式より軽くしろ、とか。装甲を厚くしろとか!!」
各、戦地部隊からの新型中戦車の設計への要望書だ。
「もう既に新型砲は試射も始まっている!なのに何だ!!大口径砲にしろだと!!」
投げつける冊子で他の職員は用事を思い出し部屋を出る者もいる。(あ、さっし)
まだ見ていない冊子を取り目を通す…。
「くそ!なんだと…。日立兵器製造と三菱でエンジン部品が合わない…。必要な製造所と部品名称が分からない。これは…。」
製造メーカーの…。
いや、事前に決めて置かなかった事の弊害だ。
今は横槍が多くて設計が進まない…。
一番の横槍は陸軍の参謀本部だ…。
嘗て、辻参謀長が現地視察の満州から帰ってきたら…。
”日本には世界に負けない戦車が必要だ!速射砲も!敵戦車に対抗する兵器が必須だ。”と。そこら充で喚き散らしている。
何でもノモンハンで砂漠に不時着して敵戦車に追い回されたとの噂だ。
その為に新型中戦車への計画にも横槍が入った。
「そういえば、チハ改の新型砲塔のモックアップ検査もそろそろだ…。」
うちは嚙んでないが、新型中戦車にも乗せる新型車載砲だ。
検査会には参加できるようにしてもらっている。
砲身が同じなら砲塔も同じような物に成るだろう…。
ソレに物言いが掛かったのだ。
”既に在る物と同じなら要らないだろう。”
頭を抱える。
去年からチハの車台見直しが始まっている。
ノモンハンでも大陸でも優良な速射砲が敵側に現れ、25mm程度の正面装甲では安々と貫かれるようになった。
その為、量産中の97式の改修が進んでいる。
生産に手間の掛かる部分を見直し、溶接を多様して、生産工数を減らす。
エンジンを統制型一〇〇式240馬力変更。
装甲をボルトで増加できるように設計。
チハは砲塔も大きな物に対応できる様に作ってあった為、主砲と砲塔の変更だ。
元々、新型中戦車の為の砲だが一足先にチハに乗せる新砲塔の開発が進んでいる。
そして無線機の標準装備だ。
シャーシの方は既に一部で先行量産が始まっている。
旧砲塔を載せて戦地に向かっている。
大陸では戦車の到着を望む声が多いのだ。
新型砲を搭載したチハが未だ完成していないのだ。
新旧97式の生産で各メーカーは対応に悲鳴を挙げている。
これは、新型中戦車への要求が全て含まれている。
つまり、現行中戦車への不満だ。
こうなると、どうせ今、何を決めても又”変更しろ”と誰かが言ってくるだろう。
開発本命の油圧操舵機構の機器試験も上手くいかない。
銅管でサーボの高圧は難しい。
圧力ホースが耐えられない。
切替サーボの圧力の均一化も難しい。
当初の案で目標の新型中戦車はもう辞めだ。
新技術は全て後回しにしよう。
今、戦場では完成品の戦車を求められている。
「そうだ。文句が在るなら…。現地で解決させよう。」
操作レバーが少々重くても現地で何とかするだろう。(ハンマーで。)
早速、根回しだ。
「はい?チハ…。新砲塔の話ですか?」
「いや、チハ改とチヘでは要求する性能が非常に似通ってしまった。チハに新砲塔ではチヘと同じになってしまう。」
「ええ…。ですが装甲や統制型一〇〇式の過給器付きで機動力と防御力は格段に向上します。」
「そうだが未だ試作だ。間に合わなければ…。チハ改と同じだ。」
「しかし…。」
「だから、初期型はチハ改と同じような砲塔を用意するが…。将来の車載砲の為にターレットリングを大きく強固にとる。」
「はい?」
「チハ改の拡大版だ、少々癪だが。エンジンを変更したり、砲塔を変更しやすくする。無論、正面装甲は50mmだが。追加装甲取付金具は当初から準備する。」
「車体幅の上限が決められています。ターレットリングを大きくするのは理解できます。これ以上砲塔が大きくなると人力では旋回不可能です。」
「そうか…。」
チハの車長は腕力で砲塔を廻していた。
チハの新型砲はハンドルで回転させる方式に変わったそうだ。
「現状のチハでも渡河機材がギリギリです、これ以上は耐えられません。それ以上に接地圧の関係で…。車体を伸ばすか履帯の幅を広くする必要があります。それ以上に重量が増えます。」
「うむ、重量か…。問題だな。砲塔や追加装甲を簡単に取り外せるように出来ないか?別々に運べばよい。砲塔の増大は動力で旋回させる方法を考えるか…。」
「砲塔は電動モーターで行けると思います。作業用の戦車回収車があれば…。」
「よし、砲塔の最大重量を幾つか想定してくれ。」
「え?」
「どんな要求が来るか判らない。野砲、高射砲、曲射砲何でも良い、戦車回収車でも均土車仕様でも良い。」
「はい…。」
これは全て97式に対する現場部隊からの苦情の答えなのだ…。
41年暮れに戦争が始まってしまった。
新しく製造されたチハ改は製造の車台の簡略化と改良も伴って現地部隊で大活躍のニュースを聞く。
重量増加も心配したが、現地では問題になっていない様子だ。
安心した、新型中戦車の現地での運用も問題なさそうだ。
そして、新型中戦車は去年、一式中戦車の正式名称を頂いた。
富士の裾野に並ぶ試作戦車の数々…。
全て砲塔の形状が違う、車台は全て97式改だ。
雪が残る荒れ地を走る一式中戦車は未だ砲塔が付いていない。
工場から到着したばかりだ。
97式改とターレットリングが同じなので新型砲塔群の試験を先行して97式改のシャーシで行っている。
射撃照準器等の補機の試験も先行している。
車体に乗せて一通り試験すれば一式中戦車は完成だ。
一通り走る一式中戦車が戻ってきた。
「どうだ?」
吐き出す息が白い。
「始動してからしばらく発動機の回転数が不調です。今は良くなりました。暖気運転が重要です。」
「寒いからだろ。」
ディーゼルエンジンの泣き所だ。
満州で散々聞いた。
「おそらく、過給器と燃料噴射が合ってません。相模の戦車道路で秋に測定した内容とは全く違います、一度取り直すしか無いです。」
「戦地に送られる頃には夏だな…。エンジンが間に合っていれば…。搭乗員に調整のコツを覚えてもらおう。」
「結局現地任せですか…。」
「仕方がない、陸軍省は型式登録方式で一切の現地改修を認めていない…。」
車両に穴を空ける事も溶接する事も禁じている。
しかし、チハ改は違う。
エンジンから砲塔まで現地改修計画が進んでいる。
初期型チハのエンジン換装と新砲塔への交換計画だ。
南方攻略が優先されて大陸は後回しなのが現状だ。
追加改造の装甲25mm(戦時標準板)も…。
チハは曲面が多いので追加装甲板の隙間は砂を詰めることになっている。
現地の工兵は混乱しているそうだ。
その点、一式中戦車は全ての取付穴が用意されている。
砲塔をクレーンで外すフック穴も…。
「現地では…。煙幕展開装置も娑婆で花火師の工兵が手作りで取り付けているそうです。」
97式に関しては車体改と新旧砲塔、増加装甲型が入り乱れ、監督官も”数が帳面と同じで外す事が出来ればヨシ!”で備品検査は通る程度のナアナアだ。
(軍隊は員数が合っていれば問題無し。)ヨシ!!
「追加装甲も随分と行き渡った。」(行き渡っていません。)
「はい…、これから船の方に資材が廻されるので此方には来ませんね…。」
「一刻も早く新型中戦車を完成させて…。生産を揃える。どの砲塔から検査すべきか…。」
「八八式七糎野戦高射砲搭載砲塔と九〇式野砲ですね。一番重量が在ります。97式改では耐えられませんでした。」
「故障したのか?」
「いえ…、発射時の車台の振動で照準のブレが大きいのです。」
「やはり重心の問題か?重砲の衝撃を吸収できないのか?」
「はい…。しかし、九一式十糎榴弾砲搭載砲塔は97式でも十分に性能を発揮出来るのを確認しました。砲戦車仕様と重心の高さの問題だと思います。恐らく載せて問題無ければそのまま量産は可能です。無論、照準器の精査は必要です。」
各種の評価試験中の試作砲塔のチハ改を見る。
九〇式野砲搭載砲塔は車体から完全にはみ出している。
ターレットリングが車幅中心の一式中戦車ならば問題ないだろう。
一式三十七粍高射機関砲連装砲の対空戦車型に九八式臼砲発射台座型も在る。
流石に九八式臼砲発射台座は車台から発射はできない。
排土板で地面を均一化して発射台をクレーンで下ろして発射する。
車両後部は箱が増設してあり、予備弾倉と組立作業室だ。
元々、均土車仕様のジブ付き97式改の車台の改造だ。
ドライブシャフトからの動力取出しの方式が違う物を幾つか作ったので評価用の車台を二台用意した。
評価は終わりトランスファーは決定した。
どこかの部隊に行くハズだったが、一台余ったので流用した。(南方への部隊移動で置いてけ堀。)
秘匿兵器だったがシンガポール攻略で大活躍中と聞き一台を急遽改造したのだった。
後…。何故か在る海軍機関砲の二連装砲塔…。
流石にオープントップだ。
「うむ、正直作りすぎた…。」
「十五糎榴弾砲に置き換えが進んでいるので余った大砲を全部試しましたから。」
「まあ、良いだろう。砲塔を乗せ換えて追加装甲を装備して問題なければ…。量産だ、採用される事は決まっている。」
「欧州の戦場では重戦車が主流に成っていると聞きますが…。」
「それはもう既に別の部署で研究が始まっている。一式中戦車はあくまで97式中戦車の発展型なのだ。世界は帝国の内地の縛りに捕らわれない。16屯という壁をもう既に超えてしまった。」
「全幅2350mmという壁もですね。」
(´・ω・`)日本陸軍の戦車は技術ツリーが厳しい。
(´・ω・`)…。(ほら…。独立した研究室が好き勝手に開発してたから…。)1942年に統合されてからマトモに成ってる。
(´・ω・`)97式中戦車改(新砲塔)≒一式中戦車になってます。
(´・ω・`)一式中戦車≒三式中戦車(砲塔はチハと下位互換あり。)