第7話~平凡の終了~
サクラが、いやサクラの姿をした誰かは、俺を敵意のこもった瞳でにらんでいる。
サクラの様子がおかしい。
俺は最初そう思った。
「んだよてめえ!用があるならある、ないならないって言いやがれ!黙られるとむかつくんだよ!用がある、ない、それすらにも答えられねえってか!?」
しかし、この乱暴な言葉遣い、粗野な挙動、ラフな服装など、あまりにも相違点がありすぎてとてもじゃないがサクラとは言えない。
「……お前は誰だ」
「はあ?何訊いてんだよ!名前訊くならまず名乗る!その程度の常識すら知らねえのか!」
「ルネス。ルネス・ペンタグラムだ」
俺は言われたとおりに名乗る。妙に怖い、というか乱暴で、すぐにでも殴りかかってきそうな危うさがあった。
「……ペンタグラム?……『ペンタグラム』、ねえ……。オレはシドウ。シャドウでもいいけどな、シドウって呼べ。いいな?」
念押しされて、サクラのような乱暴な少女は名乗った。
「お、おう……。質問なんだが、シドウはどうしてここに?」
俺は刺激しないように訊く。サクラと瓜二つ、ということは双子ということも考えられる。
「あ?なんでそれを男のてめえに教えなきゃいけねえんだよ。ほっとけ」
その言葉には俺に対してだけではなく、男に対する敵意みたいのが見て取れて、まるでクレア姉のようだった。
シドウ、と名乗りここまでサクラと相違点があるのだから、まさか同一人物だとは思えない。きっと瓜二つの別人だろう。
「……そうかよ。邪魔したな」
俺はそれだけを言うと踵を返して公園を後にした。早く家に帰りてえ。
俺が足早に公園を去ろうとしたのは、きっとその思いだけではないはずだ。シドウに対する恐れのようなものも、少なからずあったと思う。
まったく、情けない話だ。
「……やあ、ルネス。遅かったね」
俺は唖然となった。
ここは家の玄関の前で、まだ家の敷地内に入っていないのに、親父がさえぎるようにして立っていた。普段家から出ることがめったにない親父が、こうして当然のように家の前に立たれると、意味もなく驚いてしまう。
「お、親父なんで外に出てんだよ」
「僕が外にでないなんていつ言った?僕はちゃんと働いているし、外出だってするさ。まあ、今回はさすがに事情が違うけどね」
こともなげに親父はそう言った。
「僕は今から戦闘に行くのだけれど……君も来るかい?」
そして、信じられないことをまるでコンビニに行くかのような軽さで言ってのけた。
「……は?戦闘?誰が誰と?どこで?」
疑問の声は震えていたのかも知れない。もはや俺の求める平凡は失われたのか、とも思った。
「僕とイノベートが、玻座真学園で」
「……は?なんで玻座真学園なんだよ」
「あそこはかなり広いからね。戦闘をするのにはもってこいなんだよ。君も来るかい?」
「誰が行くか!親父一人で行ってろよ!」
まさかこれ、親父の冗談じゃあるまいな。……というかこんなことまじめに起こられても困るんだが。
「ん?サラもクレアも来るってさ。ララも手伝ってくれるんだって。あとは君ぐらいなんだけど……」
ララ姉ちゃんも参加するのか?普段めったに家にいないのに、こんなときだけはいるんだな。
「行けるかよ。俺はペンタグラム家唯一の能力なしなんだろ?」
俺は自虐するように笑った。
俺の家は俺を除いて全員が全員何らかの特殊な能力を持っている。母さんなら『炎を操る能力』、クレア姉なら『ユージュアクション』、ララ姉ちゃんなら『心透視』などなど。親父は何の能力か本人でもわかっていないのだが何かの力を持っているらしい。つまり、決定的になんの力もない完全一般人なのはこの家において俺一人しかいない、というわけだ。俺が平凡をこよなく愛するようになったのもこのことが関係しているのかもしれない。
以上のことから、俺はこと戦闘や戦争、闘争や決闘に関しては完全に無力なばかりか、ついて行ったら間違いなく足手まといになって家族に迷惑書けるだけの邪魔な存在でしかない。
そんな奴が戦闘に参加すると言われても困るだけだろう。
「君が能力なしだってことは理解してるよ。でも僕は訊くよ。来るかい?家族の最後を見たくないのかい?」
親父がまた、飛んでもないことを言い出した。
「は?何言ってんだよ」
「戦闘をするんだ、死ぬことだってあるだろう。君は家族の死に目にあいたくないのかと訊いているのだけど?」
家族の死に目って言っても、俺一人だけだろ、戦闘できないの。だったら……
「もし、君が行くとしても、僕は君を守らない」
だったら、わざわざみんなに迷惑かけたくない。と言おうとしたところで、親父がそう言った。
「……どういうことだよ」
「君は自分が足手まといになるかもしれないと思って行き渋っているのだろう?だったら安心だ。君を守る人間は誰一人としていない。だから、足手まといにならない。なぜならまとわりつく手足に寄り付かせないのだからね」
人によっては、親父の言葉を冷たい奴だと決めつけるかもしれない。でも、俺にとっては、その言葉は迷いを断ち切る救いの言葉だったのだ。家族の足手まといになるくらいなら、死んだっていい。俺は常づね、そう思っている。
「……行くぜ」
「うん、それでこそ僕の息子だ」
親父は微笑んで言った。
「……さて。『ペンタグラム』、行動を開始しようかな」
親父の一言で、世界が一段と活動的になった……そんな錯覚を受けた。




