第18話~君と一緒に~
俺は、何も考えがまとまらないまま約束の日、約束の場所に来た。
「よお、ルネス。答えは見つかったか?」
シドウは三日前と同じく、クレア姉のコートを羽織っていた。
「いいや。見つけられなかった」
俺は正直に答える。こういうときは誠実さが一番だ。適当な嘘ではぐらかすべきじゃない。
「ふうん。そうか。……で?てめえはなにしにここに来た?」
「……は?」
「答えを見つけれなかったら殺す、って言わなかったか?殺されに来たのかよ、てめえは?」
「違うにきまってんだろ。……サクラを返してもらうぜ、シドウ」
俺がそう言うと、シドウはあはははは!と面白そうに笑った。
「あははははははは!!てめえ何言ってる!サクラは俺の分身だ!てめえのもんじゃねえよ!てかサクラを物扱いするやつにサクラの体を渡せるわけねえだろ!オレ達がイノベートでどんなに物扱いされてきたか、てめえ知らねえわけじゃねえだろ!?」
「それでも、俺は言う。サクラを返せ!」
俺は答えを見つけれなかった。
でも。
したいことは、しなければならないことは、見つけた!
「うるせえな!サクラは自分で引きこもってんだ!オレだってサクラと話してえよ!でも無理なんだよ!サクラは心の奥に引きこもって、オレの声さえ届かねえんだ!返せ?ふざけんな!できるもんならやってみろ!この三日間努力したのがてめえだけだと思うなよ!?」
……!!
「し、シドウも、……サクラと、話したいのか?」
「てめえは三日前なに聞いてたんだよ!?オレとサクラは親友だって言っただろ!?親友と話したくないわけねえだろ馬鹿野郎!」
そうだ。
俺は、思い違いをしていたんだ。
サクラと話したいのは俺だけじゃない。むしろ、シドウの方がその思いは強いのだ。
苦痛をともにした、親友なのだから。
「……シドウ。サクラを呼んで見ろよ。今、ここで試してみてくれ」
だから、俺はそう言った。
「……あ?ここでできるわけねえだろ。てめえがいるんだからよ」
「……サクラに伝えてくれるか?」
俺はシドウの言葉を無視し、そう告げた。
「……いいぜ。どうせ無駄なんだし」
この三日間、シドウは必死にサクラに話しかけていたのだろう。なのに全く返事をしないサクラに、シドウはなかば諦めているのかも、しれなかった。
「俺はサクラを否定しない。たとえどんな事実だって受け入れて見せる。……サクラ、俺と話そう!俺はサクラのことが好きかどうかわからない。だから!会って確かめたいんだ!会って話して、俺の気持ちを確かめたい!サクラ、一緒に話そう!俺はお前を否定しない!お前の口から事実を聞きたい!」
なんてひどい言葉だろう。俺はサクラに傷を広げろと言っているようなものだ。
……でも、俺はサクラから聞きたかった。サクラの口から聞いて、慰めてあげたい。……だから!
「そして、全部知った上で、お前を好きになる!」
だから、俺は今やるべきことを、今言うべきことを言うだけだ。
「……なんだよ、答え、決まってんじゃねえか」
俺が言い終わると、シドウはつぶやくように言った。
「決まってねえ。するべきことを見つけただけだ」
「……それを答えと言わずになんて言えってんだ……」
なぜか、シドウは悲しそうだった。さびしそうで、今にも消えてしまいそうな、そんな雰囲気だった。
「サクラがよ、返事したよ。……オレが三日間必死に語りかけてもだめだったのに、てめえが……ポッと出のてめえが、サクラと通じるとはな……」
俺は、何も言えなくなった。シドウの大切なものを奪ってしまったようなのに、謝るわけにもいかず、何も言えない。なんて言ったらいいのかわからない。
「……てめえは敵だ、ルネス。オレはてめえを信じねえ。サクラが信じ切っても、オレだけは信じねえ。オレの存在意義をこうもあっさり否定しやがって……許さねえぞ、ルネス」
その恨みごとも、黙って聞くしかない。
「……もし、サクラを泣かせてみろ」
そう言いいつつ、シドウの体が揺れる。ふらり、ふらりと。
シドウとサクラが、変わる。
「…………その場で、オレ達の味わった苦痛を…………味あわせて……やる………」
ふっ。
と。
シドウの、いや、俺の目の前にいる空色の髪をした少女の雰囲気が変わった。
とげとげしいものから、花のようにやわらかで、優しそうな雰囲気に。
「……ルネス様」
聞こえる声も、まったく違って聞こえる。喉の使い方からして違うのだろうか。
「サクラ」
オレは彼女の名前を呼ぶ。
「ルネス様、わたくしは、汚れています」
「知ってる」
「わたくしの手は、血に染まっています」
「知ってる」
「わたくしの心は、イノベートに壊されています」
「……知ってる」
「わたくしの存在は、不安定です」
「知ってる」
「わたくしは、ルネス様のことが好きです」
「……それも、知ってる」
「それでもルネス様は、わたくしを汚らわしいと思いませんか?汚らしいと、思いませんか?嫌いませんか?」
ここまできて、自分のことが好きかどうか訊けないところも、かわいらしいなと思う。
……誰がサクラを汚らわしいだって?
誰が汚らしいって?
誰が嫌うって?
そんなこと、誰が言った?
「嫌うわけねえだろ、サクラ」
イノベートにいた時のことは知らねえ。サクラが詳しく言わねえのなら、俺は知らなくてもいいことだ。
だから。
「たとえサクラが昔のことを隠していたとしても、俺はお前を嫌わねえ。俺はお前が好きかどうかわからねえ。でも、嫌ってるわけじゃ絶対ない。……信じてくれるか?」
だから、俺はサクラと一緒に過ごしたい。平凡とはかけ離れてるだろう。
普通には遠く及ばないことだろう。
……でも、俺は。
サクラと一緒に過ごすことが、とても魅力的に思えた。
俺がずっと目指してた平凡を捨ててでも、その価値はあるように思えた。
「……はい、ルネス様。わたくしはあなたを信じます」
だからサクラがそう言ってくれた時、純粋にうれしかったんだ。
「じゃ、帰ろうか、サクラ」
「はい!」
海岸沿いから俺の方へと迷うことなく来るサクラをみて、俺はどこかで、ほっとするのだった。
もう、これでサクラを失うことはない。ってな。




