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第15話~サクラ/シドウの過去~

 俺は海岸線に立つシドウを見据える。

 「なんのようだ、ルネス?てめえオレに気があんのか?」

 「ねえな。俺がようがあんのはサクラだけだ」

 「へえ。じゃあ探さなきゃな。オレは知らねえぜ?」

 とぼけるシドウに、俺は言う。

 「お前はサクラの別人格だろう?」

 俺の言葉にシドウの目がすっと、悲しげなものになった。

 「……そうだよ。どっから聞いた?……まあいいや。オレは確かにサクラに作られた人格だよ。……でもな、そうでもしなかったらサクラは壊れてたんだ。あまりサクラはせめてやるなよ?」

 「誰が責めるか。……なんでクレア姉をやったんだ?」

 俺はシドウを問い詰める。

 「向こうから撃ってきたんだよ。撃たれそうになったら殺せ、ってのはもう身体にしみ込んでんだ、仕方ねえだろ。……生きてんのか?」

 「ぎりぎりな。でも俺はお前を許さない」

 「わかってるよ。それだけか?じゃあな、オレは死に場所を探してんだ。海なら死ねるかな、と思ってな」 

 なぜだか、そう言うのがわかっていたような気がしていた。

 だから、俺は言う。

 「なあ、教えてくれよ。サクラとシドウに何があったのか」

 俺がそう質問すると、シドウは、ふう、と息を吐いた。

 「……なあ、お前、サクラのことが好きか?」

 「……?」

 「サクラのこと、好きか?」

 二度、念を押すように訊くということは重要なことなのだろう。

 「……正直、わからない」

 俺はわからない。こうしてサクラを追ってきたのは知人が大変な目に遭うかもしれなかったからだ。別に好きとかそういう気持ちはなかったと思う。

 でも、嫌いなわけじゃない。好きかもしれない。 

 だから、ここで安易に好きだと答えるのは、いけないことだと思った。

 好き、と答えてシドウの心象をよくするのは簡単だ。でも、それはやっちゃいけないことなんだと思う。

 サクラのためにも、シドウのためにも、俺のためにも。

 「……へ。そうかよ。じゃあ、教えてやる」 

 「……え?」

 「教えてやるっつったんだ。もしてめえが好きなんて答えてたら教えなかった。……もし好きになったとしても、それは本当のサクラじゃねえ。傷を隠して無理してるあいつを好きになるやつに教えたら、絶対に気持ちは消える。それに、出会って一日も経ってねえのに好きになんてなるわきゃねえだろ。一目ぼれは別だがな。……ま、つまり知っても好きになるかどうかはお前しだいだ」

 俺は聞いていいのだろうか。いまさらながらに疑問に思う。

 でも、迷ってはいけない。サクラは俺を好いてくれてる。そして、俺も、サクラが好きになりつつある。

 なら、聞かなきゃ。聞いて、覚悟を決めよう。

 








 「オレ達の人生は、牢獄から始まった」

 シドウの独白は、そんな言葉から始まった。









 オレ達の人生は牢獄から始まった。

 いや、正確に言えばオレがサクラの中に人格として現れたのは牢獄に入ってしばらくしてからだった。

 オレは存在した瞬間にサクラの過去を知っていたし、オレがどんな目的でサクラから生み出されたのかも知っていた。

 だけど、その恐ろしくて苦痛に満ち溢れた役割を背負わされても、オレは全くサクラを憎もうとはしなかった。そうならないよう作られたのかもしれないけど、オレは自分の意思で憎もうとはしなかった。憎みたくなかった。

 よく、今までこんなことに耐えれてきた、と尊敬にも近い感情がある。

 それは今でも続いている。

 だからオレはサクラの望むことなら何だってしてやりたい。だから、オレは今こうやっててめえの前で意識を保ってれる。

 サクラはてめえに知ってほしいんだよ。自分の過去を。自分の過去を知って、それでも変わらず接してくれるか……それを試したいんだ。

 だから、オレの役目は記憶を語る、スピーカーさ。

 じゃあ、言うぜ。心して聞けよ?

 オレ、いや、サクラはもともとイノベートっていう組織で作られた、クローンだ。

 生まれた時から言語を操れ、ある程度の戦闘もできる不老不死のインスタントソルジャー。

 それが、サクラの本当の役目だ。

 役目だった、かな。

 サクラは何万分の一の確率で起きる『突然変異種』だったんだ。

 オリジナルの母親の遺伝子に強く影響され、青い髪と青い瞳をもって生まれてきてしまった。

 それに気付くのが意識が芽生える前だったら、処分されて幸せになっていたのかも知れねえが、あいにく培養槽は色つきでな、色はわからなかったんだ。

 だから、サクラはこの世に不幸にも生を受け、そして。

 


 苦痛の限りを尽くされることになった。

 

 意味がわからねえ、って顔してるな?当たり前だよな。突然変異ぐらいがどうしたって思うのが普通だよな。

 でもな、普通じゃなかったんだよ、イノベートは。

 髪、目の色が違う。それは奴らにとって許し難い『違い』なんだよ。

 奴らが作りたいのは『シイナという神出鬼没の世界破壊者』であって、『青色の突然変異種』じゃねえんだよ。

 まあ、せっかく高い金使って作ったクローンだから、有効活用しなきゃ、ってなったんだろうな。

 だから、サクラ生まれて動いたその次の日には牢獄の中だった。

 不老不死を有効活用されてな、死ぬ心配のない実験材料として扱われたわけだ。

 いろんなことをされたぜ?

 拷問、薬物、精神攻撃、性的暴力、物理的暴力、ありとあらゆる苦痛。

 さすがに事細かに言うとオレも記憶がよみがえってまともじゃいられなくなるからな。詳しくは割愛させてもらうぜ。どうしても知りたきゃそこらにある拷問辞典でも調べてみろよ。その全部オレ達やられてるから。

 で、オレが生まれたいきさつだがな、そこんとこオレもよくわかってねえんだよ。サクラが生み出した妄想の友達が進化して人格になったのか、それともサクラが自分を守るために生み出したスケープゴートとしての人格か。

 そこら辺はオレにとってはどうでもいいんだよ。オレは今ここに存在してるし、サクラもオレの存在を認めてる。

 牢獄あっちでいた時は結構仲良しだったんだぜ?互いの傷を舐めあって、寄り添いあって。心の中でしか会話できなかったが、オレ達はそれでもよかったんだ。自分が苦しんでいる間はもう一人が励ましてくれる。そういう安心があったから耐えれたんだ。

 今でも、オレは嫌なことがあったらサクラに代わるし、サクラも嫌なことがあったらオレに代わる。互いが互いを守りあってんだ。

 で、サクラが生まれたのが今から19年前、つまりてめえが生まれる三年前、ってことだ。

 オレ達はてめえが生まれる年に洗脳と記憶抹消を受けてここ、琴乃若に来た。この街を滅ぼす爆弾を仕掛けて自爆するためにな。

 そこでサクラは――そうそう、この時オレはおさえこまれていて、詳しくは知らねえんだが――今の親父に助けられた。

 そこら辺はお前の家と変わんねえよ。……あ?知らねえ?まあいい。あとでルウにでも訊いとけ。

 で、オレがまた意識を取り戻せたのが、今日だった。今日の朝、気がつくとオレはベッドで寝てたんだ。

 何かされたのかと疑ったが、服とかには乱れはなかった。……まあ、つまりなんでオレが出てこれたのか全く分からなかったんだよ。

 サクラは記憶の抹消を受けていてオレのことやイノベートであったこと全部忘れてたみたいだからオレは出ようがないはずだったんだ。

 正直、今日オレがてめえと会えた理由はわかんねえ。でも、サクラがオレに身体の支配権完全に渡して心の中に引きこもってる理由は明らかだ。

 わかるだろ? 


 他人潟ひとがた 士絵紀しえきだ。

 

 あいつはイノベートでもかなり有力な人形つかいだ。他人の心を知りつくし、人を自由に操る。

 記憶なんかもその中、ってわけだ。

 サクラの記憶を消したのが他人潟なら、呼び起したのも他人潟だ。かなり脚色されてるようにも感じたが、正直その記憶が嘘という確証はない。オレ達はそろってあの頃の記憶があいまいだからな。

 で、あんなことされてたってことを思い出されたサクラは恐怖のあまりに戸惑って、今のあり様だ。

 オレから呼びかけてもなんの返事もねえ。今まであり得なかったことだったんでな、オレも戸惑ってんだよ。

 ……で、てめえはどうする?

 は?なに呆けた顔してんだよ。

 傷だらけの花嫁候補は嫌か?できることならまっさらな身体を汚したいってか?

 てめえはサクラの過去、秘密を知った。それから目をそらすんじゃねえぞ。

 ……そうだな、三日待ってやる。三日後、またここに来い。てめえの答えを聞かせろ。

 サクラと付き合うか、そうでないか。

 真剣に考えろよ?もしふざけた答え方しやがったら即座に殺してやるからな。

 








 ま、せいぜいがんばれ、ルネス。

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