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第11話~忠告の意味~

 ああ……気持ち悪い……

 久々に入った玻座真学園での戦闘後、私はずっと気分が悪かった。

 正確に言うなら、サクラの叫びが聞こえ、彼女の心を見てしまった時からだ。

 今でも不思議に思う。

 何なんだ、あの記憶・・は……!

 サクラが自らの心を守るために封印したはずの記憶だった。それを他人潟士絵紀に呼び起され、その記憶をもう一度追体験したのだ。

 ……気が狂うのもうなずける。

 正直私も危うかった。あんな残酷で冷酷で苦痛にあふれ恐怖にあふれたあんな狂った過去――

 ガタリ!

 その音にビクリとなって、私は音のした方向、自室の扉を見る。

 「……………………………なんだ、お父さんか」

 そこにはその昔私を恐怖から救ってくれた命の恩人、父親がいた。心配そうな目で、心もまた私を心配する気持ちであふれていた。

 私が過剰に反応したのはおそらく記憶のせいで過敏になっていたのだろう。だからなんでもない音がとてつもなく大きく聞こえた、それだけだ。

 ――大丈夫かな?気分悪そうだけど……――

 父親と二人きりでいるときは私だけがしゃべる。父親は黙って、心を私に見せてくれる。

 「………………………大丈夫。少し滅入ってただけ」

 ――サクラの心、どうだった?――

 「…………………………正直、ルネスには無理」

 率直な意見を私は言う。

 サクラは今や心が壊れてルネス以外の何者にも頼れなくなっているはずだ。その状態の人間は、全力で寄りかかってくる。まだ子供の部分が多く残るルネスにその荷は重すぎるだろう。

 「…………………………ルネスの平凡は二度と手に入らない可能性がある」

 私もおそらく、恋をすると依存するのだろうな、と予想をつけながら、言う。

 「…………………もう、彼女は平凡と程遠いところにいる。……まともな人間の生活に戻るのに、何カ月かかるか……」

 年単位でもまったく問題ではないだろう。

 ――そうか。……ありがとう、ララ。邪魔したね――

 そう言って父親は部屋を後にした。

 ……まったく、おせっかい焼きの父親のことだ、何かしらのフォローをするのだろうな。

 私はそう思うと、ベッドに寝転がり目を閉じた。

 ……あの記憶、夢に見なければいいけど。

 まあ、無理な注文だろうな、と半ば覚悟しつつも眠りに就いた。














 「……ルネス、様……?」

 「気がついたか、サクラ」

 サクラは一時間ほどで目が覚めた。

 今のところ特に目立った異常は見当たらないし、不審な言動もない。そのまま、さっきまでのサクラだった。

 「……すみません、わたくしのために……」

 ただ、少し自己卑下が過ぎるとは思うけど、まあ許容範囲だと思う。

 「気にすんな。俺がしたいからしてるだけだ。……世話になっとけ」

 「……はい……」

 いつも通りのかわいいサクラだ。何が壊れただララ姉ちゃんにクレア姉め。

 「……ルネス様……おひとつ、頼んでもよろしいでしょうか……?」

 サクラが申し訳なさそうに言った。

 「ん?なんだ?」

 喉が渇いたのか?どこか痛いところでもあるのか?

 おなかすいたのか?そばにいてほしいのか?

 手でも握ろうか?

 


「………殺して、くださいませんか?」



 なに、を、言ってるんだ、サクラは!

 「お前、何を」

 『気をつけなさい』

 ララ姉ちゃんの忠告が頭をよぎる。

 そうだ、気をつけないと。もしかしたら一言で全てが終わるかも知れないんだ。

 「どうしたんだ、急に?」

 俺はできるだけ刺激しないように言った。

 「……わたくしは今まで忘れていました。そして思い出した以上、わたくしは生きていてはいけないのです。こうしてルネス様のお部屋で横たわっているということでさえ、わたくしには許せないことなのです。お願いですルネス様。わたくしを殺してはくださいませんか?」

 「なんで殺してほしいんだよ。具体的な理由をだな……」

 「……わたくしは汚れた存在なのです。だからです」

 「汚れてなんかいない!!お前はよごれてない、きれいだ!」

 俺はとっさに叫んだ。よごれてる、なんて。

 けがれてる、なんて。

 サクラには言ってほしくなかった。言ってほしくない。

 「……そう、ですか。わかりましたわ。……少し、一人にしてくださいませんか?着替えをしたいのです」

 サクラはふとそう言った。思いとどまってくれたのか?

 「ルネス様にならいくらでも肌を晒してもよいのですが、それではルネス様が穏やかではないでしょう?……それとも、わたくしを隅から隅まで、ご覧になりますか?」

 「い、いや、いいよいいよ!恥ずかしい!」

 俺はそう言ってダッシュで部屋を出る。

 バタリ。

 俺は扉を閉めて、サクラを待つ。待つ。

 その時、親父が申し合わせたみたいに二階に上がってきた。もちろん俺とも目が合う。そして。

 「……何やってるんだ!」

 目を見開いたかと思うと、いきなり俺を怒鳴った。

 「え、親父?」

 「どくんだ!」

 戸惑う俺も無視して、親父は俺の後ろ、サクラのいる部屋に入ろうとする。

 「お、親父、今サクラが着替えて……」

 「君はしばらく黙ってて!」

 鋭く怒鳴られ、俺はぴしゃりと口を閉ざす。

 親父は蹴破るような勢いで部屋に入った。しかし、何も起きない。

 サクラが着替えているのだから、悲鳴の一つでもあるかと思って身構えていたのにも関わらず、何も起きない。

 「……おや、じ?」

 俺は親父と同じように部屋の中に入る。

 そして、絶句する。

 サクラが着替えると言った部屋。

 そこにはもはや人の名残はなく、その部屋には誰もいなかった。

 













 『あなたには荷が重すぎる』

 そのララ姉ちゃんの言葉が、頭の中で反響していた。 




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