005
(TOKUJIROU‘S EYES)
――???:ステージ1・山の中――
ここは、森の中だろうか。
背後には、薄暗い木々が見えていた。
地面は土、さっきまでいた研究所の場所はここからもう見えない。
後ろには三人ではなく、いつの間にか一人になったジャガーマン。
二人は、いつの間にか消えていた。
残っているのは、マラカス持ちのジャガーマン一人だけ。
それと、吾亜の幻影もまだ残っていた。
「で、どうやってスタートをする?」
「君は、コントローラーを持っているはずだ」
「ああ」ずっと俺は右手に、コントローラーがあった。
マラカス持ちのジャガーマンが、無言で俺に渡してからずっと俺が持っていた。
コントローラーは十字キーにスタート、セレクトボタン。AとBボタンのシンプルなモノだ。
NES自体が、昔のゲーム機なのでコントローラーはとてもシンプル。
「スタートボタンを、押シタマエ」なぜか、たまに片言になる吾亜。
「これか?」
俺はスタートボタンを押すと、目の前にいた一人のジャガーマンが迫ってきた。
手にマラカスを持ったジャガーマンの体が、俺と同化した。
いや、ジャガーマンの方が俺より体は大きい。
俺が、ジャガーマンの体の中に入ったと言う表現が正しいだろう。
「彼の名は、アニエス。ジャガーマンの三男だ」
「それはいいけど、なんで武器がマラカスなんだ?」
「さあな、画像の解像度が影響しているだろう」
「意味が、よく分からないが……」
「後は、君は彼らになりきってステージをクリアする。少し動かしてみたまえ」
吾亜の言葉通り、コントローラーを操作するとジャガーマンの体が動く。
Aボタンは攻撃で、Bボタンはジャンプか。シンプルだ。
「操作はこれで、分かっただろう。
ではこの体を動かして、君はクリアをしてもらおう。ではさらばだ」
俺の目の前で、吾亜が消えた。
幻影が消えたからといっても、俺の置かれた状況は変わらない。
だが唯一、変わったことがあった。
「なんだ、この軽快な音楽は?」
聞こえてくるのが、ゲームミュージック。
クセの強い音楽が、流れてきた。
「大丈夫なの?」
「ああ、ゲームをすればいいらしい。リセットはダメみたいだけど」
「あたしはリセットしないよ」
「でも、NESは昔のハードだよな」
「そうだね」龍華も納得していた。
「とにかく早くクリアしよう。長時間ゲームをやりすぎると、バグったりしそうだし」
「そうね、クリアすればいいんでしょ。
あたしは、テレビの前で応援するから」
「おう、任せろ」幸いなことに、俺はゲームが得意だ。
見た目は、アクションゲームのようだ。トップビュー視点の、アクションゲームか。
操作方法は、極めて簡単だ。
十字キーで体を動かすと、ジャガーマンも動く。前に進むと、すぐに敵が出てきた。
「うわっ、ちっさ」
小さい敵だ。だけど、攻撃ボタンは分かる。Aボタンだ。
敵がこっちに向かってくる瞬間に、マラカスで攻撃。
マラカスの先端が当たると、敵が爆発飛散した。
(なんで、爆発?)などと思いながらも進む。そんな俺に、声が聞こえた。
「どう、徳次郎?」
「ああ、なんとかな」
「なんとか、どうなの?」
「そこは、突っ込まないで欲しい。今のところは順調だよ」
外にいる、龍華とも普通に会話ができた。
どうやら、龍華がコントローラーを持っているときだけ会話ができるようだ。
(それにしても、この変な音楽)
聞こえてくるのは、耳に残る癖のある音楽が聞こえてきた。
ゲームミュージックだろうか、独特の音楽だ。
(だけど、俺の攻撃が当たると)
俺の目の前に、変な白い塊が近づいてきた。
俺は、マラカスで叩くと白い塊がボーンと音を立てて爆発飛散した。
それと同時に、なぜか音楽が一瞬だけ途絶えた。
(これは処理落ちだよな、昔のゲームあるあるの)
世界はドット絵の世界、北米ファ○コンの8ビット機だから画像も粗い。
まさに、ゲームの世界の雰囲気だ。
最近はリアルすぎて実写と変わらない世界のゲームが多いけど、完全にこのゲームの時代が古くさい。
まもなくして、見えた梯子。
俺は、周囲を調べてみようとした。
だが、そこで敵が突然現れた。
見た目は蜂のような敵、前に歩いていた俺は回避できずに。
ぶつかった瞬間、蜂は爆発して砕け散った。
だけど、俺もまた胸の辺りが火傷するかのように熱かった。
「なんだ、この炎に焼かれたような衝撃は?」
俺の体に、変化はない。
だけど、敵にぶつかった瞬間にはっきりと火傷のような熱さを感じされた。
「言い忘れていたよ、一つだけ」
突然、吾亜の声が俺の頭に響く。
しかし、吾亜の姿はどこにもない。
「君がダメージを喰らう度に、君の精神にもダメージを受けるようになっている。
安心シタマエ、君は死ぬことは無いと思う……まあ、ダメージ次第では死ぬかもね」
「ふざけるな!」俺は叫んだ。だが、その声は吾亜だけではない。
ゲームコントローラーを持つ龍華にも聞こえていたことを。