002
翌日の朝、俺は自宅……の隣に来ていた。
家の表札は上三川とローマ字表記。
変わった名字のお隣さんの家に、俺は上がり込んだ。
隣の家は、とても新しい一軒家。六年前に引っ越してきた二階建ての建物。
庭は少し狭いが、家はとても広い。
その二階に、俺は来ていた。
二階の部屋は、八畳の部屋。綺麗なフローリングに、ピンクの壁にオシャレな家具。
英語で書かれたロック歌手のポスター。家具からも、アメリカンな雰囲気が漂う。
おまけに、オシャレな暖炉がある部屋だ。
なによりも、ここは女の部屋だった。
「徳次郎、ハロー」
部屋主の女が、明るく声をかけてきた。
黒いツインテールを赤いリボンで縛っていて、おっとりした目と白い肌の若い女。
服は黒のガウンジャケットに水色長袖シャツ、華奢な少女の体には少し大きな服。
赤とピンクの長いズボンをはいていた少女は、俺を好意的に出迎えていた。
彼女の名は、上三川 龍華。六年前から、幼なじみだ。
年齢は、俺より一つ上の高二女子。見た目は日本人だけど、生まれはカナダのトロント。
両親の仕事の都合で、カナダ転勤の後に日本に戻ってきた。
そのため龍華には、日本人にはない独特の雰囲気があった。
「ああ、邪魔するぞ。後、携帯充電を、させて」
「オッケー、いいよ!」
俺は慣れた様子で、自分のスマホを充電させてもらっていた。
龍華の部屋には、中学の時も俺は何度も来ていた。
本来中学生だと、男女で気まずい空気になるけど彼女にはその雰囲気がない。
俺も、そんな龍華に抵抗なく接していた。
まあ、俺たちの家族同士の付き合いが頻繁なのも理由ではあるが。
「相変わらず、面白い名前ね。トクジロー」
「何を今更?」俺はよく分からないが、龍華は俺の名前がお気に入りだ。
「で、何しに来たん?」
「ああ、これ……知っているか?」
俺はそういいながら、灰色のカセットを取り出した。
「『クソゲーフェスティバル』、なんですか?」
少し日本語のアクセントが、おかしいところがある龍華。
「ゲームはいいんだ。
このゲームって、お前の持っているハードじゃ起動できないかって……そう思った」
「おー、そうですね。この形なら、多分できますよ。ちょっと待ってね」
龍華が、何かを思い出したように部屋の外に出て行った。
女の部屋に、待たされることなった俺。
カラフルな家具や、英語のポスター。だけど、周囲のピンクの壁は目立つ。
「お待たせっ!」龍華が持ってきたのは、ゲーム機だ。
少し年季の入った、白いファ○コンによく似たゲーム機を持って俺の前に現れた。
それを、慣れた手つきで龍華が部屋にあるテレビにセットしていく。
見た目は、ファ○コンの本体に見えるが少し大きかった。
「ああ、これこれ!」
「うん、NESね」
白いゲーム機を、部屋に置いてあるテレビにテキパキとセットし終えた龍華。
俺は、この存在を知っていた。
なぜなら俺は、龍華と子供の頃これで遊んだ記憶があったからだ。
独特なカセット形状を見て、俺は閃いたのだった。
「おっ、入りそうだな」カセットを持って、龍華の手際を見ていた俺。
「うん、でも……」
「どうした?」俺はそのまま、白いゲーム機にカセットを入れてみた。
カチッと、しっかりとなじんでいた。
「このソフト、見た事が無いわよ」
「まあ、マイナーゲームだろ。1000円福袋のゲームだし」
「福袋って、本屋の?」
「ああ、あの本屋」
「へー、福袋好きなんだ」
「たまたまだよ」
この部屋に俺は福袋ごと、持ってきていた。
その中身を、興味深そうな顔で見ている龍華。
俺は龍華と会話をしながら、スイッチをオンにした……してしまった。
コントローラーを持って、スイッチを入れた瞬間に俺はテレビを見る。
暗かったテレビ画面に、何かが映った。それは金属だ。
「な、何だ」
黒いテレビ画面から、機械のアームがいきなり俺に目がけて伸びてきた。
それは、実体を感じられた。
そのまま金属の手が、コントローラーを持っていた俺の右手を引っ張り込む。
なんだ、凄い力だ。
突風にあおられるかのように、俺の体が浮かび上がった。
「えっ!」気づいたときには、既に俺は機械のアームから体を引っ張られていた。
その力は、座っていた俺の体を簡単に持ち上げた。
そのまま、俺は何の抵抗もできずにテレビ画面の中に引っ張られた。
龍華は、少し離れたところで呆然と見ていた。
たった、一人この部屋に取り残されていた。