001
(???‘S EYES)
この世界には、二種類のゲームが存在していた。
神のように面白いゲーム『神ゲー』。
クソのようにつまらないゲーム『クソゲー』。
神ゲーと称されたゲームは今も尚、人の記憶の中に生き続ける。
だがクソゲーと称されたゲームは、やはり記憶の中に生き続ける。
それはなぜか?クソゲーはクソゲーだからだ。
要はクソゲーが生み出すインパクトこそ、人の心に残るのだ。
そして、今もなおクソゲーは世に生まれ続けている。
だが、最近のクソゲーはあまりにも脆弱だ。
かつてのような強いクソゲーは、いろんなゲームによって埋没していた。
ゲームが増えすぎて、クソゲー自体も目立たなくなっていたのだ。
ならば、私が作ろうでは無いか。
全てのクソゲーを超越した、伝説に残るクソゲーを。
世界を大きく変えてしまう、インパクトのあるクソゲーを。
今の技術を全て凝縮した、最強のクソゲーを。
(ああ、ついに生まれたようだ。かつてのクソゲーを集めた、究極のクソゲーが)
闇の中で、私はパソコンに向かって一つのゲームを完成させた。
それはいくつものレトロゲームが置かれていた、究極のゲーム。
(さあ、クソゲー三昧の時間の始まりだ)
闇の中で、私は不敵な笑みを浮かべていた。
暗闇の中、黒い影の私は一つのカセットを手にしていた。
(このゲームは、完成した。素晴らしいクソゲーだ、さて初め……)
だけど私は、テレビ近くのゲーム機に向かって気づいた。
(あ、このソフト……形が違うっ!)
それと同時に、私はその場に崩れてしまった。
同時に、某ゲームの全滅の音が私の脳裏に聞こえた……ような気がした。
(TOKUJIROU‘S EYES)
2023年1月3日、この日の俺は本屋に来ていた。
ここは宇都宮市街地にある大きなチェーン店の本屋。
本屋だけど、ゲームも、CDも、レンタルも、化粧品まで売っている何でも取り扱う二階建ての本屋。
本屋外のベンチで、三人組が座っていた。
黒のパーカーの上に、同系統のジャンパーを羽織っていた。
藍色のジーンズを着た細い目で、細い体の俺。俺の名は、『猪俣 徳次郎』。
現在、高校一年のどこにでもいる男。
通っている学校は、通信教育の高校ということ以外が普通の高校生。
この日の宇都宮市内は晴れていたが、町中には少し雪が残っていた。
年末に雪が降っていたので、年を越しても日の当たらない植え込みには雪が溶けずに残っていた。
そのせいで、今もとても寒い。
「ガンタ、ロウチ生きているか?」
「ああ、なんとかな」
「僕は死んだけどな」
僕が話しているのは、親友の二人だ。
一人は、背が百六十ほどでとても小さい。
小柄で、少し猫背でクセのある銀色の長髪。
白いファージャンパーを着て、真っ白のズボン。
彼の名は、『曲師 狼一郎』。あだ名は(ろういちろう)から『ロウチ』。
彼の足元には、赤と白の袋が見えた。
狼一郎と向き合って座るのが、大きな男。
三人の中で一番背が高く、肩幅も広い。体重は九十キロを越えた巨漢の男だ。
日に焼けた肌で大柄の男は、冬なのにアイドルがプリントされた半袖シャツを着ていた。
さらに茶色の短パン、太く日に焼けた足が見えた。
彼の名は、『岩田 建男』。あだ名は『ガンタ』。彼も又、赤と白の袋を持っていた。
「死んだのか、ロウチ」
「爆死だよ」狼一郎は、笑っていた。
「何が出たの?」
俺が、狼一郎の持っていた赤白のめでたい柄の福袋の中を覗く。
そこには、売れ残りのプ○ステのゲームソフトが入っていた。
「3000円袋だしな」
「お年玉を、あほみたいに無駄に使ったぜ。元も取れそうにないし」
狼一郎は、無邪気に笑っていた。
「福袋は、店側の都合」建男が、鋭い突っ込み。
「それをいっちゃあ、おしまいよ」
「売れ残りばっかりだもんな、これ」
岩田が取り出したのは、謎のゲーム。
なんだ、このゲームは?ゲーム雑誌をよく読む俺でも、全然知識が無いパッケージのゲームだぞ。
「でも、ロウチ」
「ん?」
「どうして、急に福袋を買おうと思ったのさ?」俺は聞いてみた。
「そりゃあ、久しぶりに会ったしな。記念に……な」
狼一郎は、照れくさそうに俺に言っていた。
はにかんだ茶髪の狼一郎が言うのは、理由があった。
俺たちは中学までは同じの親友だし、同じ部員だった。
だけど高校を機に、俺たちは別々の道に進んだ。
それでも、俺たちの仲は引き裂かれない。
去年の年末にロウチからきたLOINで、俺たちは久しぶりに集まってこの本屋に来た。
本屋のゲーム販売コーナーで、福袋を買い現在に至る。
「ああ、そうか。
でも福袋買っても、金をドブに捨てているようだけど。
やりたいゲームは、ないし」
「いいんだよ、こういうのも。たまには。
ちょっと変なことが起こった方が、人の記憶に残るだろ。
徳次郎は僕らのこと、忘れていないよな?」
「ああ……大丈夫だ」
心配する狼一郎に、俺はにこやかに返事を返した。
岩田の顔も、不安が滲んでいた。
「それにしても、Eスポーツ部はどうだ?」
「うん、先輩も優しいし、みんな強いよ」
「でも、この前の大会で優勝していたよな」
「ああ、あれか。この前の冬のオンライン大会か。たまたまだよ、巡り合わせも良かったし」
俺は某スマホゲームの大会に出て、優勝をした。
ネットでも、大会の動画が乗っていて俺はちょっとした有名人になった。
今度は、日本代表のトーナメントにも参加することが決まっていた。
その話を、狼一郎も建男も知っていた。
「大丈夫だって、俺は今でもお前達が親友だよ。
何があっても、何が起っても、親友は変わらない」
「徳次郎……」狼一郎は、泣きそうだ。
泣きそうだけど、グッとこらえていた。
「徳次郎、もう一個の福袋は?」
岩田が、俺の開けていない1000円福袋を気にしていた。
相変わらず、マイペースな岩田だ。
「えと……これと……これ」
そこに出てきたのは、謎の漫画。
アメコミだろうか、見た事の無い古い漫画。
文字も英語だし、見た事がないキャラが描かれていた。これはジャガーか。
他に俺が福袋の中をあさると、最後に一つのカセットが出てきた。
「な、何これ?」
「それ、昔のゲームのカセットだけど……よく見ると、ファ○コンじゃないよね?」
「ああ、なんだこれ?」
出てきたのは、灰色のカセット。
だけど、そのゲームカセットのラベルを見て驚いていた。
「『クソゲーフェスティバル』?」日本語で、そう書かれていた。
「このゲーム、自分でクソゲーって言ってね?」
「変なゲーム」
狼一郎と、岩田も不思議そうな顔で見ていた。
それでも、俺は怪しいカセットをじっと見ていた。
「やっぱ、ネタゲーじゃねえのか!」
福袋のゲームを見て、叫ぶ狼一郎。
だけど、俺はこのゲームカセットの形を見て気になったことがあった。
「このゲームって、海外のゲームじゃ無いか?確か……」
俺はこのカセットを見て、何かを思い出した。