火の点かない薪
人生の義務から解放された第一日。
外は暗く、部屋の中でストーブの音だけが耳に入る。
寝転がって聖書を読む。興味の持てない文章を読み進めていく。目と頭が疲れる。
先をめくると、たくさんの預言者の名前が出てくる。ハバククとかゼカリヤといった、ポケモンの名前のようなカタカナの字が続いている。紐のしおりを挟み、少し頭を休めるために横になる。
火の点いていない薪を見ているようなもどかしさ。
あまりにも退屈なので、ただ一つ残った自分の心をじっと観察する。
思い出を火にくべる。
大した燃料にもならずにまた心がからっぽになる。
まだカバンにしまったままになっている、昨日もらった寄せ書きには、お世話になった人たちからのお別れの言葉が書かれている。もらった瞬間は嬉しかったが、よくよく読んでみると、みんな似たり寄ったりのことを書いている。この人は自分のことが好きではないのだな、ということも分かったりして、嬉しいようで悲しかった。
「まだまだ若いのだから……」という課長の言葉を見、若くても自分の人生の道幅は他の人よりも狭いのだ、と思いながら、この先のことを考える。部屋の中で一生を終える覚悟はできている。




