宿とギルド
部屋から出てきたのが遅かったので、宿屋の主人に一声かけて飯にする。
主人お得意のスープがいつもある。
「すまない」
「いいよ」
作業の邪魔をした形になった。
果実水は作り置きのものだ。
酸味が強めで傷むのを防いでいる一般的なものだが、食事にはあう。
夜にはギルド内対抗の出し物がある。
年越しにつきものでどこのギルドでもやっている。冒険者も世話になっているお気に入りの異性スタッフに御ひねりを渡せるから大騒ぎになる。
演者側ではないが呼ばれているし顔出しはしておきたい。
パーティーの担当のマリア女史は独自枠で今年も美声を披露するだろう。
スタッフと教官組は勇者物語の劇を集団で演じるのが伝統だ。
購買のデイムは販売品を使った芸をやるらしい。
掛け声をかけるやつが観客側にいないとな。
スープに魔猪肉の欠片が入っていた。ごちそうさま。
初級越えのアクセサリは失敗をもって完了した。
諦め悪くいろいろ考えている。
何かが足りていない気がする。まずは『質』だと思うが…今までのやり方をどう変えればもっと魔力が込められるのか。魔石トーチが悪いわけじゃないはずだ。
初級は失敗せずにできるのだからと自信を持つ方に考える。
自分用に体格強化で作ったペンダントを身に着ける。
腰が楽になった。もう施術院に行かなくてもいけるだろう。
もっと売れてもいい気がするが、使うまでわからないだろうなあ。
ギルドの新人では細工品まで気が回らないだろうし、効果も他の装備品より優先するほどではない。
「ごちそうさま」
「おう」
作業に戻る。
「夜はギルドね?」
女主人のママリッサだった。洗濯物を抱えている。
「そうするよ」うなずいて部屋へ入った。
ギルドの紹介で格安の触れ込みだが狭いのが難点だ。一つ下のグレードの部屋ほどじゃないが、荷物がある分狭くなる。
ほぼ自室のように使っていて長いので、長期契約にしてもらった。日に銀貨3枚で二食付いてるがその辺は、考え方次第か。荷物置きに1枚追加で払ってる。
似た広さの隣の部屋はずっと開いている。
広い部屋もあるが…中級以上向けだ。また金持ちの長期滞在者が住んでるのは別館で、《南の冠》といえば本当はここだ。
贅沢は言えないがもう少し広い部屋に住みたい。
占いでは寒波が遅れてくると言っていたらしいがどうなるか。
みなに良い巡り合わせがあるといい。