道具の修理
昼食前だが、ギルドの酒場で麦酒を飲む。
続けざまに人が出入りしていた。配達人も受け取りに来ている。
見た目の客数より忙しいのだ。
昨日の夜、細工用のトーチが壊れた。
動作が安定しなくなり、唸るようになったので寿命だろう。
道具屋に行って直せるか聞いてみるしかない。
だめなら新しいものを買うことになるが痛い出費だ。
上級細工師ではないのだ。こだわりはない。
小一時間休んで出る。わずかに口が渋い。
職人街まで歩く。プラムがうろちょろしている。
「道具屋までだぞ」「ウン!」
今日は狩猟のパーティには参加しないようだ。鹿狩りも一人の方が気楽らしい。
かなり歩いて商人街を抜けて通りを歩く。
古い石組みの家が道具屋だ。クラフト専門の道具屋だが、ギルドと提携しているので生産職用のツールの紹介もここでしてもらった。
初級用途ならここのものでいい。複雑なものになると別のカスタマイズを受けてくれるところに相談しに行くことになるが、そこまで細工を続けるかどうか…。
独特の臭いが立ち込めている。プラムの尻尾が揺れた。
あいさつと同時に店に入る。
「修理できるか?」
「見せて見ろ」
頑固おやじといった面持ちの亜人種のじいさんだ。
「こりゃ買い直した方が早いな」
「そうか」
「だが直せんこともない。今日持って帰るか?」
「そうしたい。頼めるか?」
「わかった。待ってろ」
じいさんがガチャガチャと音を立てて分解作業を始めたので、こちらは店内を物色する。
中級にも使えるツールがあるが、どれも高い。冬の予算を崩すか、貯めないと手が届かないな。
プラムは興味なさそうに外へ出て行った。屋台でも嗅ぎつけたんだろう。
まだかかるというので安い素材を探しに出る。
数軒回っていくつか質のいいのが手に入った。
これで初級越えを狙ってみるか。
しばらくして戻ると作業が終わったのかじいさんが片眼鏡を外していた。
「替えの魔石を入れるところが摩耗してきてる。次は買い替えろ」
「わかった」
「払いはこれでいいか?」銀貨3枚を革袋から出す。
「銀貨2枚でいい。3枚だと取りすぎだ」
「いいのか?」
「元はといえば俺がギルドに納品した道具だ。面倒見るのも俺ってわけだ」
「助かる。またなじいさん」
「おうよ。次は腕を上げて中級のも買っていけ」
「考えとくよ」
手を上げて店を出る。安く直ってよかった。
プラムは串焼きを頬張って猫と戯れていた。
片手にはもう一本の串焼きがある。
「はい!」
「ありがと。いつもすまんな」
エヘヘッという笑い顔でプラムがうなづいた。
その日の初級越えの挑戦は失敗した。
まだ初級品で細工を続けた方がよさそうだ。