中編
残酷、胸糞描写ありです。
「...小百合さよなら」
「ちょっと待って!」
走り去る長谷川君に慌てて手を伸ばすが、彼は既に消えていた。
まずい事になってしまった。
長谷川君にだけは知られたくなかったのに...
「やってくれたな詩織...」
地を這うような声を出す亮太様。
視線の先には亮太様の彼女、山崎詩織さんが冷めた目で私達を見つめていた。
亮太様の態度に先程まで散々いたぶられていた私の身体が萎縮した。
「何の事かしら?」
全く意に介す様子の無い詩織さん。
彼女は長谷川君の幼馴染み。
相思相愛に感じたがなぜか亮太様と付き合っている。
でも詩織さんは亮太様に全く好意が無いのは私にも分かった。
「ふざけるな!
俺がホテルを出るのを知っていて孝文を連れてきやがって!」
「知っていたらどうなの?」
冷たい視線で亮太様を見つめる詩織さん。
さすがの亮太様も怯んでしまった様だ。
だから詩織さんに亮太様は手を出せないのだろう。
「隠れてコソコソやってるからよ、だから孝文に教えてあげただけの話。
そういう訳だから今日でお別れしましょ」
「なんだと?」
「あのね、一応付き合っていた彼女の前に彼氏がラブホテルから別の女と出てきたのを見たのよ、許すと思う?」
「...ぐ」
小さい子供を諭す様に話す詩織さん。
全く反論の余地は無かった。
「それじゃ」
「待て!!」
焦った表情の亮太様。
いつもの凛々しさは消えて...
どうしたんだろう、亮太様が眩しく見えない。
「離せ」
「痛っ!!」
去ろうとした詩織さんの肩を掴む亮太様の手を彼女は叩き落とす。
詩織さん美しい動作は私の脳裏に焼き付いた。
「...畜生」
「亮太様...」
苦しそうに呻く亮太様...亮太の右手は赤く腫れて、気がつくと数人の人が私達を見ている。
「見世物んじゃねえぞ!」
亮太が怒鳴り散らすと辺りの人は目を逸らして去っていく。
こっちが彼の本性だったの?
「早く来い!」
「痛い!」
強引だよ、いつも彼はそうだ。
私の気持ちなんかお構い無しで。
「何処に行くの?」
「俺のマンションだ。
畜生、詩織の奴...」
彼は手を擦りながら通りに出ると、通りがかったタクシーを掴まえ、ようやくこの場を去る事が出来た。
「どうする?
孝...糞野郎に見られちまったな。
言いふらされたら大学で俺の立場はおしまいだ」
彼はブツブツ呟く。
この期に及んでまだ自分の保身しか頭に無いのか。
「どうした?」
「...此処で良い」
タクシーを降り、彼のマンション前で立ち止まる。
もうこれ以上一緒に居たく無い。
「いいから入れ、俺が良いって言ってるだろ!」
「分かったから!」
彼は滅多に自分の部屋に私を入れない。
いつもラブホテルで自分の欲望をぶつけてサヨナラなのに。
本当は、この数ヶ月ずっと嫌だったんだ。
コイツとセックスする事が...
「畜生...詩織の奴、調子に乗りやがって。
少し痛い目に遭わすか」
部屋に入り、椅子に座るとコイツは何やら恐ろしい事を言い始めた。
痛い目ってまさか?
「もう止めよう?
詩織さんを苦しめちゃダメだよ」
「いいや、その気も無い癖に俺をコケしたんだ。
後悔させてやる」
確かに、詩織さんにも落ち度はあった。
長谷川君...孝文さんに未練を残したままコイツの告白を受け入れてしまったんだ。
詩織さんの理由は分からない。
でも受け入れ無くて良かったんだ。
私の様にならなかったんだし。
「なんだよその目は?」
血走った目で私を睨む。
もうコイツには嫌悪感しか感じない。
「もう嫌なんです」
「何?」
「詩織さんの代わりに抱かれるのも、孝文さんを騙すのも...」
「ふざけるな!
お前は俺に従ってれば良いんだ!
おとなしい面してビッチがよ!!」
「....なんて言ったの?」
クズの言葉に全身の血が失せる。
「何度でも言ってやる、田舎娘だと思って誘ったらやりマンだったじゃねえか!
ふざけやがって!」
コイツに始めて抱かれた時、私は確かに処女では無かった。
しかし誰彼構わずセックスをした訳じゃない。
初体験は高校時代の彼氏だ。
別々の大学に進学した事で、すれ違いが起きて別れてしまったんだ。
コイツ以外にセックスしたのは彼だけなのに!!
「そうだ、孝文に連絡を取れ」
「は?」
「ヤらしてやれよ、あの野郎は童貞だ。
馬鹿みたいに腰振るぜ」
「...どうして孝文さんは友人じゃないの?」
酷い言葉、信じられない。
私を孝文さんに近づける時、
『恋愛慣れして無い彼に手解きをしてやれ』コイツはそう言った。
最初は嫌だった。
でもコイツと別れる恐怖に私は逆らえなかったんだ。
しかし時間が経つにつれ、孝文さんに対する気持ちが変わって行った。
不器用な彼は詩織さんへの気持ちを伝えられないまま、私と付き合っている事に気がついた。
その事は私の罪悪感を軽くさせた。
[疑似恋愛]
歪な関係は仮想の恋人同士。
それは空虚な私の感情を満足させた。
「あんなヘタレ野郎が友達?
冗談止めろ!
詩織が好きな癖に何も言わねえでウロチョロしやがって!
他の女までヘタレ野郎をチラチラと...
お前までまさか、あの馬鹿に?」
「ええ、好きよ。
不器用なところ、奥手でヘタレなところも。
何よりお前の妨害に詩織さんと距離を置きながら、ずっと彼女を想い続ける一途さがね!!」
気持ちを一気に吐き出す。
もう、全てが遅いんだ。
こんな奴に、あの時コンパに行かなければ...クズの誘いを断れば良かった。
「お前だと...」
クズは真っ赤な顔で近づく。
もう覚悟は出来ている。
コイツのセックスは叩いたり、絞めたりと暴力的な物。
スカートや半袖が着られなくなったんだ。
「ふざけるな!!」
頬に激しい痛みが。
これはセックスの時と違う、本気の暴力だ。
「お前は黙って従ってれば良いんだ!
奴隷が逆らうとどうなるか教えてやる!」
クズは私の服を破り棄てる。
血走った目は益々狂気を帯び、完全に狂っているのが分かった。
「....これで分かったか」
上がった息が聞こえる。
裸の私は全身をぶたれ、床にうずくまっていた。
顔こそ最初の一発で済んだが、身体の至る処が青白く滲み、熱を帯びていた。
「もう、歯向かいません。
...亮太様赦して下さい」
クズに土下座の姿勢をする。
いつもラブホテルでしている様に...
「分かりゃ良いんだ...」
クズは自分の服を脱ぎ捨てる。
私はクズの身体が準備完了しているのを確認した。
「触るな!!」
「ギャァァ!!!」
全力で振り下ろした右手の側面に何かが折れた感触。
クズは股間を抑え悶絶する。
「終わりね」
破かれた自分の服から録音されたままのスマホを取り出し、電話に切り替え通話のボタンを押した。
「もしもし警察ですか...」
悪夢に幕を下ろす電話を掛けた。
....さようなら孝文。
1話延長します。