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前編

[孝文、アンサンブルで待ってます]


「何だこれ?」


 講義が終わり、帰り支度をする俺に届いた一通のメール。

 件名に[西加大学事務局からのお知らせ]とあったので何も考えず開けてしまったが書かれた内容に絶句する。

 送信先のアドレスには見覚えが無い。

 迷惑メールだろうか?


 しかしスパムにしては俺の大学名と名前が記載されている。

 それにアンサンブルという名前にも覚えがあった。


 喫茶アンサンブル。

 コーヒーが旨い店で、繁華街から少し離れた通りの一角にある。

 高校時代はよく通った店だった


「へ?」


 悩んでいると追撃のメールが。

 これは間違なく俺を狙って送信している。

 ウィルスとかは入ってないみたいだ、震える指でメールを開けた。


[絶対に来なさい。

 孝文、返事は?]


「うぇ?」


 返事を送らないと延々にメールが来るパターンみたいだ。

 しかし誰からか分からないと気持ちが悪い。


[どちら様ですか?]


 恐る恐るメールを送信する。


[いいから来なさい!]


「げっ?」


 返信は速攻で返ってきた。

 もう観念するしかない。


[分かりました。

 30分程で到着するかと思います。]


 なにやら変な文章になってしまったが、取り敢えず送信をする。


[タクシーで来なさい。

 15分もあれば充分でしょ?]


「うげ!」


 確かに大学前で客待ちしてるタクシーを使えば10分程で着くだろう。

 しかし、それを知っているって事は俺が今大学に居るのを把握しているって事だ。


[畏まりました、直ぐに行きます。]


 メールを送信し、タクシーに飛び乗った。


 アンサンブルに到着し、店の前で深呼吸。

 誰が待っているんだろう?

 怪しい借金はしてない筈だ。

 父親も真面目な公務員で家のローンもこの前終わったって...


「早く入りなさいよ」


「うわ!!」


 後ろから突然声をかけられ思わず飛び上がる。

 振り返ると見覚えのある1人の女が呆れた顔で俺を見ていた。


「詩織か」


「なに驚いてるの?

 相変わらずビビりなんだから」


「あのな」


 怜悧な態度を崩さないコイツは同じ大学に通う山崎詩織。

 美しい顔立ち、女性らしいプロポーション。

 詩織は男女問わず学生からも人気がある。


 そんな彼女と俺は家が近所で幼馴染みと来れば、

『幼稚園からずっと一緒でした』が王道パターンだけど、詩織と同じ学校になったのは高校からだった。


 近所でも有名(悪名?)だった教育熱心な詩織の母親。

 幼稚園から有名なお嬢様学校に通っていた。

 地元の保育園に行っていた俺と本当なら接点は無かった。


 知り合ったのは小1から通い始めた近所の道場。

 なぜか馬が合い、俺達は善き友人として親交を深めて来た。


 男女を越えた友情、

 向こうはそう思っているだろう。

 だが俺は詩織がずっと好きだった。

 乗り越えて告白出来ないヘタレな俺は1年前、詩織が大学で俺の友人と付き合った事を知り、諦めたんだ。


「知らないアドレスでメールが来れば、誰だって警戒するだろ?

 他に連絡方法はあったのに」


「拒否されるんじゃないかって、怖かったの」


「だから捨てアドで大学名を騙ってメールを?」


「うん」


 詩織は寂しそうに俯いた。


「取り敢えず入るか」


「ええ」


 二人並んでアンサンブルに入る。

 高校時代に通っていた頃の様に。


「で、急に何だよ?」


 席に座り、注文を済ませ詩織に尋ねる。

 久し振りに二人で過ごす時間は嬉しさより気まずさが先に来る。

 なぜなら俺にも付き合って半年になる彼女が居るのだ。


 別の大学に通う同い年の彼女。

 紹介してくれたのは大学の友人。

 それは詩織の彼氏だったりするのだが。


「そんな冷たい態度取らないで、曲がりなりにも長い付き合いの幼馴染みなのよ?」


「あのな」


 詩織の言葉に全身の血が引いて行く。

 俺がどんな気持ちで詩織から恋人が出来たって話を聞いたと思ってるんだ?


 それに友人から

『詩織と少し距離を置いてくれ』

 そう頼まれたからなのに。


「ごめんなさい」


「詩織?」


「言いたい事は分かってるわ。

 確かに私は最低だった。

 孝文に何も言わず亮太と付き合った訳だし」


「相談もしないでな」


「うん」


 我ながら女々しいと分かってる。

 それなら先に告白すれば良かったんだ、仮令たとえフラれたとしても納得出来た筈なのに。


「...携帯アドレス」


「うん?」


「変えて無かったんだね」


「まあな」


 確かに変えて無かったな。

 このアドレスは詩織と二人で決めたんだ。


『ずっと一緒だね』

 そう笑いあって。


「で、今日は一体何の用だ?

 こんな所を亮太に見られたら誤解されるだろ」


「小百合にもね」


「そうだな」


 小百合とは俺の彼女、小石川小百合の事。


「小百合と上手く行ってる?」


「上手くって?」


「そのままの意味よ、仲良く付き合ってるのかって事」


 詩織の言葉に混乱する。

 付き合った当初は余所余所しかった小百合。

 俺の事が好きだったと言ったわりには手も繋がせてくれなかった。


 笑顔も固く、本当に付き合っているのか

 不安に感じた物だった。

 だけど最近は笑顔も増えて、自然と手を握る事も増えた。


「どうなの?」


 「も、もちろんだ。

 最近は肩を抱いても逃げなくなったんだぞ!」


「なにそれ?中学生じゃあるまいし」


 詩織はあきれ顔で俺を見る。

 だけど凄い進歩なんだぞ?

 何しろ女の人と付き合った事自体、無いんだから。


「それより詩織はどうなんだ?」


「どうって?」


「亮太とだよ、そっちこそ肩くらい抱かれてるのか?」


 自分で言ってて胸が痛い。

 詩織の肩を亮太が、うん見たくない。


「あんた達じゃあるまいし、もうやる事全部やってるわよ」


「ぜ、全部?」


 詩織の爆弾発言に打ちのめされる。

 まさか詩織が亮太によって大人の階段を...


「信じるの?」


「は?」


「孝文は信じちゃうの?

 私がそんな女だって」


「なんだよ」


 からかわれたのか?

 に、しては質が悪いぞ。


「おれだって小百合とキスくらい」


「したの!?」


 詩織は目に涙を溜め身を乗り出した。


「ま、まだだ」


「まだなのね」


 詩織はホッとしてる。

 なんで進行具合を報告しなきゃならんのだ。


「そろそろ用件を言えよ」


「分かったわ」


 詩織はコーヒーを口に含み、深呼吸をした。


「小石川小百合はあなたと付き合って無いわ」


「何?」


「小百合は亮太のセフレよ」


「セフレってセックスフレンドの事か?」


 衝撃が強すぎて間抜けな言葉が...


「そうよ」


「...嘘だ」


 信じられない、小百合は清楚なタイプで化粧すら余りしない。

 着てる物も大人しく、肌の露出する格好さえ嫌がってたのに。


「そろそろね」


「詩織?」


「ちょっと来て」


「どこに?」


「いいから」


 説明をしないまま詩織は俺の腕を掴み立ち上がる。

 強い力に引き摺られながら店を出ると、そのまま繁華街の裏通りある一軒の場所で立ち止まった。


「こ、これは!」


「ラブホテルよ」


「んな事分かってるよ!」


 どうしてラブホ?

 まさか詩織が俺に筆下ろしを?


「バカ!!」


 詩織のビンタが炸裂した。

 何も言ってないのに。


「何バカな事想像してんの!」


「分かるの?」


「分かるわよ!」


 怖いよ詩織さん。

 心を無にしておこう。


「...全く、私だって経験無いのに」


「なんですと?」


「忘れろ!」


「グオ!」


 今度は拳骨?

 見かけより強い力に、詩織が高校まで続けていた空手の実力は衰えてない事を知った。

 因みに俺はまだ続けている。


「ほら隠れて」


「はい!」


 よく分からんが従う。

 もう周りから目立っているので手遅れなのだが。


「げ?」


 ラブホテルの自動ドアが開き出てきた1組のカップル。


「なんでだよ」


「ち、ちょっと」


 思わず立ち上がる俺に詩織が焦っている。

 ...しかし止まらない。


「...嘘...長谷川君どうして?」


「なんで孝文が?え?詩織まで...」


 亮太の背中に隠れる少し濡れた髪の小百合。

 二人の表情を見ながら詩織の言葉が真実だったと知った。


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[一言] これはどれなんだろうな。 主人公サイドが本命でセフレサイドが遊び相手、 セフレサイドが本命で主人公サイドが遊び相手、 主人公サイドをおもちゃにして苦しむ顔が見たい、 セxxさえできれば後のこ…
[良い点]  地雷原だッ! [一言]  ワクワクが止まらないので次話を待ってます!
[一言] 期待しています。
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