白い蛍光灯
朝の光、眠たい空気、渋いコーヒーの匂い、隣で寝ている彼女の香り。
全て葬れたらどれだけ幸せだろう。
今すぐにでも全て消し去って、振り払って、逃げ出してしまいたい。
だが、神は、人は、社会は、彼女はそれを許さない。
自分でさえそれを拒んでいる部分がある。
恐怖か眠気かそれらは僕をがんじがらめに縛り付ける。
彼女が目覚める。
おはようと人工的な微笑みで微笑みかける。
トーストに目玉焼きを載せて、ウィンナーをタコの形にして皿に盛った。
次はいつ会える?おいしい?聞いてる?シャワー借りてもいい?
うんざりする質問攻め。
針を一本一本確実に差し込まれる感覚。
小さな傷口から丸くて小さな赤い血がいろんなところから出ているだろう。
そうしてシャワーを浴びに風呂へ入った彼女をおいて、外へ逃げ出した。
宛もなく、ただひたすらに嫌なものから逃げ出すために。
長くて辛い仕事も、彼女のピオニーの香水も、スーツの縛られる痛みも、電車のゆりかごのような揺れも、汗も、涙も。
すべて嫌い。すべて苦くて渋い。コーヒーのような香り。
神も、人も、社会も、彼女も、自由を許さないというのなら。
自ら自由になろう。
睡眠は逃げる手段として手っ取り早いものだと昔誰かが言っていた。
深い眠りに落ちれるよう、大量に口に含んで誰も邪魔のできないところへ。
眠りを妨げる者のいない空虚な快感。
大好きだ。爽やかでレモンのような香り。
それは、包まれて眠る暖かさを知るときだった。