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2.侮辱されて、でも寂しそうで

 成り上がり子爵家の立場はとても危うい。


権力が我が家にはなく、必要だった。


別に、伯爵位一の伯爵家と婚約を結ばなくても良かったのだが、他の伯爵家は私たち成り上がりを婚約者としては望まなかった。


 だけど、その成り上がりの財力を欲したのがカニンガム伯爵だった。


 噂では、カニンガム伯爵の後妻は豪遊し散財をしまくって借金を沢山つくりあげたらしい。


そのせいで、今首の皮一枚で伯爵家を伯爵が支えているのだとか。

領民は、高い税で苦しめられているだとか。


 その噂はあながち間違ってないらしく、財力が必要だったカニンガム伯爵は成り上がりと呼ばれる我が家に泣く泣くではあったが婚約話を持ちかけたらしい。


〝権力〟が必要な成り上がり子爵と〝財力〟が必要な由緒正しい伯爵の利害が一致したのだ。


いわゆるウィン・ウィンの関係なのだが、一貫してウェイドは家柄が上だからと私たちを見下した態度だ。


・・・ぶっちゃけ、我が家が資金を提供しなければ99.9パーの確率で伯爵家は没落する。


つまりは、お互いがお互いを尊重しあって婚約者としての務めを果たすべきなのだ。


だが、ウェイドはそれを理解していないようで、ずっと伯爵家としての身分を笠に着ている。


「おかげでこっちは体のあちこち傷だらけだ!責任を取れよ責任を!」


 ギロリと睨んで掴みかからんばかりに私へ詰め寄る。


「で、ですが、私がカニンガム様に落とされたのは紛れもないことです。双方に非があったと思いますので・・・」


 最後まで言いきろうとしたが、その言葉はウェイドにピシャリと遮られた。


「ハッ。なにが双方に非があった、だと?

言っておくがお前らみたいな卑しい血筋の子爵家なんて、俺の家の権力ですぐに取り潰せるんだぞ?

奴隷落ちにでもなるかもな。まあ、その時は慈悲深い俺が拾ってやらなくもないが?」


「なっ・・・」


「とにかく!俺は悪くないからな。金に卑しい成金共は責任も取れずグダグダと言い訳しかできないのか!」


あまりの言い様に言葉を失う。


ウェイドを見ると、下卑た表情で私を見下していた。


(じゅ、14歳の少年がこんなにまっくろくろけで良いの・・・!?カニンガム家、いやむしろこの世界の貴族大丈夫・・・!?)


父と母を見れば顔を蒼白にさせ、私と同じように絶句していた。


あの表情は、取り潰し発言に慌てて顔を青くした訳ではない。


奴隷落ちにする~慈悲深い~などの発言に怒って赤い顔を通り越して青く血の気が引いてるのだろう。


お父様、その拳の行き場はどこでしょうか?


父が強烈パンチを繰り出す前に私が子供同士のいざこざとして先に動くことにした。


────パァン──!!


・・・ちょっと平手打ちだったけど強すぎたようだ。

私の手のひらもジンジンして熱い。


「・・・・・・?」


ウェイドは何が起こったのか分からずに固まっている。


さすがに平手打ちを受ける覚悟はなかったからか、2歳年下の私の力でもよろけてしまっていた。


「・・・確かに家柄や立場など、私達は全く異なります。

けれど・・・こういった契約関係になった以上!そのようなこちらを軽んじる態度は伯爵家といえど許容できかねません!!」


 ぽかんと口を開けて私を見つめるウェイド。


今、どんな状況なのかがよく理解できていないのだろう。


 しかし、自分に対して年下の少女が手を出したというのだけは理解したらしく、体をブルブル震えさせ始めた。


「・・・おまっ・・・お前・・・!」


「なにかご不満でもおありでしょうか?

私は先日、契約内容をお父様から読ませていただきました。そちらの状況も逼迫しているようで、対等な関係として協力しあおうとのことでしたよね?

あなたのその態度はあまりにも尊大で、こちらとしても協力関係を築くには難しいかと思われます。」


 そう言って、お父様をチラリと見ると満足そうに頷いて前に出てきた。


「そうですね・・・ウェイド殿。申し訳ないが、先程までのこと全てカニンガム伯爵に話させていただきます。

怪我をさせてしまった賠償はさせていただきますが、これ以上我が家を、娘を侮辱するのであれば婚約の件、見直させて頂きますので。」


「──なっ、お前らみたいなやつまで・・・俺を・・・!とにかく・・・婚約は絶対だ!なかったことになんてさせないぞ・・・いいな・・・!」


 そう言って去っていくウェイドをぼんやりと見ながら私は前世の記憶を思い出していた。


褐色の肌。

赤い瞳。

白い髪の毛。


そうしてやれ、悪魔の子だ魔王の子だなどと幼い頃から囁かれ、苦しい思いをしている少年。


傲慢で、高慢で、暴力的な怒りっぽいウェイド。


けれど我が家を去っていったその背中はとても寂しそうだった。


「私・・・彼を知っている?」


 そこまで重要なことではない気がするけど・・・


前世で似たような何かを見ただけだろう。


けれどズキズキと痛むその頭は、それを否定しているように思えた。


「・・・ツィー?大丈夫?また顔色が悪くなってるわ。起きたばかりなのにあんなことあったら体も辛くなるわよね。」


 お母様が心配そうに私を覗き込んで頭を撫でてくれた。


「そうだね・・・頭も酷く打ち付けたんだ。ツィー、今日はもう休みなさい。マリア、ツィーの世話をしてくれ。」


 私には専属侍女などと言った大層なお世話係はいない。


けれどマリアはこの成り上がり子爵に昔から着いてきてくれていた従業員らしく、私の世話も生まれた時からしてくれていた。


乳母とか専属侍女と言っても過言ではないよね。


「はい。ツィーナお嬢様、寝台まで向かいますよ?大丈夫ですか?」


「うん・・・大丈夫、そこまで酷くは無いもの・・・」


 そう言いながらも、頭がグラグラして上手く歩けない。


それに気がついたマリアが優しく私を抱き上げて、ベッドまで連れていってくれた。


(私、今とても、幸せだなぁ)


 温かい手のひらが私を撫でる。


前世のお母さんを思い出させて、自然と涙がこぼれてきた。


気がついたら、うつらうつらし始めて、ぐっすりと眠りに落ちてしまった。

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