17.入場早々
私とウェイド様は(遅れてお父様とお母様もくるけど)剣技大会の会場客として、剣技場へと見物しにやってきた。
ちょいとぎゃあぎゃあ憤慨しているウェイドがいるから、私が穏やかに、大人として宥めてあげつつ。
そうして会場に受付をしてから入場する。
会場内には、貴族しかいないからか、私とウェイドに一気に視線が刺さった。
その視線はどれも友好的なものでは無い。
成り上がり子爵の卑しい娘と、没落を噂されている伯爵家の呪われた子というヤバい組み合わせだから。
「・・・っ」
ウェイドの足がすくみそうになったのに気がついてそっと声をかける。
「ウェイド様。」
「・・・なっ、なんだよ。」
小声で、輝くような(?)ニンマリ笑顔をして聞いてみる。
しかも少しだけ小首を傾げて。
「この程度で怖気づきませんよね?だってウェイド様ですから。」
「・・・は、なんだよ・・・!馬鹿にしてるのか。」
その言葉を無視して、足を踏み出したら、ウェイドも慌てて私をエスコートする。
ふふふ。意外と臆病なのだから。
周りからヒソヒソと私たちの話をする声が聞こえてくる。
伯爵位一の跡継ぎ、ウェイドがいるから、直接は言えないが言いたいことは、伝わってくる。
意味がわかっていなくても、そんな大人たちの雰囲気を敏感に感じ取った子供たちは、私たちから距離を置いた。
まあ、意味を分かっていようとなかろうと、ウェイドの容姿はこの国でとても珍しいものだから躊躇って近づかないだろう。
一部の侯爵家を除いた、それ以上の家柄の人達は、私たち二人に興味がないようで、そもそも見向きすらしないが。
「たくさん席ありますね!それに剣技場って聞いたので、もうちょっと武骨なイメージでしたが、とても神聖で清廉された雰囲気の会場です。」
「当たり前だろう。騎士団の剣技場をなんだと思ってる。ただの訓練場ではないんだからな?」
呆れた目を向けられたけど、私はそういうのに疎いご令嬢だから仕方ないと思う。
・・・剣技大会を見物するのに勉強不足であったのは、間違いないのだけど。
「・・・確かに勘違いしてましたね。勉強不足でした。」
「分かればいいんだよ、分かれば。席は予約してある。一番見やすい席だ。それ以上の席は侯爵家や公爵、王家の方々の序列で決められているからな。
ココが一番いい。」
「ありがとうございます。私の分まで手続きしてくださって。」
「・・・当たり前だろ。俺が誘ったんだから婚約者の分まで予約すんのは。」
珍しいものだ。
ウェイドがえばらずに、素直に私にそう言うのは。
明日は我が屋敷と、カニンガム家に爆弾が落ちてくるかもしれない。
「なんだよその顔。俺だってこんなこと言いたくねーよ。」
最後はボソリと呟いて、なぜか耳を真っ赤にしているように見えた。肌が濃くてわからぬが。
なるほど、一応彼なりの外ヅラなのだろう。
その呟いた言葉が本当のことだから怒っているのか、えばらず言った言葉が本音だから誤魔化しているのか・・・それは、分からないけど。
「なるほど。ウェイド様らしくないと思ったら・・・」
「あ?」
こう言うのが一番安全かと思ってそう言ったのに、続きを言う間もなくなぜかキレられた。
お父様とお母様は、その後ろの席を予約したらしい。
完全に、私の保護者としてウェイドを監視するつもりだ。
二人から見たらウェイドは、私を守ったとはいえ今だ直らないキツイ口調などで信頼できない気がするらしい。
・・・これでも私はだいぶ打ち解けて、優しいところを見てるのに。
確かに、はたから見たら、罵倒されてるのにニコニコしてるドMか、ただひたすら笑顔で耐えている可哀想な子爵令嬢に見えるだろう。
前者には見えないよう祈るしかない。
なんて、またまた下らないことを考えていたら、お父様とお母様が来たのか私とウェイドの斜め後ろから影が差した。
「よお。お前が悪魔の子か。」
私の両親ではなかった。
唐突に、ウェイドの肩を強く掴んで振り返らせた無礼極まりない少年が後ろに立っている。
目の前の名前も分からない少年は、タレ目の目を更に垂らして目を細め、そう罵った。
栗色の髪の毛に、白い陶器のような肌。
そして翠色の目をジロジロとウェイドに向ける。
「確かに近くで見ると気持ちわりぃーな?」
ニヤリと笑って、罵倒を続ける。
パッと見た感じは美少女みたいに見える綺麗さなのに、口調は荒々しく品のないものだ。
「肌も黒いし、髪だって白髪みてえに色が抜け落ちてる。なんなら目だって──」
「お前は誰だ?」
開口一番、こっちの捻くれ者も対抗してきて冷たい声を出す。
腕を組んで、足先をトントンと鳴らして苛立ちを全身で表していた。
加えてこの三白眼のキツイ目付きと、同年代の男子よりも一回りくらい大きい体躯だ。
少年には怖いだろう。
「──あ、あの、ウェイド様・・・!そ、そろそろ試合説明も始まりますし・・・」
少年が私の言葉を割り込んで、ガッとウェイドに掴みかかる。
「てめえっ!俺が優しくしてやってるからって生意気な!俺を誰だと思ってる!?ペンズハート伯爵家の長男、フィン・ペンズハートだぞ!?」
そう叫んで、短気にもウェイドに殴りかかろうと、拳を振り上げた。
「あっ、危な・・・!」
いい切る前にウェイドが、真顔でフィンという少年を組み倒す。
無駄な動き一つなく、うるさい蝿を退治した程度の飄々とした顔だった。
「すご・・・」
誰が呟いたのかは、分からないけれども皆ウェイドに注目している。
それに気がついた私は、慌ててウェイドに声をかける。
「ウェイド様!大丈夫ですか!?」
「ああ。もちろん俺は大丈夫だ。けどコイツは相当痛いんじゃないか?あえて肩が痛む組み方をしたからな。」
そう言われて見ると、フィンは目をギリギリと開いて辛そうな表情をしている。
「・・・この方は、まあ。」
──最初に急に手を出してきたんだし、自業自得ですから。
「ハッ。言いたいことは分かるぞ?・・・と、こんな事をしていたらペンズハート当主が来たみたいだな。」
ウェイドはフィンを拘束していた手を離して、慌ててこちらに走ってくるペンズハート伯爵を見る。
「この・・・バカモンが!」
ウェイドとフィンの様子を見てすぐに事態を把握したらしいペンズハートは、丸い顔を真っ赤にさせてフィンを掴みあげる。
「よりにもよってこの剣技大会の日に醜態をさらし組み伏されるか!大人しくしていろとあれだけ言っただろう!こっち来い!」
「いっ、肩が!肩・・・!」
そのまま引きずられるように連れていかれたフィンを見て、そのまま去っていったペンズハート伯爵を見て、気の毒に思いつつも、シラケた目で見つめてしまった。
「お前、そんなにアイツを見るな。」
ウェイドがぐいと私の目を隠してきてそう言った。
「え?」
「アイツ、八つ当たりかなんか知らないけど、俺のそばで奴を見てたお前のこと、すごい目で睨みつけていたぞ。」
気が付かなかった。
変な少年に目をつけられるのは、嫌だから思わずため息をついてしまう。
「・・・で、いつまで目を隠しているんですか?」
「・・・アイツらが俺の視界から消えるま




