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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
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87.あの時起こっていたこと

リチャードはエレーナを抱きしめ続ける。そして1週間前のあの日を思い返していた。


リチャードが崖下に居たのは偶然といえば偶然で、当然といえば当然だった。


ジェニファー王女もとい、メイリーンから大会に参加した令嬢達に渡したブローチには細工がしてあり、発信機が内部に付けられていた。しかも凝っていることに、爵位によってブローチの柄を変え、表示の仕方も変わる仕組み。


だからアレクサンドラが自分に言うよりも前に、懐中時計に似せた専用の機器で誰か1人攫われたことに気がついた。


公爵家の者の(しるし)は〝華〟。


それがこの森に入って一度動き出した後、ピタリと動かなくなってしまった。そこから推測するに地面に落としてしまったか、潜んでいるのか。現にメイリーンの方の印はものすごいスピードで目まぐるしく動いている。


(これ、メイリーン暴れてるな。全員捕縛しろとは命令していないから下っ端は殺していそうだ)


エレーナが見つからないことに焦りつつもリチャードは冷めた目で表示された印を見ていた。


(もし仮に落としたとしたらレーナはどこに向かうだろうか)


頭の中で周囲の地形を思い出す。ここはスタンレーにある森で、狩場になっていた王家の所有地からそれほど離れていない。だが、森林面積は国随一。リチャード達が第一王子の目論見を知らず、この事件を起こされていたら上手く逃げられてしまうところだった。


メイリーンの動きを見るに、彼女は戦闘している。もうすぐ彼女の武器を持ったアーネストが合流する頃合いだ。


メイリーンはエレーナをその場に残さない。一緒に戦わない。多分外に逃げろと言っている。逃げさえすればリチャード達がブローチ(発信機)で居場所がわかり、保護すると思っているはずだから。


しかし印が示す場所にエレーナはいない気がした。なぜならその座標は屋敷内ではなく、エントランスを出たすぐの場所。隠れるとしても、もう少し屋敷から離れた場所にするはずだ。念の為数人の部下に見てくるよう指示を出すが、リチャード自身は違うところに向かう。


(見つかって、追っ手がいたとしたら彼らはどこにレーナを追い詰める?)


この付近全体は民家や村がないので人が寄り付かない。彼らがいると思われる建物も、つい最近まで廃墟だった場所。人は住んでいない。


加えて生きた生物がいるとしたらそれは熊や鹿等の野生動物。しかしここら辺に生息している動物達は人間に慣れていない。襲うよりも先に人間を見たら逃げていく。


だから追い詰めるだけならどこにでも追い詰められる。馬車のために少し整備された道もあるが、すぐに見つかってしまうからエレーナは選ばないだろう。


「──確か付近に崖があったような」


彼らが令嬢は飛び降りられない。逃げ道を防げる。そう考えるとするならば……。


馬を止めて考える暇も惜しかった。即座に崖上を探せと残った部下に命令し、自分は崖下に馬を走らせた。


リチャードの当たって欲しくなかった予感は的中した。


遠くに見える崖から誰かが身を投げて、それがエレーナだと気がついた時は自分の心臓が止まってしまうのかと思った。


彼女のつややかな金髪は月の光を一心に受けて光り輝いていた。ちらりと顔が動いて、こちらを見た気がした。


身を投げたということは、部下達は間に合わなかったのだろうか。


(あのままだと地面に身をうちつけて死んでしまう)


高さが結構ある。騎士で受け身を取れたとしても怪我は免れない。ましてや上から落ちてくるのは、そういう訓練を受けたことがないエレーナなのだ。運が良くて大怪我、悪ければ死が待っている。


気がついた時には身体が勝手に動いていた。


まだ走っていた馬の背中をバランスを崩しながら足で蹴って飛び、空中でエレーナを抱きとめ、地面に着地した。ジンジンと足の裏が痛んだが、自分のことを気にする暇はなかった。


運良く抱きとめることが出来たエレーナの頭がガクンッとなった。慌てて頭の後ろに手を添えれば、べっとりと生温かい何かが手に付着した。


月明かりに照らせば、それが何なのかはっきりとなる。


(──血だ。まずい。腕と足だけではなくて頭も打っているのか)


瞬時に全身に目を走らせ怪我の具合を確認したリチャード。彼はエレーナの状態を知って青ざめた。


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