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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
76/134

76.裏にいた者

「ご苦労だった」


歳若い男の声がした。その声の持ち主が〝王子〟と呼ばれた人なのだろう。


(状況的にルルクレッツェの王子かしら?)


ジェニファー王女が好きすぎて攫う──なんてそんな発想に至る愚かな王子は近くの国にいない……はず。

それ以外に彼女が攫われるとしたら政敵しかいない。第一王位継承権を有するジェニファー王女の下には王子が三人いるのはエレーナでも知っていた。


(でもなんでこんな簡単にジェニファー王女を…………)


王女よりも王位継承順位が低い者が彼女(第一王位継承者)を攫った。それさえ分かればエレーナにだって大凡(おおよそ)の状況が見えてくる。


『── 計画ではエレーナ様が捕まるはずなかったのですが』


そう言っていたメイリーンの言葉が思い出される。


(メイリーン様はこのことを知っていた? だから入れ替わっていたの?)


だとしても、彼女が──その後ろにいるらしいリチャード殿下が介入する理由が分からない。


エレーナの関わりのないところで何か大きなことが起こっていたようだ。


「これでこいつを殺せば僕が王位に就けるとそう言ったよなハーヴィン、そして──ギャロット辺境伯。貴公もよくやってくれた。全てが終わった暁にはルルクレッツェの公爵位をやろう」


「わたくしめは貴方様にお遣えできて恐悦至極でございます」


エレーナから見たらわざとらしいほど、恭しく頭を垂れた男はギャロット辺境伯だった。


(…………馬鹿なの? え? なんでルルクレッツェの王子と手を組んでいるの?)


政治に詳しくないエレーナでさえ思ってしまう。


なんでわざわざ危険を冒してまで他国と手を結んでいるのだろうか。

寝返ろうとしているのだろうか。


例え全てが上手くいっても、爵位なんて貰えるはずないだろう。口車に乗せられている。


謀反や離反者が現れるのはその国の君主の政治手腕が下手な時。そうエレーナは聞いてきた。スタンレーの王家は安定した統治をしているし、内戦や民から爆発するほどの不満は出ていない。つまり結構住みやすい国だと思うのだが。


辺境伯だって、それなりの地位にいる。政治の場でもいい位置にいるはず……。反旗を翻すことの利益がない。


さりげなく身体を動かして、王子の方を見る。

王子と言っても、リチャード殿下のような人柄ではないのが一瞬でわかった。


大きな椅子に、足を組んでふんぞり返って座っている。メイリーンに向ける目は嘲りと優越感のようなもの。見ているだけで気分が悪くなりそうだ。


「殿下、すぐに殺しましょう。追っ手が追いかけて来ないうちに」


(殺す? 誰を? 状況的にわたしたち……か……)


ハーヴィンと呼ばれた男が進言する。


「そんな焦るな。ここがバレるはずがない。僕はこいつの悲鳴を聴きながらじっくり殺したい。薬の効き目は残り一時間なのだろう? こいつが起きるまで待つことにする。牢屋に戻しておけ」


そう言った王子は次に舐めまわすようにエレーナを見た。吐き気を催しそうな視線にエレーナは薄目になっていることがバレなよう、瞳を閉じた。


「この令嬢は?」


「名前は存じ上げません。ただ、リリアンネが処理して欲しいと」


「あの女、僕に指図するのか? こーんな娘、殺すには勿体ないじゃないか。そうだジェニファーを殺してからたっぷり可愛がってあげよう。食後のデザートにね」


いいことを思い付いたと言わんばかりに笑った王子は席を立つ。


「僕の妾にするのもいいかなぁ」


(そんなの誰がなるものですか)


近寄ってきた王子の息が顔にかかる。手が伸びて、顎を持ち上げられた。触れられたところから全身に鳥肌が立つ。ぴくりと眉が動いたが、王子は気が付かなかったようだ。


「取り敢えず両方戻しておいて。楽しみ方を考えるから」


エレーナは生娘であるが、彼の言わんとしていることぐらい分かる。


瞳を閉じる前に見えた、どろりとした熱を孕んだ瞳。舐めまわすような視線。肌の触感を確かめるかのような触り方。恐怖から震えそうになる体を必死に抑えつける。


その後も少しの間彼らは話していたが、エレーナの耳には入ってこなかった。


自分が起きていることが気が付かれないか不安で、地獄のような時間が終わるのを待つ。


ようやく話が終わったらしい。二人分の足音が遠ざかっていく。エレーナは行きと同じように大男に担がれ、元いた牢屋の中に戻された。


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