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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
73/134

73.正体(1)

「──さま! エレーナさま」


大きく体を揺すられる。


「んっう」


(…………誰? まだ眠いわ)


「起きてください! お願いですから! エレーナさま!」


頭にかかっていた靄が晴れ、鮮明になる音。自分に対する呼び掛けのようだ。


ようやく目を開けるとそこは暗闇の中だった。数度瞬きをすれば段々と暗闇に目が慣れてくる。身体中どこかに打ち付けたようにあちこち痛い。


(なんで……わたし何を……)


横たわっていたらしく、身体を起こす。


どうやら室内にいるようだ。ジメッとした湿気と饐えた臭いに思わず顔を顰めた。すきま風でも入ってきているのか、足は凍りついたかのように冷えていた。


甘ったるい匂いが消えていたので、天幕内ではないらしい。


顔にかかっていた髪が横にずらされる。


「お怪我はございませんか」


はっきりと聞こえた声。

目に入ってきたのはおぼろげに見える人の姿。

白いほっそりとした手が自分の髪を掴んでいた。


「メイリーン様? ────っ!しっ失礼いたしました」


メイリーンの声だったので咄嗟に彼女の名前が口に出た。だが、そこにいるのは艶やかな黒髪を垂らし、ヴェールを被った紛れもないジェニファー王女だった。


薄暗い室内にエレーナの声が反響する。


(なっなんという失態を! 目の前に王女殿下がいるのに寝ているなんて! 穴があったら入りたいわ)


未だ状況が把握出来ていないエレーナはうなだれながら、慌てて距離をとろうとする。しかし後ろは壁であり、頭をしたたかに打ちつけただけだった。

それに何故か両手は前で縄できつく縛られていた。


無理やり動かそうとしたからか、縄が皮膚にくい込んで、転んで擦りむいた時のようにひりつく。


「大きな怪我は……見た感じないようですね。よかったです」


ジェニファー王女のはずなのに、彼女の安堵した声はメイリーンのものだった。ジェニファー王女は喉を痛めて声が出ないはずだ。なのに今はスラスラと話をしているし、こちらの言語で話しかけてきていた。


(どうして? メイリーン様がジェニファー王女なの?)


口をパクパク動かすだけでは声は出ない。エレーナの様子を見て、ジェニファー王女は苦笑した。


一歩後ろに下がり、エレーナと少しだけ距離をとる。


「疑問にお答えしたい所なのですが……今は時間が無いので。あっでもひとつだけ、私は()()()()()です。ジェニファー王女は王宮にいらっしゃいますのでご安心を。今日狩猟大会にいたのはこの私ですので」


──そんなこと言ってる場合じゃないんですけどね。とジェニファー王女に変装したメイリーンは付け加えた。


「言葉より物的証拠を見せた方が信用して貰えると思うんですが……あいにくですね。髪も瞳もこうなので」


彼女はパサリとヴェール外す。そこに現れたのは見間違えるはずのない黒髪で、ジェニファー王女の髪色だ。

メイリーンは白銀なので真反対。瞳の色も紫水で、栗色ではなかった。


目の見えない者以外は容姿を間違えるはずがない。穏やかに微笑む顔つきはメイリーンに似ているかもしれないが。


「メイリーン様と言ったけれど……仮にそれが本当だとしてその髪は──」


「この日のために染めました。瞳の色も変えました」


頭に乗っていたティアラが石の床に落ちて、カツンッと金属音が響いた。


「リリアンネ様は?」


エレーナの頭はパンク寸前だった。目を開けたら牢屋のような場所にいるし、目の前には変装したらしいメイリーンがいる。意味がわからない。


(私監禁されてない? 牢屋に入れられてるのってそうよね?)


拘置されたことの無いエレーナにとって初めての経験。心得なんてあるはずもなく、自分がまさか牢の中に入るなんて想像をしたこともない。


読んだことのある本で、多少造りと何をされるのかを知っている程度だった。


「あーリリアンネはエレーナさまを私と同じ木箱に入れたのを確認したあと、他の馬車に乗りましたよ」


「木箱……?」


「はい。木箱に私と2人すしづめ状態でした。しかも道が悪い場所を通るからあっちこっちぶつけて……人を人として扱ってくれない外道です」


言いつつメイリーンはエレーナの髪に付着していたらしい木くずを摘んだ。

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