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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
59/134

59.イニシャルの人物

「ほんっっとにああいう奴ら嫌いだわ」


踏み潰したハンカチを睨むがエリナは拾わない。仕方ないのでエレーナが立って拾った。

天幕はテントと違って地面は土だ。靴と地面に挟まれたハンカチはとても汚れていた。これでは持ち主を見つけたとしても返せない。


心の中で溜息をつきながら、バスケットを置いて外に出る。

どうするにしても綺麗にしないといけない。中でハンカチをはたいて土塊を落とそうとすれば、付着した汚れが宙をまい、置かれているお菓子や他の物に付いてしまう。だからエレーナは外に出て叩こうと思った。


王女殿下は広場の方に移動したようだ。遠くから話し声が聞こえる。それに伴って入り口の前に立っていたクラウス卿とコンラッド卿も、居なくなっていた。


「ふぅ。これであらかた汚れは落ちたわね。あとは水で洗えば……」


天幕の裏でハンカチを広げれば、イニシャルが入っていることに気がついた。


「えっと、L.G.?」


金の糸と筆記体で綴られたイニシャル。出席者名簿と照らし合わせれば持ち主が分かるかも……。


とりあえず水で洗おうと、水道のある場所まで行く。途中でぶぉぉぉっと喇叭の音が鳴った。どうやら狩りが始まるらしい。


馬の駆ける音がここまで聞こえてくる。


水場に着くと裾をまくって蛇口を捻る。流れていく水でハンカチを濡らして、擦り合わせて汚れを落としていく。最後にきつく絞れば終わりだ。


「よし。あとは持ち主を探すだけね」


持っていた自分のハンカチで手を拭いて、洗ったハンカチをなるべく早く乾くようにパタパタと煽る。


10分くらい行っていればほとんど乾いてしまった。


「受付に行って、調べてもらおう」


丁寧に折りたたみ、受付に行く。


「すみません。この落し物の持ち主を探しているのですが名簿を見せてもらっても?」


イニシャルを受付人に見えるようにしながら尋ねれば快く快諾してくれた。


「どうぞ」


一緒に名簿を覗き込む。家名がGから始まる人を見ていて気が付かなくていいところに気がついてしまった。


──メイリーン様来てないのね。印が押されてないわ。


出席する主の返事は出したのだろう。だから名前がある。


「あの、この方は欠席ですか」


聞かなくていいのに聞いてしまった。


「ああ、クロフォード伯爵の御息女ですね。伯爵様から娘は体調が悪いので欠席すると」


聞いておいてだが、口の軽い受付人だ。普通教えてはいけないだろう。誤魔化さないと。


まだ若い青年。と言ってもエレーナの少し下くらいの年齢。社会経験が少ないのか、もしくは頭が働いていないのか。エレーナが引っ掛ければ簡単に口を滑らせそうだ。


「……いませんね。そのイニシャルの方」


2回ほど上から下まで全出席者を確認した。


「でもこれ……」


もう一度ハンカチを見つめる。


そういえば今回の主催者ってギャロット伯爵家で娘にリリアンネという名前の令嬢がいたような……


「「あっ!」」


思わず受付人と顔を見合わせる。


なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう? 主催者側なら出席名簿に載ってない。しかもリリアンネ・ギャロットはイニシャルがL.G.ビンゴだ!


「リリアンネ様は何処に?」


「……分かりません。私はずっとここで受付していたので……お力になれずすみません」


「いいえ。あなたのおかげで誰の者かは分かりました。こちらこそお時間を頂いてしまってごめんなさい」


彼の仕事の邪魔をしてしまったのはエレーナだ。狩りは開始されたが、遅刻してくる方もいるだろう。幸いエレーナが時間をもらっていた間に来た人はいないが、後ろを見ると駆け足にこちらに来ている人がいる。


「それでは、受付に来る人がいるみたいなのでこれで」


頭を下げて横にずれた。


「すっすみません! 遅れてしまってまだ受付は出来ますか?」


馬車から全速力で疾走したのか、額に汗が浮いている。


「大丈夫ですよ。遅れてになりますが参加出来ます」


「良かった……」


「良くないわよ! こんのっっっっ馬鹿っ!!!」


突然響き渡った暴言と共に、綺麗な足蹴りが青年に当たった。

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