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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
55/134

55.受付

「何かあったら……もしくは変だなと感じたら近くにいる騎士を躊躇わず呼んで」


会場の近くまで来て、最後のひと押しとばかりに侯爵に言われる。

エレーナはそんな彼を見て心配性だなぁと思った。


「はい」


「ではこれで。また昼に会おう。それまでは君の為に頑張ってくるよ」


左手を取って別れの挨拶として、甲に口付けした侯爵は、エレーナに手を振りながら去っていく。エレーナもそんな侯爵に対して手を振り返して見送った。


彼が昼に会おうと言ったのは昼休憩があるからだ。


子休止の時間になると、雄牛の角で作った喇叭(らっぱ)が森の中に響き渡る。女性陣はそれを聞いてナイトの為に作ったor作らせた昼食の準備を始める。男性陣は言わずもがな、狩りを中止して天幕に戻ってくるのだ。


そのため午前中は遠くまで狩りにいけない。よってナイト達も密集するので獲物の奪い合いになる。狩猟大会の始まりは、人が散りぢりになる午後からと言ってもいいほどだ。


みんなで昼食を食べ、再び喇叭が鳴り響くと中断されていた狩りが再び開始される。いっせいに馬に乗り、森の中に入っていくナイトを見送って、クイーン達はまた帰ってくるまで暇をつぶすのだ。


「さて、受付に行こうかしら」


ヴォルデ侯爵は大会が始まる前の警備担当であるので、他の参加者よりも早く来る必要性があった。そのためエレーナもいつもより早く起きる必要があったのだ。だから今周りにいるのは、主催者側の人間か警備担当の騎士の方々のみ。


まばらに淑女がいるが、大方は辺境伯の御息女か血縁の方々だろう。エレーナの前を通る度に皆、頭を下げてくれる。だが、エレーナにとって彼女達はほとんどが全く見ず知らずの人であり、会釈されると居心地が悪い。

かろうじて顔を見た事があるような気がする人もいたが、名前を中々思い出せなかった。


(去年はここを右に行くと出席確認の場があったはず)


朧気な記憶を頼りながら、森の中にある広場に向かう。城下町と違って、王家の土地であるとしても1年に数度使うだけの場所。

手入れはほどほどにしかされておらず、奥の方を見れば鬱蒼としている。


方向音痴ではないが、普段森の中に入らないエレーナは、ひとたび足を踏み入れば帰って来れなさそうだ。


──中に入ることはないだろうけれど、注意しないと


昼間でも野犬や狼が、運が悪いと飛びかかってくると聞く。弓や銃を扱える男の人でも苦戦すると言うのだから、可能性がとても低いとしても気を使わないといけない。

こういうのは周りが引くくらい慎重になった方がいいのだ。そうすれば何が起こっても対処できるから。


そんなことを考えながら歩いていれば、開けた場所に来た。


「受付は……あそこね」


他よりも人が集まっている一角。設置されたテーブルの上にインク壺と羊皮紙、羽根ペンを持った男性が令嬢達の応対をしている。


「はい、お次の方」


列に、と言っても数人が並んでいるほどだが、1番後ろに並ぶ。名前の確認だけなので列はすぐに捌け、エレーナの番になった。


「エレーナ・ルイスです。アーネスト・ヴォルデ侯爵様との参加でエントリーされてると思うのですが」


「ああ入ってますね。……出席っと」


びっしり出席者の名前が書かれた名簿に目を走らせて、受付人はエレーナとヴォルデ侯爵の名前の欄に印を押した。


「公爵令嬢は蒼の天幕ですね。ここを真っ直ぐ行って突き当たりの左にある天幕です」


会場内の地図を広げて、受付人は指でエレーナの天幕を指した。


「端ですね。ありがとうございます」


「ナイトが帰ってくるまでゆっくりお過ごしください。後ほど給仕係が紅茶をお持ちいたします」


軽く頭を下げて横に移動する。言われた通りに道を進めば色とりどりの天幕が見えてきた。


異国風の刺繍が施された天幕から、外観が見たこともないような作り等様々だ。


カランカランと何処からか鐘の音が響き渡った。その音に驚いたのか、森の中にいたらしい鳥たちが頭上を飛んでいく。鳥に詳しくはないので、名前は分からないけれど何度か見たことがある種類だった。

目を細めながら見ていると鳥の尾羽が落ちてきて、思わず掴んでしまった。


(綺麗ね。日光に透かすと虹色になるわ)


さすがに天幕に持っていくのはできない。エレーナは少しの間尾羽に魅入ったあと、道端にそっと置いた。


そして左右を見ながら道なりに進めば、突き当たりになる。


「ここを左ね」


わくわくしながら左を向けば、他から少し離れた奥にほんとうに蒼い天幕がある。てっぺんからはアンティークの銀と金で作られた飾りが付けられている。それは見るからに凝った作りで、可愛く、そういう物が好きなエレーナの心は躍ったのだった。

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