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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
52/134

52.不穏なかげ

今日はいよいよ狩猟大会の日であった。開催される場所は王家の所有地。だが、主催者は王家の方々ではない。毎年高位貴族が順番に主催するのだ。王家はあくまでも土地を貸しているだけ。大会の運びも、天幕などの組み立ても、全て貴族側が行う。


今年は確か、ギャロット辺境伯が取り仕切っていたはずだ。彼は隣の国との国境に領地を持っていて、国防を担う大切な役目に就いている。


主催者によっておもに変わることは、狩猟ではなくてクイーン──女性達の待機場所だ。あとは待っている間の茶菓子や紅茶の種類。


何故そこに力を入れるのかと言うと、男性陣達が狩りをしている間、女性陣は暇になる。

しかも狩りが終わるのは夕方近くになるので、長時間外で待機することになる。

本を読む人や刺繍をする人、お茶会のように噂話に花を咲かせ、みんな思い思いに過ごす。


だから見劣りすることがないように、毎年力が入れられるので女性達の楽しみでもあった。


エレーナは毎年エリナ達と同じ天幕で過ごしていた。友人たちと一緒にいればあっという間に時間は過ぎる。


そして大会の開催場所はルイス公爵家から一刻ほどの場所にある。今回、エルドレッドのクイーンではなくて、ヴォルデ侯爵のクイーンになったエレーナは、侯爵の馬車で会場に向かうことになっていた。


この移動方法に関係しているのは、狩猟大会の伝統的なしきたりで、クイーンはナイトと一緒に来なければいけないという一視点から見ればめんどくさいもの。


しきたりを守るためだけにヴォルデ侯爵はエレーナを公爵邸まで迎えに来てくれた。


馬車が動き出して、車輪がたまに石を弾く音を立てる。


「あの……」


窓の方を見ていたヴォルデ侯爵はエレーナの方を向く。


「どうかしたのかい」


「アーネスト様は他の女性の方といざこざを起こしたことありますか?」


「──どうしてだい?」


空気が変わる。張り詰める。エレーナはごくりと唾を飲み込んだ。


「その、いえ、なければいいんです」


──彼は何も知らない。つまりあれは彼関係のではないのね。


ここ1ヶ月。差出人の名前が書いてない。エレーナ宛に届けられる不審な手紙。中身は警告文のような、そんな感じの文章が1~2行書かれている。リリアン達は幸い内容に気がついてない。まあそれはエレーナが中身を隠しているからなのだけれど。


届けられる度に中身を確認しては、他の人に見つからないよう暖炉にくべるか、小さくちぎってゴミ箱に捨てている。


「聞かれると気になる。いざこざを起こした事はないが……」


「……これです。この手跡に見覚えは?」


彼に見せるために取っておいた一通の手紙をバスケットから取りだし、渡す。


『あの御方に近づくな。──女狐め』


渡した手紙にはそう書かれていた。今まで送られてきた他の手紙も似たような内容だ。根も葉もなさすぎる。第一誰に近づくな、などと差出人は言っているのだろうか? 社交界で悪い噂が流れているのかと探ってみたが、そんなことも無く……。本当に誰から送られてきているのかは分からない。


自分が黙っていれば丸く収まる。そう思って今の今まで誰にも話さなかった。下手にリリアンとかに話してしまったら、取り乱すほど酷く心配するだろう。だから言えなかったのだ。


「これは……」


険しい顔つきになったヴォルデ侯爵。彼はなにか知っているのだろうか。彼と出会ってからこの手紙は送られてきてるのだ。彼関連なのではないかとエレーナは考えていた。


「誰からか分かりますでしょうか」


「いや、分からない。身に覚えもない。だが──預かってもいいか? 知り合いに調べてもらおう」


「いえ。大したことではないのです。知らないのなら──実害はないので大丈夫です」


嘘だ。


状況は刻々と変わってきている。最初の方はまだ良かったのだが、最近は封筒の中に花びらや砂が入っている。はっきり言って不気味だし、意味不明。実害が出るのも時間の問題なのではないかと思い始めていた。


それでもヴォルデ侯爵を巻き込むことは出来ない。首を横に振って手紙を返してもらおうとエレーナは手を伸ばした。

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