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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
40/134

40.エレーナの驚き

待機し始めて十数分くらい経っただろうか。木々の間から馬車が見え始めた。

どうやらヴォルデ侯爵の馬車できたらしい。横に侯爵家の家紋が入っている。


普通に考えて王家の馬車で来たら、ゴシップ好きの貴族達が喜んで噂を立てるだろう。それもエレーナを貶める噂として。


御者が扉を開けて中から青年が出てくる。


エレーナ以外のルイス公爵家に仕える者は皆、恭しく頭を下げた。


「ようこそおいでくださいましたリチャード殿下」


取り仕切るデュークが殿下に声をかける。


「すまないね。急に訪ねてしまって」


「滅相もございません。さあ中に」


デュークは殿下と侯爵を中に入るよう促す。


「こんにちはリチャード殿下、ヴォルデ侯爵様。このような格好で迎えることをお許しください」


声をかけると視線がこちらに向く。


「──構わないよ」


いつもと同じ温度なのに背筋が凍る。その言葉に抜け落ちていた昨夜のことを思い出した。


(わたし……逃げたんだった)


部屋に居ろと言われたのに、メイリーンを置いて立ち去った。向き合いたくなくて身を隠したのだ。


「…………それよりもレーナ逃げたよね」


案の定耳元で囁かれる。リチャード殿下は怒っているのだろうか。でも怒る……とは違うような気がする。なんだか後悔しているような。


「それは……」


「アーネストから聞いたよ。湖畔にいたと」


「そうですね。湖畔にいました」


「怪我を増やしたとも聞いた」


「その通りですね。増えました」


ボロが出そうでオウム返ししかできない。足の状態は見ればわかるだろう。昨日よりぐるぐる巻きだ。お付の侍女も増えて、エレーナの行動に対する監視がバージョンアップしている。


「取り敢えず応接室に案内しますね。リリアン」


ヴォルデ侯爵のからかうような視線を無視し、後ろを振り向く。


彼は殿下に昨日エレーナと会ったことを言ってしまったのか。まあ彼の主はリチャード殿下なので言わずにはいられない。幸い〝婚約〟については話していないようだ。


話していたらリチャード殿下に多分初手から問い詰められていた。


5歳も年が離れているのと他よりは親しい仲だからなのか、殿下はちょっとエレーナに対して過保護だ。


夜会に出席する時は露出度が高いドレスを着るなとか、小さい子供じゃないのに変な人について行ってはいけないとか。ほんっとに妹に言うであろうことばかりエレーナに言い聞かせる。


だから好きな人に〝婚約します〟と言うのも自分で傷を抉る行為になるので嫌いだが、それよりも先に変な心配をして問い詰められるのが目に見えていた。


そんなことを考えていたら、すっと寄ってきたリリアンが殿下達に軽く会釈した後、エレーナの車椅子を押し始める。


「殿下は……ラベンダーティーですよね。ヴォルデ侯爵様は何がお好きですか?」


殿下の好きな茶葉は知っているが、侯爵様は関わりがなかったので知らない。


「──そうだなあ。エレーナ嬢がオススメだと思う茶葉にして」


ルイス公爵家の領地は茶葉が有名だ。ほとんどの領民は茶に関連する職業に就いている。今年も夏に採れる茶葉が、つい最近領地から届いたばかりだった。


天気も良く、雨も理想通り降ってくれたおかげで今年は豊作に加えて、良質な物になったと聞いている。


「そうですね。旬の茶葉をブレンドしたアールグレイがいいと思いますが……」


屋敷にある紅茶の種類を脳内に浮かべて考えた。エレーナはまだ飲んでないが、先に飲んでいたエルドレッドがとても評価していた。弟は紅茶にうるさいので、贔屓目で言うわけがないし信用できる。


「それでお願いするよ」


「分かりました。リリアンお願いね」


「はいお嬢様」


一礼してリリアンは部屋を退出する。


腰掛けるように2人を促し、エレーナ自身も背中にクッションを当てて、正面のソファに座る。


「では今日、ここに来た理由を教えてくださいませ」


手紙には要件が書いていなかった。


侯爵の方は若干分かる。でも、リチャード殿下の意図が見えない。彼は忙しいはずで、こんな屋敷にまで来る時間は持てないはずなのだ。何か火急の案件でもあったのだろうか?


「アーネストが突然執務室に押し掛けてきて、〝私は今日エレーナ嬢の所にお見舞いに行く。私を1人でいかせていいのか? 止めても無駄だぞ? 心配なら付いてこい〟と言われたんだ」


「それだけですか? つまりわたしの見舞いのためだけ……だと」


ぱちくりとエレーナは数度まばたきした。


「……それだけ」


叱られて目を背ける子供のような仕草をリチャード殿下はした。


そんな殿下を訝しみ、覗き込もうとするエレーナと、目を逸らすリチャードの密やかな攻防に、アーネストは笑いをこらえるので精一杯だった。

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