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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
26/134

26.傍で見ていた者達(2)


(勘違いしているレーナが聞いたら……どうなるかしら)


リチャードに焦って欲しいと思ったが、この展開は想定していない。おそらくリチャードがエレーナに慕う相手がいると言ったのも、ぼかしながらの告白だ。しかしエレーナはその相手が自分だと思ってない。


(全てが悪手に回っているわ)


エリナは天を仰いだ。


そのせいでエレーナは変な方向に舵を切っている。両思いで何も問題がないはずなのに、他の人と婚約しようとしている。ねじれ曲がっているのを直すにはどうすればいいか。答えはシンプルだが難しい。


(もう! どちらかが、ぼかさずに〝好きです〟って言えばいいのよ!!!)


リチャードの様子からして、エレーナを手放すつもりは一パーセントもないだろう。


「独占欲丸出しよね……」


心の中で思っていたことをアレクサンドラが代弁してくれる。


今までの夜会や舞踏会でも踊ることは無かったものの、エレーナに近づく子息たちを牽制したり、蹴散らしたりしていた。


今宵の優しくエレーナをリードする姿も、表情も、王子としてのリチャードではない。一人のエレーナに恋する青年だ。


まあ、今はエレーナと視線が合わず、段々瞳が冷ややかになってきているが。


「リチャード殿下不機嫌じゃないか……これは明日の執務が怖い」


ぶるりと震える夫のお腹に肘を入れる。ヴッとギルベルトは息を詰まらせた。


なんてことを……と言わんばかりに呆然と見てくる夫のギルベルトをエリナは無視した。


エレーナよりも己の仕事のことを心配している夫が許せなかった。仕事なんてどうにでもなる。でもこの問題は今、正さないとどうにでもならなくなってしまう。


曲が終わって二人が止まる。礼をしてもエレーナは下を向いたままで、リチャードが去るのを待っているようだ。


だがリチャードも動かない。


「どうしたのかしら」


周りがざわつき始めた矢先、エレーナが顔を上げ、リチャードは彼女の耳元にそっと何かを呟いた。

エレーナの口元も鈍く動く。しかし、その声は彼に聞こえてないようだった。


去っていく後ろ姿は周りを寄せつけない不機嫌なオーラ。


ずっと見守ってきたエリナ達はそのリチャードの冷たさに、早くストレートに告白してエレーナを幸せにしてください。と思ってしまう。


その間にもエレーナはふらふらと端に寄っていく。頭に手を当てながら微かに口元が動いてるのが分かる。


時折子息たちにダンスに誘われていたが、全部断っている。


「話しかけにいく?」


一曲ディアヌ公爵と踊って戻ってきたサリアはエリナに聞いた。この中で一番エレーナのことを知っているのはエリナだった。


「うーんあれはそっとしておいた方がいいわ。きっと脳内で今起きたことを整理して納得しようとしてるから」


壁の花になりつつあるエレーナは眉をひそめてずっと何かを考え込んでいた。考えることによってリチャードの意図に気が付けばいいが可能性は低いだろう。


彼女の根本にある「慕う人は別の人」が覆されない限り、それらの考えはエレーナの中で排除されてしまうから。


突如エレーナは顔を上げる。視線の先には隣のフロア。


「まさか……フロアを移動しようとしてる? 普段エレーナは隣にいかないのに!」


サーッと青ざめるサリアは直ぐにリチャードの様子を見遣る。


表向きはにこやかに、でもギルベルトに言わせてみれば、不機嫌になっている王子殿下。


デビュタント達に誘われ、断ることも出来ず、何人もの令嬢と踊っていた。


エレーナの様子に気がついたようには見えないが、そう見えてもエレーナのことを見てるリチャードだ。気づいているかもしれない。


基本的に隣は子息しかいない。何故ならそこは主に貴族達の情報交換の場だから。逆に踊らない令嬢達はサロンの方へ移動する。

隣に行くということは本当にエレーナは婚約者を探すつもりだ。その意図にリチャードが気がついたらどうなるか分かったもんじゃない。


エレーナは知らないリチャードの裏。


裏を見せたら怖がられると思っているのかエレーナの前では見せてない。見せるつもりもないようだ。


まあここにいる幼なじみ組からしてみれば、今裏が出てきたらかなりまずい。でも、彼女はそのやばさを知らない。


だからエレーナは何も考えずに隣に行こうとしているのだろう。行ったら最後どうなるかなんてわかり切っている。


──まずい。阻止しなければ


幼なじみ四人は一瞬で悟った。

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