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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
本編
15/134

15.申し込まれた最初のダンス

会場に入り、友人達と会話を楽しみながら始まった舞踏会。


まず最初に今年のデビュタント達が謁見の間で個々に国王と王妃に挨拶をしに行く。

それが終わると両陛下が会場に入り、国王から一言言葉を承り、デビュタントのファーストダンスになる。


上座の玉座に座る王家の方々。もちろんリチャードも居るが、参加者の目線はリドガルドの額に向いていた。


そりゃあそうだろう。目立たないわけが無い。何せ国王の額が真っ赤になっているのだから……。


畏れ知らずの勇気のある貴族が尋ねたが、リドガルドが答えるよりも早く、「ふふふ陛下に罰が下っただけです。お気になさらず」とミュリエルが意味深長なことを呟き、それ以上聞ける訳もなく……。


陛下は一体王妃殿下に何をしたんだと全貴族が思いながら口には出さなかった。



◇◇◇



デビュタントに指名され、案の定踊ることとなったエルドレッドを撒いたエレーナ。友人達にも嘘をついて抜けて来た。

これで婚約者を選びに行けると思ったのもつかの間、すぐに彼女は違う人物から逃げていた。


こちらに近寄ってくるその人物を避けるようにエレーナは人を掻き分けて端の方へ寄る。


滑るように動く度、後ろの方のスカートがふわりと軽やかに地から舞い上がっては落ちていく。耳につけたイヤリングは室内を照らすシャンデリアの光を反射し、燦めいていた。


ファーストダンスは踊るつもりがなかった。必要に迫られた際はエルドレッドと踊るつもりだったが、その必要も無いと思ってた。

今日ここに来たのは貴族として参加する義務と婚約者探しをするためで、踊りに来たのではないから。


なのになぜ────


空色の涼やかなドレスを身に纏った令嬢と、それを追いかける者の進路の邪魔をしないように、貴族たちが道を開ける。


人が掃ける音がしてエレーナは逃げられないと思った。

無駄だと考えた。

だから立ち止まった。

追いかけてくる者に振り向いた。


困惑というものを伴って彼女を覆う布が翻り、注目が集まる。


(どうして? リチャード殿下には慕う相手がいるはずで、今日花嫁が選ばれるはずじゃないの?)


自分がその噂の〝花嫁〟だと少しも思っていないエレーナは、頭にクエスチョンマークしか浮かばない。


一歩ずつ着実に歩みを進めるリチャードとの距離は詰まっていく。


すると自分の意思に反してほんのりと温かいものがエレーナの中に生まれそうになった。


「私に、貴女の今宵最初のダンスの相手という喜びを頂けませんか」


片膝を折って、右手を差し出して、エレーナを捕らえたリチャードはそう言った。


息を呑む周りの貴族達。それらの視線を一心に集めたエレーナは自分の慕う王子殿下からの誘いに頬を赤らめることは無かった。むしろ尋ねられて温かい何かは急速に冷めていった。


デビュタントのファーストダンスも特別な意味を持つが、彼らが踊ったあとの最初のダンスも特別な意味を持つ。


特に婚約者がいない貴族の中では。


だから兄弟がいる場合は兄弟と、いない場合は親しい者、もしくは慕っている者と踊るのが普通だ。


リチャードがそれを知らないはずがない。


基本的に今までリチャードは令嬢に乞われて踊ることはあった。しかし、自分から行くことはなかったはずだ。それなのに今は殿下からエレーナに申し込んでいる。紺碧の瞳は自分を見つめている。


──花嫁を選ぶと噂されていた王子殿下。


最初のダンスで誰と踊るか。今日一番注目されていた事柄だった。


だからエレーナはとても驚いた。何故自分の元にリチャード殿下は来ているのかと。


頭は今起きたことをどうにか処理しようと回転する。


殿下には慕う方がいて、それは自分ではなくて、じゃあ今の誘いは一体? と考えてみる。


──リチャード殿下の慕う人。


すなわち〝花嫁〟は今ここで最初のダンスを殿下から申し込むことができない令嬢。だから秘密を知っているエレーナに申し込んだのかとエレーナの頭は勝手に処理した。


語弊があるかもしれないが、簡潔にいえば当て馬だ。


冷めてしまうのも致し方ないだろう。

そう思っても相手はこの国の王子殿下。ダンスの誘いをエレーナが拒否する訳にも行かない。


(初めて、初めて誘って頂けたのに……なんで)


じわりと視界がぼやけそうになる中、エレーナは過去のことを思い返した。

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