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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
番外編
123/134

13.初めての遠出(2)

 開放感溢れる外での演奏を楽しんだ後はラタナ湖の水辺に建てられたレストランに移動する。レストランに入ると、エレーナ達を待っていたのか店のオーナーが出迎えてくれた。


「リチャード殿下、エレーナ妃、お待ちしておりました。昼食のひとときにこの店を選んでくださり誠に光栄でございます」

「ギルベルトがこの店の魚料理は逸品だと言っていた。私も貴方の料理が楽しみだ」

「それでは期待に応えられるよう精一杯作らせていただきます」


 リチャードとオーナーが握手する光景を横目に、エレーナははしたなくならない程度にきょろきょろと店内を見渡す。

 事前に連絡を入れて貸し切りにしたのか、外は賑やかだったが中は人気がない。お客はリチャードとエレーナだけだ。


「レーナ」


 呼ばれ、慌ててリチャードの方へ向く。いつの間にか挨拶は終わったらしく、にこやかなオーナーがエレーナに尋ねてくる。


「お席はどちらに致しましょう」

「彼女の望む通りに」

「えっと私が決めてもよろしいのですか?」

「かまわないよ」

「でしたら……」


 リチャードに促され、エレーナは迷うこともなく告げた。


「あそこのテラス席に案内していただけますか?」


 屋根付きのウッドデッキには白樺を材料とした木造のテーブルとチェアが揃えられており、湖畔を一望できるテラス席は眺めが良い。

 レストランの目の前は私有地になっているのか、他の水辺に比べて観光客も居らず、ゆっくりと景色を楽しめそうだった。


(せっかく訪れたのだもの。後ほど小舟にも乗る予定だけれど、食事をしながらゆっくり景色を楽しみたいわ)


 テラス席に移動したエレーナに、給仕の者がメニュー表を渡してくれる。


「ここはお魚が美味しいのですよね」


 メニューを見ながらリチャードに問えば、彼は頷く。


「らしいね。ギルベルトが勧めてきたよ」

「エリナも食べないのは損だと言っていました」


 ノルフィアナのラタナ湖で取れる魚は海で取れる魚に負けず劣らず上質な脂が乗っていて、その身を噛み締めるとじゅわりと脂が溢れ出すとか。

 塩をまぶして強火で焼いたり、お酒とともに蒸していただいたり、料理の種類も豊富で虜になる人々も多いらしい。


(山菜料理も興味があるけれどやっぱりいただくとしたら魚料理よね)


 友人にも勧められて食べないという選択肢はなかった。エレーナとリチャードはそれぞれ別の魚料理を注文した。


 そうして運ばれてきた料理を堪能したのだが、それはもう美味であった。

 頬が蕩け落ちそうで、手で押えながらきらきらと瞳を輝かせるエレーナに、リチャードが愛おしそうな眼差しを向ける。


「ん〜〜!」


 エレーナが頼んだのは近くの森で取れた山菜や野菜と共に蒸した料理だ。本来はワインで香りや味付けをするらしいが、エレーナはお酒に極端に弱いのでリチャードが許してくれず、折衷案としてワイン無しの蒸し料理となった。


 それでも今まで食してきた魚の蒸し料理の中で一番の美味しさに、ノルフィアナの魚やオーナーの腕が素晴らしいことがよくわかる。


「リー様も食べてくださいませ」


 エレーナはリチャードにも味わってもらおうと小さく切り、手を添えて隣に座っていた夫の口元に運ぶ。

 リチャードは自然な流れで口を開き、妻が切り分けた魚を口の中に収めた。


「どうですか?」

「とても美味しいね。では、私の方も」


 リチャードも同じように自身が頼んだ料理を一口サイズにしてからエレーナの口元に運ぶ。


「ん! こちらも舌が溶けてしまいそうな美味しさです」


 そうしてここまではトラブルもなく、平穏で充実した旅行だった。

 その後、小舟から見る夕日が美しいとのことで護衛のメイリーン達に見守られながらリチャードと二人で小舟に乗っていた時だった。


 強い風が吹き、被っていた帽子が空に舞う。


「あっ」


(リー様に頂いたものなのにっ)


 両思いになったあと、恋人として貰った贈り物なのだ。不安定な小舟の上であるのも忘れて思わず立ち上がり、飛んでいく帽子に手を伸ばす。


「よかっ──」


 運良くぎりぎりのところでつばの部分を掴むことに成功したが、大きく踏み出したのが悪かったのだろう。いきなり比重が変わった船は大きく揺れ、バランスを崩した。


「レーナっ」


 バシャンっと盛大な音を立ててエレーナの体はあっけなく水の中に沈んだ。

 夏とはいえ、夕方の湖は水温が低い。全身から体温を奪われてすぐに冷えていく。加えてドレスが水を吸って枷となり、エレーナの体に張り付いて身動きが取れない。


(くる、しい)


 微かに開いた口からこぽこぽと空気が出ていき、代わりに水を吸い込んでしまう。その苦しさからけほけほと咳き込むと、再度水を吸い込む悪循環に陥ってしまった。


(たす、け)


 あまりの苦しさから意識が遠のく寸前、強い力でグイッと水面に引っ張られたのだが、誰なのかを確認する前に苦しさから意識が途切れてしまった。


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