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王子殿下の慕う人  作者: 夕香里
番外編
122/134

13.初めての遠出(1)

「レーナ、どこか行きたい場所はあるかな」


 王家に嫁ぎ、数日が過ぎた頃。リチャードと共に朝食を食べていたエレーナは彼にそう尋ねられた。


「どこ、とは?」


 手に取っていたカップを置いてエレーナは聞く。


「新婚旅行も兼ねてせっかくだから遠出をしようと考えているんだ。今まで会うのは王宮ばかりだったし、レーナとどこかに出かけることが少なくて申し訳なく思っていたんだ」

「……リーさまはお忙しいですし、私もあちらこちら活発に動く性格ではないので」


 言われてみれば確かに巷の婚約者達がするようなお出かけは少ない。とはいえ、元々の距離が近すぎたのであまり気にしたことはなかった。


(リーさまと行きたい場所……)


 考えてみるがなかなか思い付かない。


「どこへ行くにもリーさまとなら楽しいと思いますので、リーさまの行きたいところに」


 結局、無難な返答に落ち着いてしまう。リチャードが初恋だったエレーナにとって、他の子息と出かけることなどギルベルトを除いてしたことがない。経験不足な自分では、この場合どこに行くのが正解なのか分からなかった。


「私も似たような感じだからレーナに選んで欲しいんだ。些細な場所でもいいから」

「……と言われましても。そもそも遠出など執務がございますでしょう? ギルベルトが泣きますよ」

「さすがにこれくらいは調整してくれるだろう」


(泣きそうなギルベルトが容易に想像つくわ)


 しかしながらエレーナもリチャードとのお出かけは是非ともしたいのでこの機会を逃すつもりはなかった。


「……では湖に行きたいです。ちょうど季節も良い頃ですしね」

「湖だとノルフィアナかな」

「はい」


 ノルフィアナは避暑地として有名な高原だ。夏でも適度に涼しく、空気はさらりとしている。最近ではその気候の良さから貴族たちがこぞって別荘用の土地を買い上げており、湖畔の近くには旅行客用のホテルも建設されている。


「エリナが話していたのです。ノルフィアナの湖──ラタナ湖は水の透明度が高く、ボートに乗ると小魚達の泳ぐ姿をよく見えるのだとか」

「へえ」

「湖畔周りの森は遊歩道となっていて、森林浴しながら景色を楽しめるようです」


 友人は昨年訪れたらしいが、それはもう素敵な場所だったらしい。


「ゆっくりするには最適な場所でしょう」


 エレーナが言えば、リチャードはしばらく考える様を見せて口を開いた。


「そうだね。ラタナ湖の湖畔に王家所有の離宮があるから快適に過ごせる」

「まあ! 宮があるのですか」

「先代国王が建てたものがね。小さい頃、何度か母上と夏の避暑に訪れたことがある」

「では、ノルフィアナの土地勘もおありで?」

「……若干。母上は観光客に混じって辺りを散策するのが日課だったからね。ただ、幼少期だから記憶はおぼろげだ」


 食後のコーヒーを飲みながらリチャードはそう言った。


「行き先はノルフィアナで決定かな」

「はい、そうしましょう」


(とても楽しみだわ。新婚旅行なんて行けないと諦めていたから尚更嬉しい)


 夫婦になってから初めてのお出かけ。エレーナは雨が降りませんようにと毎日神に祈りながら、出発の日を心待ちにしていた。



 ◇◇◇



 エレーナの祈りが届いたのか、旅行の一日目はからりと晴れた絶好の行楽日和だった。

 王都からノルフィアナまでは最短でも馬車で半日かかるので、途中適宜に休憩を挟みながら丸一日かけてノルフィアナの離宮に到着した。


 着いた時には太陽が沈んでいる最中だったので、観光は翌日からに決め、長旅の疲れを取るために早めに眠りについた。


 翌日、出かける支度をしたエレーナは観光客に扮してリチャードや護衛のメイリーン達と共にラタナ湖の観光に出かけるため、宮とは湖を挟んで反対側の街中に足を踏み入れた。


「わあ! こちら側は賑やかですね」


 活気があり、観光客に客層を絞った露店も湖畔に沿うように多く出店されていた。


「レーナ手を繋ごう。人が多いから離れ離れになってしまう」


 こくんと頷いてリチャードの差し出した手に己のを絡めた。


「エレーナ様、日差しが強いので帽子もお被りください。湖面に太陽が反射して下からの日焼けも懸念されますし」


 せっせと世話を焼くのはリリアンではなく、メイリーンである。リリアンは昨日馬車から降ろした荷解きをしなければいけないらしく、離宮にお留守番だった。その為、メイリーンが護衛の傍ら付き人として色々してくれている。


「反射による日焼けは帽子で防げないと思うわ」


 言いつつも、従わない理由もないので渡された帽子を被る。メイリーンは「近くにはいますので何かあれば名を呼んでください」と告げ、二人の邪魔にならないよう人混みに紛れた。


「リーさま」

「ん?」

「ここ数日、ノルフィアナについて調べてたんですけど、湖以外にも牧畜も盛んでミルクを使った料理が美味しいのだとか。せっかくですから、お昼は特産品を使った料理をいただけるお店に行きたいです」


(あわよくばエリナが絶賛していたアイスクリームが食べたいな)


 王都でもアイスクリームは食べられるのだが、ここの物は抜きん出ているらしく、比べ物にならないくらい濃厚だと評判らしい。


「もちろん。ただ、お昼までまだ時間があるから他のところを見てからにしよう」

「ええ、あっ! あそこで演奏している方がいますね。ちょこっとだけ聴いてもいいですか……?」


 視線の先には、簡易的な木製の舞台が設置されていた。そこにはピアノが置いてあり、女性が軽やかに弾く旋律に合わせて隣に立つ男性が笛を吹いている。


 響き渡る音色に足を止め、置かれている椅子に腰かけて聞き入る観光客もいた。


「レーナの望む通りに」


 きらきらと瞳を輝かせ、そわそわするエレーナが可愛らしく、リチャードも自然と笑顔になった。

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