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バイト先の後輩

作者: 愛村憎

この作品はフィクションです。

「俺」の小さな嘘が読んでくださった方々の娯楽になれば幸いです。

 俺がバイト先で実際に体験した話。


 俺のバイト先は24時間スタッフが在中してる倉庫で、配送専用の段ボールを作ったり、配送予定の荷物を箱詰めしたりする所なんだ。俺はそこの夕勤担当、18時から0時までの6時間勤務で、学生はだいたいこの時間にシフトが入ってる。バイト先の説明をもうちょっとだけ続けるから、興味のない人は次の段落まで読み飛ばしてほしい。仕事の内容は、家具屋を改装した2階建ての倉庫に大量の商品が並んでて、そこをスタッフ2人が歩き回って荷物を集めるってイメージ。普段は夕勤の時間に配送用の段ボールを組み立てるんだけど、その日は昼勤の人が時間を持て余してたらしく段ボールを組み立ててくれてたんだ。昼勤は国内配送、夕勤は海外配送って感じで、作業内容がおおまかに決まってるから、全時間帯が共通して出来る作業って少ないんだよね。それで段ボールを組み立ててくれてたみたい。


 その日は出勤直後から箱詰めを始めたから、倉庫の中をグルグル歩き回って作業してた。30分くらい経った頃に後輩から「2階行ってきまーす」って声が聞こえたんだ。俺は後輩に「はいよー」って返して作業を続けてた。

 お互いが各々作業を進めるから、基本的に2階に行くなんて報告は必要ないんだけどさ、俺とのシフトの時はその後輩がけっこう報告してくれるんだよね。っていうのも、これは恥ずかしい話なんだけど、俺ってどうしてもGが苦手なんだよね…。前に倉庫で遭遇したときは悲鳴を上げて持ってた荷物放り投げて逃げ回って、その後輩が処理してくれるまでそんな感じだった。その一件以降、情けないくらいにGが苦手な俺のために後輩が声をかけてくれるんだよね。

 後輩が2階に上がった後、俺は「頼むGよ…出てくれるなよ…」なんて考えながら作業を続けてたんだ。そしたらさ、ツルツルの床を靴底で勢いよく擦ったような、キュッ!って音が俺の正面、建物の反対側くらいの距離感で聞こえたんだ。俺は「あいつ…さては躓いたな…?」とか思って若干ニヤついてたんだけど、俺の表情はすぐになくなった。


 後輩は2階に居る筈だから。


 俺は一瞬固まったけど、すぐに作業を再開した。いつものことだから。

 この建物は前から「出る」と噂されていた。監視カメラに女性が映りこむだとか、入力のない筈の無線からノイズが聞こえるだとか。俺もそのノイズを聞いたことがあったし、視界の端で何かが動いたり、誰もいない場所から物音がするなんてことはここでは日常茶飯事だった。

 だから俺は気にも留めずに作業を続けてたんだけど、音が聞こえた場所の近くを通ったとき、無意識に視線をそっちに向けたんだ。そしたら居たんだよ、後輩が。俺は階段の近くで作業してたから、後輩が上から降りてくれば気づいたと思う。その階段以外は屋外の非常階段だけしかなく、わざわざそこを使うとも思えなかった。1年以上バイトを続けて多少の心霊現象では動じなくなってたんだけど、さすがにこのときは背筋に寒気がしたよ。だから俺は思わず聞いてみたんだ。

「あれ?2階行ってたんじゃなかったっけ?」

「2階…は上がってないですね」

「いや、さっき行ってきますって…」

「???」

後輩は一瞬きょとんとした顔をこっちに向けただけで、そのまま作業を再開した。

 俺は若干混乱しつつも、「そっか…」と言って作業に戻ることにした。俺のことをからかってるのかとも思ったが、後輩は真面目な性格で休憩中はともかく勤務時間中にふざけるような性格じゃない。どうせ俺の聞き間違いだろうと思って作業を再開した。


 それから1時間くらい経ったころ、出入り口からドタバタした足音が聞こえてきたんだ。時刻は20時頃で、トラブルか何かで社員さんが駆り出されたのか?と思った俺は様子を見に行くことにした。配送ミスとか商品の不足で社員さんが来ることはたまにあったし、普段事務所にいる社員さんよりも俺たちバイトの方が倉庫に詳しかったりするしね。でも出入り口に居たのは社員さんじゃなくてさっきの後輩だった。しかも汗だくで若干息も上がってる。

 俺が咄嗟に「どうした!?」って声をかけたら、後輩は焦ったように、

「すみません!思ったより遅くなっちゃって…」って。


その日、その後輩は実習で1時間半遅れて出勤する予定だったんだよね。

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