第78話 挨拶代わりのメテオストライク
「隕石ですって? このタイミングで?」
迫りくる隕石群を目の前にして、思わずエルディアは呟いた。
確かに可能性としては全くの0ではない。
とはいえ、このようなタイミングで運悪くあれ程の数の隕石が振り注ぐ事など限りなく0に近い可能性だった。
そう考えれば、目の前で起きているこの現象は自然的なものなどではなく、人為的な出来事——つまり魔法によるものだとしかエルディアには考えられなかった。
(……魔法? エルフ族の攻撃? いや、規模はともかくとして魔法の系統が違いすぎるわ。だが、そうなら誰の仕業だというの?)
脳裏にこの魔法を使えそうな人物が複数人、思い浮かんだが、それこそありえないとエルディアは一瞬の内に判断した。
(あの方たちの中の誰かの不意打ちだというのなら既に私達は全滅している)
エルディアは自信家ではあるが、決してうぬぼれているわけではなく自分より強い者の存在がいる事を理解している。
だからこそ、完全に不意を突かれた状況で全滅どころか未だ一体の被害すら出していない状況にそれらの存在の介入ではないと瞬時理解できた。
だが、だからこそ目の前の現象を作り出した正体がエルディアには分からなかった。
「い、隕石を向かい撃て!」
迫りくる隕石を前に時間をかけることなく、エルディアは配下のドラゴン達に指示を出した。自身は既に展開していた【アイスランス】を全て解除して、新たに巨大な氷塊を作り出す魔法【アイスバーグ】を複数展開し、瞬時に撃ちだした。
とはいえ、【アイスバーグ】は【アイスランス】のような無数に近い数を同時に撃ち出す事はできず、同時に射出できるのは3m級の氷塊を20発くらいが限度だ。
エルディアの指示を受けた配下のドラゴン達が火球を撃ち出し、エルディアも力の限り【アイスバーグ】を放ち続けるが、完全に不意を突かれた事もあり、全ての隕石を破壊しつくすことは叶わず——。
多くの隕石の塊が大地へと降り注ぐのだった。
——ほぼ同時刻のドレアス城内にて。
南の空が真っ赤に燃えていた。
今まさにエルディアの頭上に降り注ぐ無数の隕石が落ちる光景をユーディーンと配下の重臣達が大広間の横から突き出した大きなテラスから眺めていた。
ユーディーンも重臣たちも隕石が落ちるという超常的な自然現象があるという事は知識としては知っていた。
だが、それはあくまで知識としてであり、実際には誰一人としてその目で見たことはなく、真っ赤に燃え盛り光を放つそれが隕石が落ちるという現象だと理解できる者はこの場にはいなかった。
「……馬鹿な。世界の終わりか。我々は手を出してはならない化け物に手を出してしまったという事か」
赤く燃え盛る空を見ながらユーディーンはそれがアッシュが言っていた魔法だというものだとすぐに分かった。
だが、そんなユーディーンの呟きに反応を示せる者はこの場には一人もいない。
神獣ドラゴンが火を吐き、空を翔ける化け物だという事はこの場にいる全員が知っているが、あれほどの現象を作り出す事などこの場にいる誰も知りはしなかったし、考えもしなかった。
あんなものがこの王都に降り注げば、一瞬でこの王都など滅ぼされてしまうだろう。
視覚的情報だけでそれだけは理解できてしまったこの場にいる全員が言葉発することなく黙り込んでしまう。
だが、そんな時だった。
静寂に包まれる状況の中、男性ばかりでこの場にいないはずの女性の明るい声がテラスに響いた。
「みなさーん、こんにちはー!」
ユーディーンや重臣たちが集まるこの場で言葉遣い的にあり得ないのだが、咄嗟に侍女の誰かがやってきたのかと思い、その場の全員の視線がテラスの内側の大広間に向いた。
だが、そこには誰の姿もない。
すると少しして再度、女性の明るい声が響いてきた。
「そっちじゃないですよー。こっちですー」
女性の声で反射的に全員がテラスの外側へと振り返った。
そして、たまたま初めに振り返ったベルゼスが大きな声で叫び声を上げるのだった。
「な、何者だ! 貴様!」
全員が釘付けになっている視線の先には美しい若い女性がいた。
ただこれだけならベルゼス達もそこまで驚かなかったかもしれない。
だが、その女性は完全に2階にあるテラスの外側。
つまり、空に浮いていた。
ベルゼスの誰何に答えることなく、女性はテラスへとふわりと降り立った。
そんな女性に警戒して、親衛隊騎士が盾になる様にユーディーンの前にずらりと立ち塞がる。
「な、何者だと聞いている!? 答えろ!」
突如現れた謎の女性に緊張した声で親衛隊騎士達が大声で怒鳴る様に問いかけると、女性は緊張感の欠ける声で答えた。
「もー、怒鳴らないでくださいよー。本当はケイン君と一緒に来たかったのに、急いできたんですよー。私の名前はセラ。あなた達を守るために来ました」




