第50話 勝手に殺すんじゃないわよ
なんとエメルさんは頼もしい方なのでしょう。
身体は私よりも小さくとても可愛い方ですが少し幼い顔立ちをしているので、多分私より年下なのだとは思います。
ですが、それでも私はお姉さまとお呼びしたいくらいしっかりしていらっしゃいます。
なぜこんな方があのような野蛮な人と行動を共にしているのか私にはまったく理解できません。
「あのー、エメル様はなぜアッシュ様と行動を共に?」
私は興味本位半分、情報収集が半分で先を歩くエメルさんに尋ねると、振り返ることなくエメルさんは答えてくれました。
「さぁ、なんでかな? 単に私が強かったからじゃない? 私とセラは書類選考で選ばれたらしいけど、ガインさんはいらないのに王達にゴリ押しされたって聞いたわ。当時の私は命令を断る事はできなかったし、そもそも勇者パーティーへの参加なんて普通断ったりしないからね。魔王を倒してようやくおさらばできると思ったのにまさかこんなことになるとは思ってもみなかったけど」
エメルさんはそう言いながらため息を漏らしています。
周囲と本人の態度、それにケインという少年が魔法を使用する際に使っていた杖よりも明らかに高品質そうな杖を持っていることから多分そうではないかと思っていたのですが、やはりエメルさんは強いみたいです。
それにしてもアッシュさん達のチームの結成を後押ししたという王達と言うのはどこの国の王たちなのでしょうか?
少なくともドレアス王国ではないはずですし、ハルア共和国でもないでしょう。
あとは北の帝国くらいしか思いつきませんが、もしそうならドレアス王国に今回のような交渉を持ちかけるわけがありませんし、そもそも仮にそうならドレアス王国などとうの昔に滅ぼされているはずです。
アッシュ達は異世界からやってきたという話があったと聞きましたが、アッシュ達は外海の外からやってきたということなのかもしれません。
大陸を神獣の領域に囲まれた私達がこの大陸の外へ出る事は困難ですが、ドラゴンすら容易に倒せるというアッシュ達ならそれらのどれかを越えて入ってくることができたのかもしれません。
そう考えれば、外の世界にはまだ私達が知らない国や知らない神獣がたくさんあるという事なのでしょう。
アッシュ達が現れた以上、今後はそんな外海の外の国々と付き合っていかなくてはならないかもしれませんが、まずは今回の事を乗り切らなくてはいけません。
「アッシュ様のお仲間は3人と聞いていたのですが、ガインという方もおられるのですか?」
「こっちには来てないけどね。真面目な人だけどアイツにはかなり嫌われてたから。ガインさんならアイツが何を言おうとも今回のようなことがあれば真っ先にドラゴンを倒そうと動き出したんだろうけどね」
「そんなお方がいらっしゃるのですか? 連絡を取る事はできないのでしょうか?」
そんな方がいるのでしたら仮にアッシュとの交渉が失敗に終わったとしてもどうにかなるかもしれないと思い私が尋ねると、エメルさんは溜息をはいてこちらを振り返りました。
「あのねぇ、情報収集も結構だけどアンタはこれからのアッシュとの話し合いに備えた方がいいわよ。ガインさんは真面目で勇敢で強い人だけど会う事も話をすることももうできないんだから」
私の考えたことは全て見抜いたエメルさんはそう言ってまた前を向きました。
そんなエメルさんの言葉で私はガインという方がもうこの世にはいない人なのだと悟りました。
ガインという方はエメルさんにとって大事な仲間だった風に思えましたが、そんな話をする時でさえエメルさんは悲しい表情を一つも見せる事はなかったのです。
やはりエメルさんは強く美しい女性でした。
この危機を乗り越える事ができたのなら私もいつかこの方のように真に強く美しい女性になりたいと心から強く思いました。
エメルとセラはアッシュが元居た世界の王達が用意した候補の中から書類選考を経て、アッシュが選びました。
アッシュはとある事件を経て勇者となったのですが、それ以前はエメル達とは知り合いでもなんでもなくその時に初めて顔を合わせる事になります。
次話は王都のその後のお話となります。




