ダンジョン挑戦者(後編)
アジサイの心配には及ばない2人。
そのうちのクロユリの方は図書館のような部屋で敵を待ち受けていた。
まぁ、暇でロベリアが用意した本を読んでるだけなんだけどね。
敵の人狼と蛇女が一歩踏み入ってそのまま無視しようとと本を読んでいたクロユリが顔を上げた。
「おやおや、僕を無視して行くつもりですか?それは感心しませんね」
気づかれた2人は構えた。
でも、クロユリの術の発動に反応できずに呪いの鎖に捕まった。
「そうですねぇ。ここで殺してもいいけど、一度魔王様に|謁見させる方がいいですね」
捕まった2人は魔王と聞いて驚いた。
「なんだと!魔王がここにはいるのか!」
その言葉を聞いてクロユリはニタァと笑った。
それからすぐに魔王ロベリアに化けた。
「こんな感じの魔王なんだけど魔力感じませんでした?」
「いや、全く感じなかったぞ」
そう聞かされてクロユリは元の姿に戻った。
それから思考を巡らせてわざと隠れるようにしてる可能性に至った。
ならすべきことは一つと思ったクロユリは本気で術をいくつか展開した。
「なら、本気で会わせてあげないと!」
そう言うと身動きの取れない2人を徹底的に呪術弾などで攻撃した。
その攻撃ですぐに人狼は気を失った。
しかし、蛇女の方は自分の術で解除して脱出した。
「私も使えるんだよ。この程度で舐めてると下半身の蛇部分で縛り上げんぞ」
着地した蛇女がそう言うとクロユリは笑顔で返した。
「僕はいつでも何重にプランを用意します。それは危険だと思った相手ほどしっかりとしてますよ」
そう言った直後にさっきより頑丈に6本を使って拘束した。
一本一本が呪文で出来てるのでそれぞれを解けば抜けることが出来る。
でも、あのクロユリがそれをさせる暇を与えるはずがない。
それは初見の蛇女でも感じ取った。
「どんだけ慎重なのか知らないけど、仕掛けを先にしてるなんてずるいんじゃないの?」
時間を稼ぐために蛇女はそう言った。
それに対してクロユリは容赦なく言う。
「ここはこちら側のダンジョンですよ。ズルじゃなく正当防衛です」
そう言い終えると脱出される前に仕込んでおいた別の術を発動した。
すると、魔力で出来た怪物が五体出現した。
それを見てしまった蛇女は詰んだことに気づいて目に涙を浮かべた。
そんな相手にもロベリアのようにクロユリは容赦しない。
「さぁ、一気に済ましてロベリア様のところに招待します!」
そう言いながら指で指示を出して呪術の怪物に相手を襲わせた。
蛇女は圧倒的な大きさとパワーと数に手も足も出ずボコボコにされてすぐにやられてしまった。
「終わりましたね。案外楽勝でしたがレベル差も関係ない魔王の部下の立場はいいものですね」
そう言って可愛らしく笑ってから2人を鎖で縛ったまま魔王の元を目指して引っ張って行った。
その途中でクロユリは『サクは遊んでるんでしょうね』と思った。
クロユリの思ったことは正解だ。
サクは今ちょうど敵を前にして魔法を無駄に使っている。
「さぁ!サクはあなた達にロベリア様の素晴らしさを伝えたいのです!そして願わくば、この持ち主のいない土地を完全に支配させるのです!」
忠誠心が高いのか、ただ狂ってるのかが分からないサクはたくさんの魔法を使って攻撃をしまくっている。
魔弾、魔力のナイフ、魔法の爆弾、魔法のリボン、あらゆる武器で相手の心を壊す気で無慈悲に攻撃を繰り返す。
「何も言わせませんがさっさと心を砕かれてくださいよ!」
サクは他の2人と違って最初っから心を壊して操るつもりだ。
途中で宙ぶらりんになった2人に尋ねた。
「ねぇ、もう壊れました?サクはさっさとロベリア様の手駒を増やしたいのですけど」
そう言ってやると天邪鬼と不死鳥は一言吐き捨てた。
その言葉は全く同じだ。
「くたばりやがれ。このクソガキが」
それを聞いたサクはニッコリとしてからリボンを操作して2人を壁に叩きつけた。
「ロベリア様に忠誠を誓いそうに無い奴は操らないといけません。悪魔は甘く無いんですよ。さっさと壊れなさい!」
そう言って攻撃をしようとした瞬間、天邪鬼が手を伸ばして能力を発動した。
それによって色々な反転が起きた。
「これは!」
上下を逆にされてしまった。
でも、悪魔には羽があるから問題ない。
すぐに体勢を取り直して空中でくるりと逆転した。
その隙をついて不死鳥は炎で自分と天邪鬼のリボンを焼いた。
そのまま2人は着地する。
「ニック、遅れてタイミングが見つからなくてごめん」
「ジャック、こっちこそ焼くタイミングが見つからなくてすまない」
2人は互いに謝った。
それから目の前の魔王の専用能力『魔王の加護』で底上げされた悪魔を睨んだ。
サクは生まれて初めて軽めにブチギレた。
「なるほど、タイミングが見つかれば逃げられましたか。まぁ、ここからは殺す気でやりますけどね」
そう言う時のサクは魔力の出し惜しみなんてしない。
無慈悲かつ無情に魔法を無駄撃ちしまくる。
さっきのように多様な武器を生成して発射した。
今度は本気になった敵達も力の出し惜しみをしない。
投げられた攻撃は近いものを不死鳥が焼いて、遠いものは天邪鬼が向きを反転させた。
「ジャック!一旦灰になるが構わないか!」
「やっちまえ!ニック!」
その会話の直後に不死鳥は一度自分の火に包まれて灰になった。
そこで不死鳥が復活するまでの間は天邪鬼がどうにか持っていた銃も使って耐えた。
しばらくして灰から大きな火柱が出て、その中からショタ化した不死鳥が姿を見せた。
その魔力はただの上級でありながら魔王の加護を受けた連中とそんなに差がない。
それどころか前の不死鳥より確実に戦い方が変わっている。
「ニック!ここからは任せる!」
「任せろ!」
そのすぐ後に天邪鬼は不死鳥の後ろに隠れて守りに入った。
不死鳥は後ろに気を付けつつ大きな火の羽を開いて、そこから火の玉をサクに向けて放った。
「打ち消します!それくらいナイフでも楽勝です!」
その言葉通りに魔法のナイフを大量に作り出して火の玉めがけて放った。
この一進一退の攻防戦は20秒ほど続いた。
その後、先に切り替えたのはサクの方だ。
ナイフはこれ以上使っても無駄と考えて魔力の剣に切り替えたのだ。
それで火の玉を避けつつ相手めがけて突っ込んだ。
「来るなら一気に焼くまで!」
不死鳥も切り替えてさらに大きくした羽と火の爪を出した。
それで相手するつもりだ。
両者がこの一撃に賭けて攻撃を繰り出す。
2人の一撃が衝突する寸前で2人の動きが止まった。
「ロベリア様がいらっしゃった。そこまでだ!」
「これ以上は魔王への無礼と知りなさい!」
ロベリアがやってきた。
その前にクロユリとアジサイが立って守っている。
どうやらサク達はクロユリに捕まったようだ。
この結果にサクは不満げだが、敵の2人は魔王がいることに驚いている。
その様子をじっと見て予想が付いたアジサイは不死鳥たちに尋ねた。
「お前ら、まさかサクから聞いてないのか?」
そう尋ねられた2人は首を縦に振った。
それを確認したアジサイはサクに睨みながら言った。
「サク!なにやってんだお前は!」
「てへっ♪うっかりしてた」
サクはお茶目っぽくうっかりしてたことを言った。
実際サクは問答無用で攻撃をしてたからそんな話をするタイミングは無かった。
それに呆れて魔王ロベリアは来たのだ。
「すまない。うちの側近がやり過ぎてしまった。本当は倒すにしてももっと早くさせるはずだったんだ。でも、あいつは自分の勝手でお前達を痛めつけてしまった。本当に申し訳ない」
そう言って魔王が格下のモンスター達に頭を下げた。
その背後でサクは仲間達から注意を受けている。
それらを見てもう戦う気も何も無くした2人は許すことにした。
「ジャックが無事なら俺はいいですよ」
「ニックが無事なら何の問題も無い」
それを聞いてロベリアは安心した。
それで2人を治療しようと考えてアジサイに運ばせることにした。
絶対に丁寧に運ぶように釘はちゃんと刺してある。
これで魔王ダンジョンの初侵入者との戦いが終わった。