ダンジョン挑戦者(前編)
翌日、ロベリアが玉座の間に立つとダンジョンへの挑戦者が来たことを知らせる警告音が鳴った。
「来たか。それが人間でもモンスターでも今は容赦しない」
警告音は側近の3人にも聞こえてすぐに寝室から出てきた。
そして、夜中に決めた待機場所に向かって急いで走って行った。
玉座の間に残ったロベリアはまず警告音を消して、それから玉座に座って魔力感知を利用してダンジョン内を見回した。
侵入者は近くのダンジョンのモンスター達だった。
そいつらはロベリアの門番達よりは強いらしく側近以外を全て失ってしまった。
ロベリアはそれを気にせずに侵入者を撃退するために相手を分断することにした。
敵のモンスター達6人は入り口から進んでいくといきなり道が三つに分かれた。
「おっ、三つか」
「どれに行く?」
敵は三つの道の内一つを選ぶつもりだが、そこはロベリアが許さない。
道を通る条件を用意して本気で分断に動いた。
「おい!上を見ろ!一つの道につき2人しか通れないぞ!」
それを発見した人狼の言葉に仲間達は反応した。
それで仕方なく三手に分かれて宝集めとボス撃破を目指して進むことになった。
まぁ、今のダンジョンにたいした物は無いので探すだけ無駄だけどね。
右の道を選んだ2人が進むと大部屋にたどり着いた。
そこは水がポタポタと雨のような降る場所で、こっちの世界の紫陽花がたくさん咲いている。
そんな部屋の先にある扉の少し前にアジサイが正座している。
「よく来たな。主人の正体を知ってきたか知らないが、侵入者である以上は死か撃退をしてやる」
そんなことを言うアジサイの立ち居振る舞いはたった1日でえらく立派になった。
しかも、レベルが上がって刀も強化を遂げている。
そんな鬼と戦うのは近所のメデューサとハーピーの女性コンビだ。
「あなたは誰なのかしら?」
サングラスのメデューサがそう尋ねると、アジサイは立ち上がって答えた。
「魔王ロベリアの三魔人が1人、刀鬼のアジサイだ」
その返えされた答えに敵は驚いた。
どうやら知らずに新入りの魔王が住むダンジョンに来たらしい。
「なるほどね。やけに部屋が少ないのに一箇所一箇所が大きくて立派だと思ったら、かけた魔王がついに新しく補給されたわけだ。これは自分達のダンジョンをあけてきた甲斐がある」
今言ったセリフからこいつらも小さなダンジョンのボスのようだ。
アジサイはそれを聞いてふふっと笑った。
それから刀を抜いて宣言する。
「貴様らはここで撃破する。殺すのも返すのももったいない。なら、ロベリア様の地下帝国を完成させるために、勝ったあかつきには貴様らの身柄をいただく!」
その宣言に対して敵の2人も宣言した。
「私が勝ったら魔王は殺させてもらう!揃ってもらったら困るんでね!」
「私は勝てたらここをいただく。ハーピーには必要ないけど隠れ家が必要なの」
それを聞いてアジサイは少しだけ話す時間を作ることにした。
出来るだけ時間が必要なのだ。
「さて、少し戦う前に話をしよう。こっちは生まれたばかりでほとんど何も知らないんでね」
生まれたばかりのガキと聞いて敵は警戒を緩めた。
そして、メデューサの方が一歩前に出て会話をすることにした。
「いいだろう。冥土の土産になるか分からないが少しだけ時間をくれてやるわ」
「では、大陸について」
「この世界の中心になるデザイア大陸のことか。ここは28の国によって構成されている。内11カ国の自然に魔王のダンジョンが潜んでいる。前の魔王が誰の手からも守った土地にはお前達のダンジョンが現れた。生まれながらの魔王なんて妬ましい」
「ふむふむ。次は魔王について」
「魔王は半数以上が自然に生まれた。4人は上級から登り詰めた努力家だ。そんな12人の魔王は全員が年に一度の集会に揃うと、その中でいらないダンジョンを廃棄する。近所の邪魔者とかを大魔王権限で消すのよ!私達は消さられないために必死になって最後の枠を埋まらないようにしてきてるの!」
最後の話を聞いてアジサイは目を閉じた。
「よく分かった。でも、うちの魔王様はそんなことをしない。それを証明するために味方にして目の前に連れて行ってやるよ」
目を閉じた状態でアジサイは刀を構えた。
それに合わせて敵も戦闘態勢に入った。
その直後に敵は周辺の異変に気付いた。
それについてアジサイが話し始めた。
「間に合って良かったよ。入り口を静かに閉めるのって苦手でね。だから、俺は話をして時間を稼ぎつつ情報と水を貯めた」
足元を見たメデューサは敵の適正フィールドを理解して叫んだ。
「ハピ!飛んで!」
「メディ!了解したよ!」
ハーピーは飛んで足元にたまりつつある水から抜けた。
どうやら入り口を閉ざしてこれを待っていたらしい。
アジサイはニヤリとして刀をメデューサに向けた。
「まんまと引っかかって話してくれてありがとさん。ここからは独壇場だ。派手に散れ」
メデューサはこのアジサイの言葉を聞いて焦って冷や汗を流す。
ガキと思っていたら自分の特徴理解してる立派な大人と一緒だったので舐めていた自分を後悔している。
「おのれ!私の目の対策までしやがって!死にさらすのはおどれじゃー!」
気づけなかったことを悔いて怒る。
そんな敵にアジサイは慈悲なんて与えない。
「怒って騒いでるとこ悪いけどさ。鬼流剣術『豪雨の無情』で黙ってな」
目をつぶったままの自分の剣術でメデューサは倒れた。
周辺の水を集めて一点に流れを起こす魔法を利用する剣術。
これは鬼の中に時々使える奴が生まれるらしい。
これを使えるアジサイはすごい奴なのだ。
「ひっ!メディが石化出来ずにやられた!なんでダンジョンのモンスターのクセして頭がいいの!」
空中から混乱するハーピーが色々と言っている。
アジサイは目を開けて次の型で攻撃を開始しつつ答えた。
「うちの魔王様は頭がいいんだよ!それが俺達の強さだ!鬼流剣術『乱流の雨』」
足元の水を刀に合わせて打ち上げる技だ。
これを乱発して何度か当てた。
たった数回でも鬼のパワーを持ってすれば空飛ぶハーピーも落ちる。
「おとといきやがれ」
クールにそう言うアジサイだが、内心は魔王に力が通用しなくても外の連中に通用したことを喜んでいる。
そんなアジサイは2人を引きずって魔王ロベリアの元に戻っていく。
その途中で一応他の2人を心配した。