眠らされた真相で
「西倉くんは、謝らないのね」
玄は静かに絢哉を見据えている。そう、確かに絢哉は仲間外れにしていたのに謝っていない。
「俺は騙されたんだよ、竹宮に。謝るのは、竹宮。それに、辛島だよ」
頑として被害者面を崩さなかった。
「今度は、ともみちゃんと、辛島くんを仲間外れにする気なの?」
溜息ついて、玄は呆れ果てている。
「以外と詰まんない男の子なんだね、西倉くんは。学級委員なのに、それだけでは気が済まないのかな。クラスの中心にしてあげているのに、まだ我儘を言うんだね」
玄の冷たい言葉が、教室中に突き刺さった。でもそれは全員が思っていることでもあった。絢哉は真っ赤な顔をして、怒り狂っている。だが、ここで理性を失くせば、予定通りの話が潰れてしまうのが分っていた。
「私は西倉くんの仲間になんか絶対にして欲しくないよ。そうされるのだったら、このまま仲間外れにされている方がいい」
「何で? 辛島と竹宮が悪いんだって」
何故虐められている玄が、そんなことを言ってくるのだと謎だった。黙って頷いていれば、仲間外れから解放されるというのに。
「ともみちゃんは、西倉くんと同じだよ。たぶん、お母さんから母子家庭のことを聞かされたんだと思う。お金を貰っているって聞いただけ。それをみんなに言っただけ」
だから、西倉くんが悪くないのなら、ともみちゃんも悪くない。玄はそう言っている。
朋美の表情がパッと輝いて、玄を見詰めているのを、絢哉は見た。気に入らない。そんなことは予定通りの話にはない。
「だったら、悪いのは辛島だけだ。辛島が一番悪いんだよ」
「そうかな? 一番悪いのは、西倉くんだよね」
「どうして俺が一番悪いの? 意味が分んないよ。そうだろう、みんな」
絶対に反抗しない仲間を見返して絢哉は豪語した。裏切れないように脅し付けている仲間は、クラスの殆どだった。
「ましろちゃんを一番に爪弾きにしようとしていたのは、西倉くんでしょ。だから遠足の時に、最初にましろちゃんにぶつかって―――」
玄は言葉を区切り、じっと真白を見詰めた。そして、申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね、ましろちゃん。私、言っちゃうよ」
真白の表情が固まる。真実を捻じ曲げて、自分自身でもそうだと思い込もうとしていたことを、玄が暴露しようとしているのだ。
「―――ましろちゃんに最初にぶつかって、顔に怪我をさせたのは、西倉くんだよね」
そこにいた隣のクラスの一同は驚愕した。しかし、クラスメイト達は誰一人として、顔色を変えるものはいなかった。
たった一人。絢哉だけが、顔色を蒼白に変えて全身を震わせている。
「違うよ。俺じゃないよ。辛島なんだよ。なぁみんな、そうだろう」
同意を求めて周囲を見回すが、誰も頷いてはいなかった。
「ねぇ、ともみちゃん。西倉くんがあの熊手を持ってぶつかって行ったのを見てたでしょ?」
朋美は驚愕した。こんなことを言ってこられるとは思ってもいなかったのだ。遠足であの直前に朋美は男子たちと一緒にいた。虫を投げ込まれた文句を言いに行っていたのだった。
そして、玄が言うように、確かに目撃していた。
「―――」
朋美は黙っている。簡単には返事が出来ない。出来るようなことではない。絢哉が怖いので、うんとは言えない。しかし、母子家庭のことをかばってくれた玄に、いいえとも言えなかった。
「ともみちゃん。正直に言ってよ、誰が一番悪いのかを」