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月と魔法の物語り  作者: Bunjin
七月十二日―――過去と未来と
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二学期の始まりで


 男子たちの共感を得て、クラスで女子の一番は竹宮朋美が二学期の間を維持し続けている。成績も一位になってからは、全員から一目置かれる不動の地位を築いていた。


 ただ朋美には、気に入らないことがある。玄と真白の二人だ。この二人はクラス全員から仲間外れにされたままだ。


 玄は朋美自らが、母子家庭の弱点を利用して排除することが出来た。そして、真白は顔の傷の罪に関してクラス全員に宣戦布告をしたが、それが好都合な結果になった。


 二人がそのままでいてくれたら、朋美の地位は安泰だった。グループの勢力は、クラスで一番大きい。一言でも朋美が言えば、各個人の意思はともかくとして、女子は全員が従えさせられる。玄と真白以外の全員なのだけれども、仲間外れにされている二人なんてクラスにとって居ないのも同然だから、別に気にすることでもなかった。


 それなのに、夏休みが終わって二学期が始まる頃から、玄と真白の背景が少しずつ変化している。そして、二学期が終わろうとしている今、朋美はもう無視していることも出来ない。そんな焦りを感じていた。


 学級委員の西倉絢哉は、昼休みになると隣のクラスの連中が、廊下の窓越しに教室に詰め掛けて来るのが鬱陶しくて仕方がなかった。クラスの一致団結が絢哉の学級委員としての役目だと心得ている。よそ者に来られていては、それが崩壊させられる。絢哉はクラスを統率することで、自己の権威を示して満足する類の人間だった。


 玄と真白が、隣のクラスの佐藤翠と親しくなっているのを知ったのは、二学期が始まって間もなくだった。廊下で三人が話し込んでいるのを毎日のように見掛けていた。クラスには居ない存在にしている二人だったから、ずっと無視を続けていた。


 それなのに、二学期が終わろうとしている今、絢哉は無視していることも出来なくなっていた。

 翠はクラスメイトたちを引き連れて、隣の教室の廊下の窓越しに話をしている時間が長くなった。隣のクラスの相手というのは、玄と真白の二人だ。最初は翠ひとりだけだったけれど、いつの間にか人数が増えていた。


 このところ大人っぽい雰囲気になった翠に誘われて、翠はクラスの女子たちばかりか、男子たちもそこに惹き寄せるのに成功していた。玄と真白のクラスがグループで固まってしまっている愚かな勢力図を、翠は破壊したかったのだ。


 勿論、こんなことをするのも真白の死を防ぐ為だ。虐められ続ければ、いつ自殺を謀るかが心配でならない。原因を無くしてあげなければ、ハルカの使命は果たせなかった。


「誰かが王様になろうとするから、こんなに嫌なクラスになっちゃうんだよ」


 クラス内に存在するグループ間の殺伐とした対抗意識が、こんなにも雰囲気の悪い原因になっているのが分らないのかと、翠は憤懣であった。


 絢哉には策略がある。クラスを掌握する為に、邪魔な隣のクラスの連中を排除する方法を何度も考えて、絶対にうまくいく自信を持っていた。


 隣のクラスの連中は翠を中心にしている。そんなことは一目見るだけでも分かる。仲間外れにしている二人を取り込んで、廊下側の席のクラスメイトたちは巻き込まれるようにして、隣のクラスの連中と仲良くしていた。その取り込まれたクラスメイトの一人が、実に好都合な具合に絢哉を成功に導いてくれるみたいにそこに存在してくれていた。


「随分仲良くなったね、私のクラスの子たちと」


 翠は廊下の窓から覗き込んで玄に話し掛けている。その隣で真白がにこにこして、隣のクラスの子たちが教室に入って来ているのを見詰めていた。窓際の席で談笑し合っている男子たちに混じって女子が二人いる。グループを作ってしまっているこちらの女子たちには出来ないことだ。共にクラスが違うなんて思えないくらいに仲が良かった。


「みどりちゃんのクラスって、変ってる子が多いね」


 相変わらず玄は抑揚のない声で言う。それが聞く人によっては冷たいと受け取られてしまう。


「そうかな。変わっているのは、こっちのクラスだと思うんだけど」

「嫉妬とか自慢とか。そんなことばかり考えている子って、普通なんじゃないの。クラスが同じになっただけで、みんなは私とは関係がない子ばかり」


「冷めてるね、はるかちゃん」

「前にも言ったけど、私は一緒にいなくても寂しくないって思える、そんな子が友達だと思うけど」


「そう言うのも有りなのかな。友達になるくらい仲良くなったのに、いなくなっても寂しくないなんて、あり得ない気がするよ。仲良くなったら、ずっと一緒にいたいって思うでしょ?」

「うん。だから、けっこう難しいんだよ、友達になるって」


 玄は真白を見て断言している。真白は正真正銘の友達だ。その視線を翠に移す。翠はどうなの? 正真正銘の友達になれたのかな? その瞳は尋ねている。翠はそう感じた。



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