希望の天体ショーで
「私たちって、仲間ではないよ」
真白は言いながら、翠に迫ってくる。普段大人しいという印象の真白が、玄よりも積極的に出て来ることは珍しいことだった。
「ましろちゃん、余計な事を言うんじゃないよ。佐藤さんは、隣のクラスの子なんだから」
「いいじゃない、はるかちゃんだってお友達が欲しいんでしょう。佐藤さんは、ちゃんと私たちを見て、話をしてくれているじゃない。もうお友達だよ」
そうか。そうなんだ。仲間じゃないんだ。仲間外れにするような仲間じゃないんだ。友達だ。友達は絶対に仲間外れにしない。クラスメイトは友達じゃない。仲間でしかない。だから、クラスの皆よりも、たった一人の友達が大切だと、あの時の玄は言っていたのだ。
ハルカは気が付いた。目の前の二人よりも、ずっと大人なのに気が付かされた。でも、二人は小学生なのだ。仲間外れにされて、気持ちが押し潰されていない筈がなかった。
《はるかちゃんが一緒に来てくれるなら、許してあげるよ。あそこに行きたいね。海と山があるよ。静かの海って名前、素敵じゃない?》
《ましろちゃん、一緒に月に行こうよ》
二人の会話を、ハルカは不意に思い出した。そして、あの時の記憶が映像のように、翠の脳裏に鮮明に映し出されるのであった。
真白の眼の下に並ぶ五つのホクロが、満月に向かって行くのが見えた。玄がその後ろ姿を追って、窓から飛び出した。月光が青白く輝く中で、真白と玄は教室の窓から転落して行くのだった。
玄が真白を殺したのではない。翠は震えていた。真白を追って、玄が落ちた。偶然に真白の上に落ちた玄は、真白の体がクッションになったから助かった。それでも右半身は酷い重傷を負うことになってしまう。右目と右耳、太腿の痣。そして、記憶を抹消させられるということ。それらはすべて、大切な友達を失うことへの代償だった。
「私は、友達になりたい」
翠は、真白と玄に言った。本当にそうなりたいと心を込めて言った。だから死なないで欲しい。使命なんて関係ない。本気で二人には死んで欲しくなかった。
「ほら、はるかちゃん。いいでしょ?」
「仕方ないな」
玄は冷たく言っている。真白はふんわりとした物言いだ。なるほど、二人の気は合っていない。翠はそれが可笑しくなって笑った。玄も真白も、何故だか楽しくなって笑ってしまう。三人が友達になった。
そんな気がした―――
月食が始まった。三人で観る天体ショーは素晴らしかった。少しずつ欠けていく月は神秘的だった。
ハルカはこれで使命が果たせたのだと安堵した。月の魔人ヘカテから、真白を救い出せたと喜ぶのだった。




