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月と魔法の物語り  作者: Bunjin
七月十二日―――始まりの日
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希望の天体ショーで


「私たちって、仲間ではないよ」


 真白は言いながら、翠に迫ってくる。普段大人しいという印象の真白が、玄よりも積極的に出て来ることは珍しいことだった。


「ましろちゃん、余計な事を言うんじゃないよ。佐藤さんは、隣のクラスの子なんだから」

「いいじゃない、はるかちゃんだってお友達が欲しいんでしょう。佐藤さんは、ちゃんと私たちを見て、話をしてくれているじゃない。もうお友達だよ」


 そうか。そうなんだ。仲間じゃないんだ。仲間外れにするような仲間じゃないんだ。友達だ。友達は絶対に仲間外れにしない。クラスメイトは友達じゃない。仲間でしかない。だから、クラスの皆よりも、たった一人の友達が大切だと、あの時の玄は言っていたのだ。


 ハルカは気が付いた。目の前の二人よりも、ずっと大人なのに気が付かされた。でも、二人は小学生なのだ。仲間外れにされて、気持ちが押し潰されていない筈がなかった。


《はるかちゃんが一緒に来てくれるなら、許してあげるよ。あそこに行きたいね。海と山があるよ。静かの海って名前、素敵じゃない?》

《ましろちゃん、一緒に月に行こうよ》


 二人の会話を、ハルカは不意に思い出した。そして、あの時の記憶が映像のように、翠の脳裏に鮮明に映し出されるのであった。


 真白の眼の下に並ぶ五つのホクロが、満月に向かって行くのが見えた。玄がその後ろ姿を追って、窓から飛び出した。月光が青白く輝く中で、真白と玄は教室の窓から転落して行くのだった。


 玄が真白を殺したのではない。翠は震えていた。真白を追って、玄が落ちた。偶然に真白の上に落ちた玄は、真白の体がクッションになったから助かった。それでも右半身は酷い重傷を負うことになってしまう。右目と右耳、太腿の痣。そして、記憶を抹消させられるということ。それらはすべて、大切な友達を失うことへの代償だった。


「私は、友達になりたい」


 翠は、真白と玄に言った。本当にそうなりたいと心を込めて言った。だから死なないで欲しい。使命なんて関係ない。本気で二人には死んで欲しくなかった。


「ほら、はるかちゃん。いいでしょ?」

「仕方ないな」


 玄は冷たく言っている。真白はふんわりとした物言いだ。なるほど、二人の気は合っていない。翠はそれが可笑しくなって笑った。玄も真白も、何故だか楽しくなって笑ってしまう。三人が友達になった。


 そんな気がした―――


 月食が始まった。三人で観る天体ショーは素晴らしかった。少しずつ欠けていく月は神秘的だった。


 ハルカはこれで使命が果たせたのだと安堵した。月の魔人ヘカテから、真白を救い出せたと喜ぶのだった。


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