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月と魔法の物語り  作者: Bunjin
七月十二日―――始まりの日
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奔走する森で


 ハジメと共に飛翔する先は、砦へと近付くにつれて不快な雰囲気が薄れつつあった。五大精霊の威厳が、空間を浄化しているのだ。魑魅魍魎どもの気配も、ここまで来れば感じられなくなっていた。


「ハルカ!」


 女の声が呼び掛ける。飛翔する二人に合流しょうとしていた。


「佐藤?」


 ハルカは高校のクラスメイトの佐藤の登場に驚いた。が、彼女は風の精霊の佐藤翠だと、すぐに気が付いた。既に魑魅魍魎どもと戦って命を落としてしまっている。アイがそう思い込んでしまっていたミドリが生きていた。


「ハルカ、よく来てくれました。私たちはあなたを待っていたのです。砦の奥は開かれている。あなたが行ってくれれば、この戦いはそれで終わりです」


 ミドリは、ハルカの到着を喜んでくれた。この世界で初めて出会うミドリは、ハルカの予想通り妹思いの優しいお姉さんだった。たぶんアイが同行していると思っていたので、周囲を探しているのが分った。


「ごめん、佐藤。アイは私たちを先に行かせる為に、敵と戦ってくれているわ」

「いいのです。それがあの子の役目です。気にせずに、先を急いでください」


 ミドリが一礼して、ハルカたちを通した後、アイが戦っている空へと向かって行った。その行く手の空間から風の精霊の非常に強い気迫が伝わってくる。ミドリは風の精霊の神社に近付くほどに、アイが強い呪力を発して戦っている状況を感じていた。


「藍、待てて。すぐに助けに行ってあげるからね」


 風を斬り裂き超高速度で移動するミドリは、空間を異常なまでに歪みを起こさせて飛んでいる。速過ぎる速度が摩擦熱で空気を燃やしてしまっていた。


 !


 ミドリは見てしまった。神社があったであろう聖域で、ミドリは見てしまったのだった。


「藍?」


 三体の甲冑兵が倒されている境内から少し離れた場所。そこは本殿の裏の山へと続く聖域の森の中だった。


「藍なの?」


 右腕が肩から胸に斬り裂かれて、だらりとぶら下がっていた。左脚も太腿が深くえぐり取られて、今にも落ちそうにゆらゆらと揺れている。太古から森を守って来た神木に、腹から大鎌を突き刺されて、その肉体は結い付けられていた。


「本当に―――藍なの?」


 高い神木の幹の中央で、腹を串刺しにされて浮いている。その姿はまるでお辞儀をしているかのように、顔を伏せていた。さらさらだった髪が、べったりと頭皮に貼り付いている。


「藍―――なの?」


 信じたくはないのだ。実際に目で見ていることを信じたくはないのだ。否、信じられないのだ。有り得ない。この世の中で、こんなことは絶対にあってはならないことだった。


「藍!!!」


 アイが死んでしまった。

 アイが逝ってしまった。

 アイが亡くなってしまった。

 アイが・・・

 アイが―――


 ミドリの悲鳴が森を駆け回る。ミドリの嗚咽が森を奔走する。たった二人きりの姉妹は、ミドリ一人きりになってしまった。


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