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月と魔法の物語り  作者: Bunjin
七月十二日―――始まりの日
68/101

荒涼の大地で


 くるくる、くるくる、くるくる。

 くるくる、くるくる、くるくる。


 世界を隔てる境界の入口が出現する。精霊族の領土は、不快で薄気味悪い雰囲気で充満していた。入口を通過するのは、余程の覚悟がなければできない。身の毛がよだち、恐怖に支配されて怖気づいてしまう心を平常に保つのは尋常なことではなかった。


「一気に砦まで行きますよ」


 アイはハジメにそれでいいかと目配せした。ハジメの魔力でハルカと共に飛翔してもらって、五大精霊たちが待ってくれている砦に急ぐことにした。既にヘカテの最後の防御壁を残す状態に達してくれている筈である。あとは自分たちが辿り着くだけの筈だ。


 風の精霊の神社を越える。風の双天龍の呪術を使って、魑魅魍魎どもを倒した代償はあまりにも無残だった。破壊された瓦礫さえも残っていない荒涼とした大地は、断層が剥き出しになった無機質な断面しか残ってはいなかった。


 でも、この時には姉のミドリがいてくれた。共に闘ってくれていた。それなのに今は―――たぶん生きてはいないだろう。


 悲しみだけが、アイに襲い掛かる。だが、今はハルカだけに専念しょう。ハルカを砦に連れて行くことだけを考えよう。それがミドリから託された願いなのだ。


 !


 アイはそいつらを発見した。


「ハジメさん。絶対に止まらないでください。何があっても、このまま真っ直ぐに砦に向かってくださいね」


 命令と受け止めてくれても構わない。アイは風の精霊として、ハジメに強い口調で言い放っていた。三体の甲冑兵が出現していたのである。大鎌を振り上げるそいつらは、三人の記憶にこびりついているそれに他ならなかった。


 ハジメはハルカを心配した。当然だ。ハルカの首を大鎌で斬り落としたのは、あの甲冑兵どもだ。自分が殺される瞬間を思い出して、ハルカが自我を壊されてしまわないかと不安でならない。


「ハルカ。ハルカ」


 ハジメの呼び掛けに応えない。寄り添って飛翔している体に、ハルカの震えが伝わっている。明らかにハルカは恐怖していた。


「ハルカ」


 手をしっかりと握って励ますと、ハルカはそれに応えて力強く握り返してくれたのだ。


「ありがとう、ハジメくん。私は大丈夫だよ」


 ハジメには、ハルカが無理をしているのが分る。しかし、それ以上に分かるのは、ハルカの強い思いだ。世界を救いたいハルカの願い。その中には、マシロを救いたという強い願いがあったのだ。


「私があいつらを食い止めます。お二人は先に行ってください」


 アイは覚悟を決めている。甲冑兵どもはこの世界に戻っている今では、本来の力を使ってくる筈だ。アイはそれを感じ取っていた。あちらの世界では、ハジメが魔力で甲冑兵を二体までは撃退できたが、今回はそれが出来ないだろう。だが、ハジメがそれを知らずに戦うことが危険だ。以前と同じと思い込んで戦えば、必ず殺されてしまう。


「すぐに追いつきますよ。私は風の精霊ですよ。絶対に負けません」


 赤銅色の月が、僅かに輝きを増してきている。皆既食の終了が間近に迫っていた。アイは三体の甲冑兵の進路上に留まった。


「アイ。私も絶対に負けない。私たちの願いが叶った世界で、また会いましょう。」


 ハルカが精一杯の声を出して、アイに叫ぶ。共に願う世界での再会を誓って、別れを告げるのだった。



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