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月と魔法の物語り  作者: Bunjin
マシロ
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校外学習で


 一学期の校外学習は、ハイキングコースになっている山を一周する遠足だ。

学校を出て電車で二駅すると、目の前の公園から山の池までのコースが園地になっている。

山の周囲にはこのような園地が幾つもあって、里山緑地園として統合されていた。


 散策道は二つあって、ファミリー向けのコースがまだ小学生だった私たちにはぴったりだった。

湿性植物や野鳥を観察して、翌日の授業で水彩画を描くことが課題になっていた。

季節は日中が汗ばむほどの気温になる頃だが、ここは緑を抜ける風が気持ちいい。

よく整備された山道はとても安全で、小学生たちが安心して歩ける場所だった。


 私はグループの中にいる。

クラス別にまとまって歩いているけれど、自然と女子が前を進んで行くようになっていた。

男子が道草ばかりして、なかなか追いついて来ないのだ。

課題ではない昆虫を捕って来て、女子を驚かそうと企んで遅れているからだった。


 玄ちゃんが、その間を一人で歩いていた。誰もいないクラスの空間にいる。

女子たちのグループに入れてもらえず、もちろん男子たちにも相手にされていなかった。


 昆虫を捕って来た男の子は、玄ちゃんを無視して通り過ぎ、その先の女子グループに虫を投げ込んで来た。キャーキャーと騒ぐ女の子たちに満足して、男の子はまた元に戻って行く。その間にいる玄ちゃんがいないかのように無視して、また通り過ぎて行く。


 その後を朋美ちゃんが追い掛けて行って、男子たちに文句を言っていた。

この時の朋美ちゃんも、もちろん玄ちゃんを無視している。


 私は玄ちゃんが気になって仕方なかった。

誰も相手にしないとクラス中が決め込んだからなのか、玄ちゃん自身もそれに応じてしまっている。まるで当たり前のように悲しい表情ひとつせずに一人になっていた。


 どうしてなのって思う。


 そんなに簡単なことなのだろうか。

仲間外れを受け入れるって、出来ることなのだろうか。

心が苦しい筈だ。


 それなのに、玄ちゃんはどうして上を向いていられるのだろうか。


 私は集団登校で嫌な思いをしている時、いつでも下を向いている。

そうだと分かっている。

教室にいる時も、朋美ちゃんに睨まれている気がして俯いてしまう。


 何故?


 弱気になるとか、気が滅入るとか、がっかりするとか、俯いてしまう理由はたくさんある。

でも、どれも違うと思う。どうしていいのか分からないから?かな。


 さっきの戻った男の子が、男子たちの中で指を差していた。その指先が玄ちゃんに向けられている。


 私は何だか悪い予感がした。


「清水、????」


 男子たちが玄ちゃんに詰め寄って、何かを言っているけれど、私にはそれが聞き取れなかった。


「????」

「??????」


 攻撃が始まった。

水筒のお茶を玄ちゃんは頭から浴びせ掛けられた。咄嗟に玄ちゃんは腰を曲げて、服が濡れないように頭を低くしたけれど、それが余計にいけなかった。もっと掛けてくれと言っているように見られたのだ。男の子たちは玄ちゃんを取り囲んで、周りからは何をしているか分からないようにして、全員の水筒が無くなるまで掛け続けていたのだった。


 一瞬の出来事で、私は息が出来ないほどの衝撃を受けてしまった。男子全員が笑っている。口元を醜く歪ませて、声を殺して笑っている。


 只でお金を貰っている制裁だから? 


 でも、そんなことを働いてお金を稼いでいない小学生がする権利がない。それにそんなことは大人が決めた制度なのだから、子供が子供同士で何も出来ない筈ではないのか。


 あなたたちは間違っている。

 そう、私は叫びたかった。



『真白ちゃん、頑張れ』

 私は自分を励ます。

『頑張れ、頑張れ、真白ちゃん』


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