正直な心の中で
「その子はね、何でも自分が一番でならなきゃいけなくなったのね。
だからね、成績もクラスで一番じゃなきゃ許されなくなったの」
私は、はたと気付いた。
玄ちゃんは成績がトップだったと女の子たちが言っていたことを思い出した。
そうだとしたら、わざと馬鹿な振りをしていることになるではないか。
「その子はこのクラスにいるの?」
「いないよ。だから、私はグループに入らされたの」
入らされたと言う。その意味が私には分らなかった。
「そう思っただけなの?」
「えっ?」と、玄ちゃんが訊き返した。
「私がお母さんみたいって言ったでしょ?」
私は最初の話を蒸し返した。
母子家庭の玄ちゃんがお母さんと言うからには、
私が思っている母親像とは違うと感じてしまったからだった。
玄ちゃんは私の顔を覗き込んできた。ふぅんという表情をしている。
「もう一度訊くのって、思っただけって答えは気に入らなくなったからなのね。
それはね、中岡さんも私が母子家庭の子だからと思っているからね。そうよね」
私は胸が締め付けられる気がした。苦しくて吐き気がする。
そんなつもりで言ったことではないのに、玄ちゃんには差別されているのだと受け取られてしまった。
どうすれば分かってもらえるのだろうか。
私はそんな誤解をされたままでいて欲しくない。
たったいま知り合ったばかりなのに、この誤解は決定的な亀裂になってしまう気がした。
でも、どうしていいのか分からない。
自分の本心を表現することほど難しいことはない。
戸惑いながら考えていると、何故か勝手な事を言う玄ちゃんに腹が立ってきた。
私がどう思っているのか分かりもしないのに、どうして私が差別しているのだと決めつけてしまうのだろうか。
こんな思いをさせて私を苦しめている玄ちゃんこそ、虐める側にいるのではないのか。
悔しい。悔しい。悔しい。
どうして。どうして。どうして。
私は自分を励ます。
『真白ちゃん、頑張れ』
『頑張れ、頑張れ、真白ちゃん』
私は唇を噛み締めながら、涙が溢れてしまうのを止められなくなった。
もうすぐ昼休みが終わるというのに、自己制御ができなくなっていた。ハンカチで顔を隠して、朋美ちゃんたちに悟られないようにするのが精一杯だった。
もしも私が玄ちゃんに泣かされたとばれると、その後に起こる事態は目に見えていることだった。私が原因で玄ちゃんが仲間外れにされるわけにはいかないではないか。
「あぁ、嫌だ。目にゴミが入っちゃったよぉ。痛いよぉ」
大袈裟に騒いで、私は窓際の席に戻った。
朋美ちゃんたちがくすくす笑っている。同じグループの奈央ちゃん、啓子ちゃん、志保ちゃんの三人も朋美ちゃんと同じ顔をして笑っていた。
でも、玄ちゃんは、笑ってはいなかった。




