正直に言えない心の中で
「ふぅん。どうして、仲間外れにされたの?」
そんなことを訊くつもりはなかった。
なかったのに、思っていることを素直に言えない私がいた。
「清水さんに原因があったのでしょ?」
私はこうして自分よりも弱い人を傷付けている。
これが虐めに繋がっていくことを、私自身を通して知っているのに、一番嫌なことを私はしてしまっていた。
私は虐められたくない。
それならば、虐められる役を作るしかない。
一人の犠牲者がいてくれれば、五年生の私は幸せにいられる筈だった。
「中岡さんは、爪弾きにされたくないもんね」
玄ちゃんは小首を傾げて微笑んでいる。
私は心の中を覗かれて、笑われている気がした。
虐められたくないから虐める。それを見透かされたと思った。
「爪弾きにされた理由、何故だか聞きたい?」
玄ちゃんは、今度は声を出して笑い始めた。
虐められるのが嫌ではないのだろうか。
理由を言って、もっと仲間外れになるかもしれないと考えないのだろうか。
「自分でどうしてそうなったのか分かってるんだね。すごいね」
私は悪いことをしている。訊いてはいけないことなんだ。
違うんだよ、玄ちゃん。
あなたの秘密は絶対に他人には言ってはいけないんだよ。
何度も何度も、そう言おうとしたのに。
「教えてよ、どうしてなの?」
他人に言いたくないことを言わせるって、気分がいいものだ。
こいつよりも自分は上位にいる。優位に立つと、そこから見える世界は違って見える。
「私は母子家庭なの」
にっこりと笑う玄ちゃんは、それが他人に劣るものだとは思っていない表情をしていた。
それどころか誇らしく胸を張っている。
「ボシカテイ?」
私は聞き慣れない言葉に戸惑っている。
意味が分らないわけではないけれど、そんな家庭の子が私の周りにいるなんて考えてもいないことだったから。
「うん!」
玄ちゃんがじっくりと私の表情を観察している。
果たしてこれを聞いた私が今までの子たちと同じように、自分を仲間外れにするのだろうかと見ているんだと感じた。
「中岡さんは、私を欠陥品だと思う?」
悲しい笑顔で玄ちゃんは笑っている。笑顔が悲しいなんて、私は初めて見た。
「私はね、
前のクラスの子の家に遊びに行った時にね、
あなたは母子家庭だから、
ちゃんと教育されていない子は帰りなさいって、
その子のお母さんに言われたのね。
だから、
その時からその子は私を爪弾きにしたんだ。
それが、私が弾かれた理由だよ」
あなたはどうするの? 玄ちゃんの笑顔はそう尋ねていた。