玄と出会ったグループで
清水玄っていうクラスメイトがいる。
学級名簿に「玄」と書いてあったので、「げん」という男の子かと思っていたら、意外なことに女の子で、「はるか」という名前だった。
四年生で同じクラスだった子が話しているのを聞いていると、魔法使いを夢見てる変わり者らしい。いつも近所の下級生の女の子と遊んでいて、誰もよく分からない存在だった。
「隣のクラスの佐藤さんの妹と魔法使いごっこをしているんだよ」
「えー。五年生にもなって、まだ魔法使いってどうなのよ」
「おバカさんなの?」
「んんー。四年生の最初くらいまでは、クラスでトップの成績とっていたんだけどさー。あっと言う間にみんなに追い抜かれたのよー」
「あぁ、あれだよね。勉強が難しくなってついて行けなくなったっていうヤツ」
「そー。それそれー。ずばり、それー」
私の前で好き勝手に言っている女の子たちのほうが、馬鹿に見えるのだった。
玄ちゃんは私がいる朋美ちゃん率いるグループに入っている。何となく気があったからなのか、ただ誘われただけだからなのか、家がある方向が同じだからなのか、朋美ちゃんは何と言って玄ちゃんを誘ったのだろうか。
いつもグループで一緒にいる。三人があとから入って来たけれど、すぐにこの内の二人が抜けてしまって、結局六人になった。最後に入って来たのは、関口志保ちゃんだった。この子はちょっとお調子者みたいで、朋美ちゃんの気を惹くことばかり言っていた。きっと抜けた二人がこの子を押し付けて行ったんだと、私は思う。今は朋美ちゃんも嬉しそうにしているけれど、上辺だけのお調子者が好きな筈がないと知っているからだった。
でも、そんなことは私にはどうでもいいことなんだけどね。
クラスの女子たちは、皆が何処かのグループに所属していて、一緒の教室にいるのに他のグループの子と話をすることはなかった。男子たちもグループを作っている子もいるけれど、一人でいる子も多いし、幾つものグループにも入っているっていう子もいた。そんな男女差があるのを、私は面白く観察している。
「中岡真白さんは、お母さんみたいだね」
ある日の昼休みの、それが清水玄ちゃんから掛けられた初めての言葉だった。聞き様によっては失礼な言い方だと思った。
お母さんって、何?
「どうして?」
「分かんない。そう思っただけだから」
「ふぅん」
何が言いたいんだろうか。
聞き難いと思っていたけれど、玄ちゃんがどんな子なのか知りたくなった。
「清水さんは前のクラスで仲のいい子とかいなかったの?」
「――― 私ね。爪弾きにされていたから、そんな子いないよ」
余りにも明るく話す玄ちゃんの声に、私は言葉の意味がすぐには理解できなかった。仲が良くない子なんかいないよ。そう聞き間違えたのかと思ってしまった。
爪弾きにされていたと言うことは、つまり仲間外れにされていたって言うことだ。クラス全員から虐められていたのだろうか。仲良しの子がいないというのは、そういうことなのだろうか。
私は集団登校の時に虐められている。朋美ちゃんが私にあんな態度をするのは、あの班にいるときが特に酷かった。班長の男の子を模倣していて、この忌まわしい関係になっていた。
だから、清水さんの気持ちが分かるよ。
そう言ってあげれば、私は玄ちゃんと仲良しになれたのだろうか。
でも、―――




