クラス替えをした教室で
私の教室は木造校舎の三階にある。北側のクランク型に曲がっている廊下に連なっていて、クランクのこちら側が五年生であちら側が六年生になっている。
廊下は広くて、教室もゆったりとしていた。南側の壁一面が天井まである窓があって、カーテンを開け放つと遮蔽物が何もなくとても明るい。
窓から顔を出して身を乗り出すと、上体を出すことが出来て、隣の教室が覗けそうだった。上級生は背が高いので、落ちないように注意喚起されている。
しかしそれを守っている児童なんかは誰もいない。柵が付いていない窓から身を乗り出すと、景色が良いだけじゃない。ハラハラでドキドキする素敵な場所だったからだ。
朝の集団登校の大仕事から解放されると、私は窓際の一番前の席で漸く一息つくことができた。言うことを聞いてくれない周くんを抱きかかえていたものだから、右腕が痛い。落ち着いてきたら、いろいろな不満が心に湧いて来て、嫌な気分になってくる。
いい加減に集団登校なんか止めてほしいと思う。通学路には先生や保護者たちが監視しているので安全だし、もしもの時には上級生が何かするよりも大人がするべきだと思っていた。監視カメラだってある。不審者が現れた時、それに対して小学生にどうせよというのだろうか。責任感で不審者に対抗しろというのだろうか。巻き添えにあうかもなんて恐れてはいけないのだろうか。
だから、先生に集団登校なんて必要ないです。そう言ってやる。思い切り言ってやる。大人が押し付けてくることは、私たちにとっては負担にしかならないんです。多大な責任を押し付けられて、登校するのが嫌になることだってあるんですよ。身勝手な班長の六年生や不服従の二年生なんかの面倒なんて見たくないです。
そう言えたら、どんなにか気が楽になれることだろうか。
『真白ちゃん、頑張れ』
私は自分を励ます。
『頑張れ、頑張れ、真白ちゃん』
朋美ちゃんが廊下で里緒ちゃんと手を振って別れて教室に入って来る。窓側から二列目の後ろの席に鞄を下ろすと、私は何だか睨まれた気がしたので、首をすくめて机の中の教科書を出す振りをして視線を逸らせた。
私は朋美ちゃんが怖い。教室では、何も意地悪をされているわけではないけれど、いつも命令口調で話し掛けられるので、体が勝手に委縮してしまっていた。
出口奈央ちゃんと水谷啓子ちゃんがやって来た。朋美ちゃんと気が合う三年生の時からのクラスメイトだった。私だってそうなんだけど、気が合うって言うのがちょっと違っていた。服従しているって言う気分かな。
五年生に上がる時に二年毎のクラス替えになって、この四人がまた一緒になった。今は一学期が始まったばかりで、朋美ちゃんはグループに入れる子を探している最中だった。大きなグループにするのが重要な課題らしい。既に敵対する大きなグループが出来上がってきそうで、小さなグループではクラスでの肩身が狭いらしかった。
焦っているなぁって、私は朋美ちゃんを見ていて思ってしまう。
グループの大きさが、クラスでの力関係になる。国会の派閥がどうのとか言うニュースがあると、何だか自分たちと同じことをお偉い大人たちもやっているんだなぁって馬鹿みたいな気がしてならなかった。
だって、私には友達なんかいない。そう思っているからだった。




