集団登校の通学路で
四月十二日は、遅咲きの桜の花びらが舞っていた。
集団登校の通学路では、六年生の男の子が先頭になって班を率いて行く。よその班に追い越されないように競いながら学校へ向かっている。それが班を率いることだと、大方の男の子の班長たちは考えていた。だから、私は小さい子たちが遅れないように気を遣いながら、いつもトボトボとその後をついて行くのが精一杯だった。
「遅れんなよ、中岡」
班長に叱咤されると、クラスメイトの竹宮朋美ちゃんのくすくすと笑う声が後ろから聞こえてきた。仲の良い隣のクラスの里緒ちゃんとお喋りをしながら、班の一番後ろで副班長として歩いている。
でも、小さい子たちの世話をしているのは朋美ちゃんではない。いつだってお喋りをしているだけで、面倒事は私に押し付けてくる。
「ほらほら、しゅうくんがまた脱走したわよ」
朋美ちゃんが鼻で笑いながら言った。周くんは落ち着きが無い悪ガキで、上級生の言うことなんかには歯牙にも掛けない性格をしている。少しでも目を離すと何処に行くのか分からない二年生だ。四年生の周くんの姉がいるけれど、私と目を合わさないように、いつも下を向いていた。
「何やってんだよ。しゅうくんに何かあったら、お前のせいだからな」
班長が私を叱責する。
どうして?
責任があるのは班長ではないのですか。私はちゃんと一年生の面倒を見て、二人の子と手を繋いでいるんですよ。私はそう言い返したくなった。
でも、私の口から出るのは、そんな言葉ではなかった。
「ごめんなさい」
何故か謝っている。私がしなければいけないことは、ちゃんとしているのに。
「ほら、早く追い掛けなさいよ。責任問題だよ」
副班長の威厳で朋美ちゃんが命令してくる。私は思わず周くんの姉を振り返った。それなのに知らん顔をして、私を見ようともしなかった。
「何をしているのよ、ましろちゃん。下級生に追い掛けさせる気なの? それこそ責任問題だよねぇ」
「そうそう、責任問題だねぇ」
里緒ちゃんが同調して、私を責めてきた。
「ごめんなさい。一年生を見ててあげて」
「あんたって、ホント役立たずね。ほら、三年生と四年生。一年生を見ててあげなよ」
「ありがとう、ともみちゃん」
自分では何もしない朋美ちゃんにお礼を言って、私は周くんを追い掛けた。周くんの姉が心配そうな顔をしている。でも、私を見ない。ずっと下を向いたままだった。
私には理由が分かっている。
どうして私と目を合わせないのか知っている。
四年生にもなれば、この班での私の立場に気付いている筈だ。副班長の朋美ちゃんが私に何をしているのか理解しているから、目を合わせない。
違う。
目を合わせられないんだ。
私のようにされるのが怖いんだ。
だから、仕方ないと私は思った。